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14 初依頼

 今日はハルが依頼の受け方や、簡単な依頼のことを教えてくれるということで、早朝から二人で冒険者ギルドに向かった。


 壁の張り紙を見ながら、ハルが色々と教えてくれる。


 背中から小さく聞こえるいびきはもはやBGMみたいなもんだ。昨日の図書館の帰りに背負えるタイプのレザーのカバンを買った。そこにメシアを入れて背負っているのである。


 メシアは俺の召喚に予想以上にマナを使いすぎたらしく、睡眠によりマナの消費を抑え、寝ながら空気中にある微量のマナを、少しずつ体に取り込んでいるらしい。本来呼吸なんて必要ない人形がいびきをかいているのは、マナを取り込む際に空気を一緒に吸い上げ、マナ以外のものは吐き出しているからだ。


「最初はあれがいいと思います」


 ハルが張り紙の1つを指差す。


 ハルが指し示したのは、薬用になる草の採集。薬用になるものであれば種類を問わず、冒険者ギルドには常にある依頼だということだ。


「受ける依頼が決まったら、受付の人に伝えに行きます。そのときにギルドの証が必要になりますので、ご用意ください」


 それで思いだす。


「そういえば、このギルドの証って何か力の付与があるのか?」


「そうですね。複製防止のための力が付与されているようですが、何かあったんですか?」


「いや、マナ探知の練習中に感じ取れたんで何だって思ってな」


 メシアがマナ部分を食べたって言うのはとりあえず伏せる。下手をしたら邪神の可能性もあるメシアを、おいそれと言わないほうが良いのではないか、とちょっと思案中だからだ。幸い、今のところハルは気持ち悪い人形としか思っていない。


 ちなみに『探知』に関しては、この数日ではあるが地道な鍛練が実を結び、すでに問題ないレベルになったと思う。あとは距離を伸ばしていくだけで、今でも半径10メートルほどはわかるようになっている。


「そうでしたか」


 ギルドの証からマナがなくなっていることに気付かれることはない。『探知』を覚えてわかったが、人は大なり小なりマナをみんな持っている。みんなから反応があるため、『探知』は人が多いところでは無意味なスキルになるからだ。


 だから身につけているものも、その人のマナなのか、道具のマナなのかなんかわかりようがないと思う。この前ハルが報告していたときもそうだが、確認は簡単なもので、そもそも複製防止と言っているし、その都度マナを含め、細かく確認しているということはなさそうだ。


 だから、とりあえずこれでも大丈夫だろうと思う。まあ、なんか言われたら、そうなんですか?としらをきれば良いだけの話だ。


「受付に言えばいいんだな?」


「はい。僕も同じ依頼を受けますんで、一緒に言いに行きましょう」


 2人でギルドの奥のほうの受付に向かう。


 受付の人は狐耳の女性で、獣人なのだろう。めちゃくちゃかわいい。


「薬用の草の採集に行きたいんだが?」


「かしこまりました。ギルドの証のご提示をお願いします」


 俺の言葉ににっこりと微笑んで、対応してくれるお姉さん。こんな人が毎日帰る家にいてくれたら、めちゃくちゃ幸せかもしれない。


「あの、ご提示を」


「あっ、すいません」 


 慌てて証を見せる。しまった、見とれてた。


「...鼻の下のびてますよ」


 証を見せながら、ハルがジト目でこちらを見てくる。


 そんな目で見るなよ。


 俺ももう三十路なんだ。ちょっとくらいいいだろう。

 

 ただ、思っても口には出さない。バイトしてても思っていたが、このくらいの年齢の子は、こういうことには潔癖なのだ。


 お姉さんが証を確認する。


「ありがとうございます。ご説明は必要ですか?」


 どうやら証は問題ないみたいだ。


「大丈夫です。後で僕がします」


 ハルがお姉さんに返答する。


「そうですか。では、こちらの袋に種類ごとにお願いしますね」


 お姉さんが小さめの麻袋を3つずつ、俺とハルに渡す。


「じゃあ、行きましょうか」


 ハルが言ったときだった。 


「頼むって言ってんだろうが!」


「うわっ」


 突然、ギルドに響き渡る大声。びっくりした。


 聞き覚えのある声だと思ったら、ギルド長のドラウであった。


 ドラウは見た目、四、五十くらいの男性の冒険者に怒鳴っている。


 が、その冒険者も負けてはいない。


「嫌だと言っているだろう、お前は昔から本当にうるさい」


 冒険者のほうはドラウに対し冷静に答える。


「そこを頼んでるだろうがよ!!」


 ドン、とドラウがテーブルを拳で殴り付けた。 


「おいおい、大丈夫なのか?」


 ハルが答える。


「いつものことですよ。ドラウさんは、普段は温厚なんですけど、ダグラスさんにだけはいつもあんな感じです」


「ダグラス?」


「ダグラスさんはこのギルドで最古参で、最強と言われています。昔はドラウさんともう1人と3人パーティーを組んでいたらしく、あの2人が話すときはいつもあんな感じなんです」


 なるほど。確かにこんな状況なのに、周りの反応は薄い。みんな慣れきっているのかもしれない。喧嘩するほどなんとやらというやつか。


「もう1人ともあんな感じなのか?」


「いえ、詳細はわかりませんが、亡くなられたようです」


「そうか...ま、大丈夫なんだったら行くか」


「そうですね。ただ町を出る前にちょっと店に寄って行きましょう」


「OK」


 そのままギルドを出て、向かったのは刀剣等の武器を扱う店だった。


 最低でも1本は、持っておいたほうがいいらしい。


 まあ、そりゃそうか。


 もちろん武器という側面もあるが、採集などのときに刃物がないと非常に不便とのことだ。


「初めてなら、ナイフや短剣が扱い易くて良いと思いますが」


 色々見て悩む俺にハルが助言をくれる。


「確かにそうだな...ならこれにするか...ただ、これで足りるかな?」


 日本刀みたいなのや、勇者の剣みたいな装飾を施されたほうが、かっこいいなと思って見ていたが、よく考えたらどうせ使いこなせない。


 俺はハルの助言を聞いて、ちょっと長めのナイフくらいの片刃の短剣を選んだ。


 懐からギルドで貰った麻袋を取り出し中身を確認する。最初もらったときは銀色のコイン、銀貨が5枚入っていた。今は、銀貨3枚銅貨5枚が入っている。

 

 現在、泊まっている宿の1泊の代金が銅貨3枚。食事が1度につき、銅貨1枚。2泊した分と食事が5回、メシア用のカバンが銅貨4枚だったのでこの残りだ。


 銅貨は10枚で銀貨1枚の価値、銀貨が10枚で金貨1枚の価値があるらしい。


 だいたい銅貨が1枚で千円くらい、銀貨が1万、金貨が10万くらいかなという感覚である。


 よく考えたら、日本の市販の包丁でも1万くらいするんだから、この短剣もそんなに安いことはなさそうだ。


「これいくらですか?」


 ハルが店主に聞いてくれた。


 奥に座ったおじいさんが、ちらりとこちらを見たあと呟くように答える。


「...銀貨3枚だよ」


 ギリギリ買えるみたいだ。


 俺は銀貨3枚を払い、短剣を手に入れた。次いで雑貨屋に行き、竹みたいな木製の水筒を手に入れる。これが銅貨1枚。


 気づけば、財布?の中身が銅貨5枚になる。


 不安だ。


 食事と宿代で今日で尽きる。


 しっかりと稼がないといけない。


「さ、準備も整ったところで行きましょう」


「そうだな」


 頑張って稼ごう。


 俺は意気揚々と町の外に踏み出したのであった。



 お手数でなければ、評価や感想などいただければ嬉しいです。


 今後ともよろしくお願いいたします。

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