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17 『創造』

「あー疲れたぁ」


 初めてのギルドでの依頼を終え、ベッドにダイブする。


 散々な1日だった。が、思ってたよりも儲かった。


 オトギ草は袋1つでも銅貨4枚で買い取ってくれた。普通の薬草の倍の値段だ。キングイナゴは昨日行ったお店で銅貨5枚で売れた。意外に高くて、びっくりした。


 ただ、やっぱり調子に乗ったら駄目だな。森に入らなければ、こんなにボロボロになることもなかった。まあ、服に関してはあんまり破れたりはしてないから、買い直すまではしなくても良さそうだけど、場合によってはマイナスになりかねない。


 ベッドに寝転びながら、なんとなく『灯火』を使う。ぼっ、と手のひらの上に小さな火が生まれる。


「ふっふっふっふっふ...」


 使える。気のせいじゃない。これは魔法だ。


「やべぇ」


 ハルもすごいって言ってた。俺には才能があるかもしれない。


 もしかしたら、ものすごい魔法使いになれるかもしれない。


「ふっふっふっふっふ...」


 笑いが止まらん。


「うまそうな匂いがするじゃねぇか」

 

「うおっ!?ってメシアか。びっくりさせないでくれよ」


 見ると、カバンから顔だけを出したメシアが、もぞもぞと這い出し、こちらに跳んでくる。


「いただき」


 俺の『灯火』をそのままパクりといくメシア。


「いい味じゃねぇか。ま、もともと俺様のマナなんだから、当然か」


 ったく、自由なやつだ。


「ちょっと聞きたいんだが?」


「あん、何だよ?」


「俺ってなんでスキル使えるんだ?」


「は?どういう意味だよ」


「いや、俺って別の世界から召喚されたわけだし、よく考えたらマナなんか体内にあるのかなーって思って」


「この前に言ったろうが。召喚したときにマナを使って、体を再構成してるってよぉ」


「おお、確かに言ってたな」


 そうだった、だから見た目が若くなってるんだった。


「前の世界ではどうか知らねぇが、今はお前自身がマナそのものなんだよ」


 なるほどな。だからマナがあるのか。


「って、俺自身がマナそのものってのはなんだ?どういう意味だ?」


「意味?わかんねぇが、まあ、周りとの差ってんなら肉体がないことだな」


「は?いや、あるだろ」


 俺は体を触って確認する。確かにあるぞ。


「そりゃあるだろう。ただ、それはマナで作ったもんだ。今の俺様の体と一緒でな。別に何の問題ないだろうが」


「いや、あるだろ。問題...」


 ...えっ、ないのか?別に生活は普通にできてる。ごはん食べて、トイレして寝る。引っ掻いたところからは血もでてるし、痛みもある。あれ?ってか、ほんとに肉体ないのか?


「...それもスキルなのか?」


「そうだぜ、相棒。手ぇ、開けてみ」


「なんだよ」


 言いつつも言われた通り手を開ける。


「で、そのままさっきの『灯火』の要領で、次は今の俺様の体くらいの火を想像してみろ」


 えっ、メシアくらいの火?


 急に言われてなんとなくサッカーボールくらいの火の玉が頭の隅をよぎった。『灯火』の要領でって...もしかしてできるの?


 思いながら、マナを集中させる。瞬間だった。ぼぅ、と激しい閃光と共に人の顔くらいはある火球が手のひらに生み出される。


「うわっ!?」


「はっはー、いただき!!」


 そこにメシアが飛び掛かる。


「うんめぇ、こんな方法があるとか思いつかなかったぜ」


 一瞬で火球がメシアの胃袋?に収まり、光が収まる。


「な、なんだ?どういうことだ?」


「くはは、びびったか?これが俺様のオリジナルスキル『創造』だ。マナと想像力さえありゃあ何でもできる。スキルにないもんでもな」


「ま、まじかよ!?」


「現代スキルしか使えねぇ、今の奴らとは違うんだ。相棒を召喚したとき、意識を同化させてこの力で肉体を作った。これでわかったか?」


 俺はメシアの言葉に頷く。そして、気になることがある。


「俺もその『創造』が使えるってことでいいんだよな?」


「そうだ。ただ1つだけ注意しろ」


「なにをだ?」


「俺様も相棒も肉体がねえ分、自らの体内でマナを生成することができねぇ。それは自力ではほとんど回復できないってことだ。特に相棒の場合、マナの完全枯渇はイコール死だ。俺様は何千年か寝ればまた戻るがな」


「えっ、何それ?聞いてないんですけど?さっきの火球とか大丈夫か?」


「くはは、びびんな、びびんな。大丈夫だ。基本的には自動でストップがかかる。体を維持できないほどのマナは使えねぇ」 


 ほっ、とりあえずは大丈夫みたいだな。


「ただ、じゃあどうやってマナを回復すればいいんだ?」


「体の維持だけなら、その辺の微量のマナと飯だけでじゅうぶんだ。食べ物はその生物の体内にあるマナを取り込める」


「なるほど」


「もし、スキルを使いたいなら誰かのマナを奪え」


「奪う?」


「ああ。俺様のもう1つのスキル『吸収』だ。マナで構成されたものなら、全て取り込める。相手のスキルでも直接でも何でもいい」


「『吸収』って、いつもメシアがやってるやつか?」


「そうだ。今の俺様の場合、この体を維持するためだけのもんだがな」


「簡単にできるもんなのか?」


「慣れりゃ簡単だ。けど、ま、当分そんなもんいらねぇ。俺様のマナの大半を持って行ったんだ。ポンポン放出系のスキルを使わなけりゃ、大丈夫だ。それはまたおいおい教えてやるよ」


「いや、早めに教えてくれ」


 もしかしたら、命に関わる。


「わかってるって」


「ほんと、頼むからな。あと放出系のスキルってなんだよ?」


 これも聞いておかねばなるまい。


「さっきの火球とかだよ。外に顕現させるタイプのスキルはマナの消費が激しい。スキル使いたいなら、『強化』とかにしとけ」


「『強化』か...」


 それはそれでありだな。すごい早さで動けたりしそうだし。夢が広がるスキルだ。


「俺様たちは肉体がない分、マナの限界と『強化』の上限がねぇ。楽しいぜぇ、マナを必要以上に溜めたときの『強化』はよぉ」


「それは楽しそうだな。ただ、限界とか上限ってなんだよ?」


「何もしらねぇな」


「しょうがないだろ。別の世界から来たんだから」


「はあー、ったく。肉体のあるやつは体内のマナの限界値があるんだ。だから、現代に『吸収』なんてスキルはなくなった。『強化』も一緒だ。そいつの肉体が耐えれるとこまでが上限だ。わかったか?」


「なるほど、たぶんわかった」


 その個人によってマナの保有できる量や、肉体の強さによって『強化』の限界があるってことだよな。そらが俺らにはない、と。ってことは無限に強くなれるってことか。


「じゃ、腹も膨れたことだし、寝るわ」


「ああ、おやすみ」


 言いながら、誰かにおやすみ何て言うの何年ぶりだ?ってちょっと思った。


 そのままごろんと、ベッドに横になる。


 使えるスキルは『創造』と『吸収』の2つ。マナさえありゃあ何でもできる『創造』とそのマナを補うための『吸収』。おそらくはものすごいチート能力だろう。


 マナがなくなったら死ぬなんてびびらされたが、普通にスキルを使うくらいじゃ大丈夫みたいだし、余裕ができればいろいろしてみたい。


「いやぁ、なんかいろいろ楽しくなってきた」


 俺は呟いてその日は眠りについた。


 それから、1ヶ月くらいだろうか。毎日、薬草の採集の依頼をこなした。


 『吸収』の使い方を聞いたが、使う対象がないので、とりあえずチャンスを逃さないために感覚の練習だけはしている。


 同時に『強化』のスキルも練習して、ある程度使いこなせるようになってくると、欲がでる。 


 討伐系の依頼を受けてみたいなぁ、と思ったのはその頃からだった。






☆☆☆






[ロンメル視点]



 町からは少し離れた場所。森林地帯の奥深く、そこには行商人に扮した者たちのキャンプ場があった。


 ゲル形のいくつかのテントが並ぶ、その中の一角。


 定期連絡のために訪れた場所。


 テントの中には女がいる。名はネネァ。連絡を取り合う相手だ。浅黒い肌に黒い瞳、たれ目で左目に泣きぼくろがあり、黒髪ロングヘアーで全体的に白っぽいゆったりした格好をしている。


「お久しぶりぃ」


 ネネァが私に向かって手を振る。


 何を能天気に、と少しイラッとした。私はこのいい加減な女を好きではない。


「...始めますよ」


「何よぉ、つれないわねぇ」


 私はその言葉を無視して、定期連絡を始める。


 連絡事項は主にイシスエの町周辺の村について。確定事項とともに次に予想される場所など、私の見解を織り交ぜて伝える。


「それでいいわ」


 ネネァが私の意見に同意する。次に向かう村があっさりと決まった。


「そうですか。それではネネァ殿からは何かありませんか?」


「特にないわねぇ」


「...行った村の様子とか何か変わったこととかありませんでしたか?」


「ないわねぇ」


 なんのための定期報告か。本当にイラッとする女だ。


「...今回は私も参加します」


「えっ、なんで?」


「ドラウ殿はああ見えて中々鋭い。私のことが露見するのも時間の問題でしょう。今回を最後に私も帰ります」


 ここ最近、行動を急ぎすぎた。あとの村の者には悪いが、これ以上は自分が危ない。


「心配しすぎじゃないの?」


「...あなたのせいでもあるんです」


「どうして、わたしのせいになるの?」


「あなた、種族スキル『始祖』使いましたよね」


「いや、使うわけないじゃん」


「私の用意した黒のローブもお脱ぎになったようですね」


「...ん?いったい何の話をしているの?」


「数日前、あなたが行った村にいたという男性が町に来ました」


 その言葉を聞いてネネァの額に冷や汗が浮かぶ。この女の焦った顔を見れただけで、色んなことが帳消しになりそうだ。


「どうしました?冷や汗が浮かんでますよ。どうやら心当たりがあるみたいですね」


「...いやぁ、全くないわねぇ」


「村のリストにいなかったから、逃したのに言わなかったんでしょう?帰ったらしっかり報告しますから」


「なんで、そんな意地悪するのよぉ」 


 ふざけんなよ、こいつ。


「確証がないため正式にはでてませんが、その男性の目撃情報はギルドでは共有しています。もう商人としてイシスエの町に入るのも禁止です」


「...ロンメル君は知らないから」


「は?何をです?」


「『始祖』使ったときの解放感を!」


 ネネァが両腕で自分の体を抱き締める。ゆったりな服の上からでも、豊満な胸が強調された。


「めちゃくちゃ気持ち良いんだから!ロンメル君もすればいいじゃない!」


「できませんし、やりません」


 こいつ、開き直りやがった。本当になんて女だ。


 が、まあ、少しだけ溜飲が下がった。


「10日後に村に着くように向かいます。村の少し前で合流できるようにしますから。準備して向かってください」


「わかったわよぉ」


 私はその返事を聞いてキャンプ地を後にしたのだった。

 



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