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16 薬草の採集

 すみません。


 マナ探知→『探知』へと表記変更しました。

 

 だいたい30分くらいで対岸に到着し、小舟を降りた。


 川のそばは膝くらいの高さの草花の生える草原が広がっていて、奥の方は草木の生い茂った森林地帯になっている。


 俺は『灯火』を使えたことが嬉しくて、さっきから手のひらの火をつけたり、消したりして楽しんでいる。


「マナの『探知』と違って、あんまりやりすぎると、体内のマナが枯渇しますよ」


「えっ...枯渇したらどうなんの?」


「へとへとになります」


 ゲームのMPみたいなもんか。


「それはどうしたら回復できんの?」


「まあ、自然にですかね。体調にもよるでしょうけど、普通に休めば次の日には回復します」


 ふむ、確かにこんなとこで倒れたら大変だな。帰ってからするか。ベッドの上なら問題あるまい。


 ここにき来た目的を忘れかけていたが、薬草の採集のために来たんだった。さっさと済まそう。


「で、薬草ってどこにあるんだ?」


「この辺の草はだいたいそうですよ」


「そんなのか。よーし、じゃあ、この辺の草を抜きまくればいいんだな?」


 腕捲りする俺。かかんで、5、6本まとめて手にかける。


「あ、ちょっと待ってください。ルールがあるんです」


「ルール?」 


「はい。ギルドでもらった袋はありますか?」


「ここにあるぞ」


 ハルに背中にしまっていた袋を取り出す。ギルドでもらった三つの袋。


「1度の依頼で採集していいのは、3種類を袋いっぱいまでなんです」


「なんで?」


「正直、この依頼は誰でもできるもので、初心者冒険者用みたいな感じなんです。どんな冒険者でも暮らせないことがないようにという」


「なるほど」


 確かにここまで危険な要素はほとんどなかった。冒険者が食いっぱぐれがないようにするための依頼だってことか。


「ですから、取りすぎて薬草がなくなったりしないように、制限があるんです」

 

「そうか...ちなみにこの袋いっぱいでどれくらいで買い取ってくれるんだ?」


「この辺のものだと、銅貨2枚といったところでしょうか」


 袋3つで銅貨6枚か。河を渡るのに銅貨1枚だから、実質5枚。本当にギリギリ生活できるくらいだな。ただ、


「この辺ってことは、奥に行けばもっと高くなるってことでいいのか?」


「そうですね。森のほうに入れば。ただし、森には魔虫、魔獣が生息しているので、それなりに危険が伴います」


「...奥行ってもいい?」


 スキル『探知』もあることだし、いざとなったら逃げればいい。


「構いませんが、気をつけてください」


「ああ、もちろんだ」


 精一杯、『探知』を展開しながら、森に足を踏み入れる。


 小さな反応が無数にあるのは、小動物や昆虫だろう。基本的に生き物は大小必ずマナを持っている。なので、小さい反応は無視して進む。


「あっ、オトギ草があります」


 森に入ってしばらく、ハルが指差す。


「お、いいやつなのか?」


「はい。傷薬になる薬草です。他の草よりもランクの高い傷薬が作れるので、買い取り額高めです」


「それはいいな」


「こんな近くにあるなんてラッキーでしたね」


 確かに案外近くにあった。といっても、体感で2、30分くらい歩いたけど。


「これだよな?普通に抜けば良いのか?」


「いえ、花の部分が薬草になりますので、下の部分を残して切り取ってください。根が残ることによって、また生えてきますので」


 ハルがナイフを荷物から取り出し、切り取って見せてくれる。


 それを見て、俺もさっき買った短剣でオトギ草を切り取る。


「いっぱいあるみたいだけど、袋3つともこの草でもいいのか?」


「はい、森の中の分は大丈夫です。ただし、暗黙の了解で川辺の薬草は種類を分けることになってますんで、ご注意ください」


「OK」


 俺はカバンを置いて、ハルと2人で黙々とオトギ草を刈り取る。


 ものの30分くらいで袋3つがいっぱいになった。


「あー、腰がいてぇ」


 慣れない体勢に疲れ、腰を伸ばしながら短剣を持っていない方の手で腰をとんとんと叩く。


 そのときだった。『探知』に大きな反応。しかもものすごいスピードで向かってくる。反応があると思った時点ですでにすぐそばにいた。


「うわっ、なんだ!?虫!?」


 一瞬、見えたのはでかいバッタみたいな虫だった。そのまま顔に飛んできたのを、反射的に両手でガードする。


 瞬間、どんっ、とすごい衝撃と共に後方に吹き飛んだ。 


「アリスさん、大丈夫ですか!?」


 ハルが駆けよってきて、顔を覗き込んでくる。


「いってぇ...けどまあ、大丈夫。ありがとう」


「それなら、よかったです」


「今のは、いったい何だったんだ?」


 体を起こしながら聞いてみる。


「どうやらキングイナゴのようですね」


 ハルが答えながら見つめる先、俺の短剣が頭に刺さった、猫くらいの大きさがある巨大なイナゴ。足がばたばたと蠢いている。短剣を構えたところに飛んできたため、たまたま刺さったんだろう。とにかく。


「気持ち悪!」


 虫ってだけで嫌なのに、巨大化してると、すごい気持ち悪い。


「今日はついてますね。キングイナゴは買い取ってもらえますよ」


「まじ?こいつも薬になんの?」


「いえ、飲食店です。昨日アリスさん、美味しそうに食べてたじゃないですか?」


「えっ!?うそ!?あれ、イナゴだったの?」


「そうですよ、知らなかったんですか」


「うへぇ」


 旨かった。旨かったんだけど、うへぇ。魚の身かなんかだと思ってた。文字が読めないから日替わりのオススメみたいなのにしてたけど、今度からちゃんとハルに聞こうと固く誓う。


 頭に短剣の刺さったキングイナゴがゆっくりとその動きを止める。どうやら力尽きたみたいだ。


 近づいて頭から短剣を引き抜く。変な汁が出てきてめちゃくちゃ気持ち悪い。


「こいつ、どうやって運ぶんだよ...ってハル、どうした?」


 隣にいたハルが急に俺から距離をあける。


「アリスさん!かがんでください!!」


「えっ!?」


 一瞬反応が遅れたが、その場にうつ伏せになるようにして、体勢を低くする。同時に『探知』でわかるとんでもない数の反応。


 気付いたときのはもう遅い。辺りが真っ暗闇になるほどのキングイナゴの大群が俺の背中を通過する。


 体の後ろ部分に何かが引っ掛かったり、当たったりして、超痛い。


 ハルはあの一瞬で安全圏まで離れたようだ。さすがである。


 時間にして1分ほどだったろうか。辺りは蹂躙され、ボロボロの草花たちとボロ雑巾と化した俺だけがその場に残る。


 1つ教訓になった。10メートルくらいじゃあ、気付いた頃にはもう遅い。


「だ、大丈夫ですか?...ふふっ」


 安全を確認してハルが近づいてくる。若干半笑いなのはどういうことだ。


「...とんでもない目に遭った」


「すみません、ドレス高いもので」


「いや、反応できない俺が悪いんだから、気にしないでくれよ」


 起き上がって見回すと、どうやらカバンは無事なようだ。最初にぶつかってきたキングイナゴもいる。ただ、オトギ草の入った袋が1つしかない。足にでも引っ掛かって持っていかれたか。


「そりゃないぜぇ」


 今日1日の労働の3分の2が一瞬で無に帰す。自然の脅威、半端なし。


 がっくりしながら、残った袋を確認する。中身は無事だった。


 辺りはボロボロで採集できるようなオトギ草へ残っていない。これから探す気力ももうない。キングイナゴ群に一緒に刈り取られた。


「帰るか...」


「はい。お疲れ様です」


 残った1つの袋と、売れるというキングイナゴを無理やり詰め、カバンを背負う。このカバンも買ったばかりなのにすでにボロボロだ。


 これぐらいのことよくあることですから、とハルに励まされながら、とぼとぼと帰路につく。


 行きの道より帰りの方がはるかに遠く感じた。




 お手数でなければ、評価や感想などいただければ嬉しいです。


 今後ともよろしくお願いいたします。

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