13 歴史
「写真があるってことはカメラもあるのか?」
「本当によくご存じですね。カメラに関しては書物に記録はありますが、現存するものは見つかっていません」
なんか、係員のテンションが上がって早口になっていってる。
「そうなんだな」
しかし、この世界、大昔にカメラがあったのか...
「これが撮られたのっていつぐらいのことなんだ?」
「正確にはわかりませんが、少なくとも数万年前、神話期の頃と言われています」
「すごいな。そんな昔でよく写真なんか残ってるな」
「写真には、スキルによりマナでのコーティングが施されています。触れなければこれ以上劣化することもありません」
「便利だな、スキル」
「歴史に興味がおありなのですか?」
顔をずいっと近寄せ、係員が聞いてくる。
近いし、鼻息が荒い。
「いやまあ、ないことはないけど...」
写真のこともあるし、気になると言えば気になる。だが、この人に聞いていいものかとちょっと不安はある。
「じ、実は私歴史マニアでして、それが高じてこのお仕事をさせていただいてるんですが、神話期について、か、語らせて頂いてもいいですか?」
すごい早口だ。歴史マニアか。そんな感じだとは思ったけど。なんか目がらんらんと輝いているように見える。面倒くさそうだ。ただ、美人な女性。断れない。
「...まあ、はい」
「神話期と言えば世界の成り立ちからですが、成り立ちについては何かご存じですか?」
「いや、何も」
「ふふふふふふふふふ、仕方がありませんねぇ」
なんか腹立つなあ。
「まずはこの世界ですが、端的に言うと神の暇潰しのために作られました」
「えっ?そうなの?」
斬新な成り立ちだな。
「はい。まあ、この世界に限ったことではありませんが。全ての世界は暇潰しのために作られています」
「いや、全ての世界って...どうしてそんなことわかんの?」
「神話期の人間族の残した文献にそう書かれています」
「そ、そうなんだ」
「神々というのは永遠の時を生きるため、基本的に暇なのです」
「それはそうかもしれないけどさあ」
「基本的には世界を創り、生物を生み出し、その生物が生み出した文化や物事を楽しみます。ただそうしてもらうには、生物に知性が必要であり、知性があるとどの世界でもいつかは争いになります。小さな争いは喜んで眺める神々もいづれ対処が面倒になったり、被害が神々に及ぶようになれば、創造の神がまた新たに世界を創り神々はそこに移住する。そうして世界はいくつも作られているのです」
「ひどい神様たちだな。その言い様もひどいけど。そもそも神様って敬うべき存在じゃないのか?」
「現状敬われている神々様たちとは違い、古代の神は人の敵ですよ」
「えっ?そうなのか?」
「はい。人は当時の魔王の手によって生まれたのです。まあ、元々魔王も神の1柱なのですが」
「へぇ」
「文献にこう記されています。この世界が出来て間もないときのこと、神々のうちの一柱が創造の神に反抗し、独立。その神は神々との決別の意味を込めて魔王を名乗ったそうです。他の神々はそれを面白がって、天使族を生み出し討伐に向かわせた。魔王はそれに対抗するため、自らの分身のような種族である始祖族をはじめ、鬼族やエルフ族ほか、黒狼のような魔獣を生み出したそうです」
「ふむふむ」
「しかし戦闘が長引くと、無限の力を持つ神々には対抗しきれず、魔王は少しずつ押されはじめます。そのため、魔王は自らの生み出した種族に繁殖力をつけ、無限の力に対抗するため、エネルギー補給の食料として、小動物や昆虫を生み出しました」
「なるほど」
「そんな中で魔王に生み出された種族の中に人間族がいます。人間族は魔王によって知性と繁殖力に全ての力を振り分けられ、神々に対抗しうる力を、その知性と数で生み出すことを期待されました」
「ほう」
「魔王の思惑通り、人間族は神々に対する様々な物を生み出します」
「そうなんだ。で、人間が神を退けたのか?」
「そうとも言えます」
「歯切れの悪い言い方だな」
「様々な物を生み出した人間族はその中で、知識の集大成として神々に対抗しうる存在メシアを生み出し、魔王を裏切りました」
「えぇ!?」
情報が多すぎる。ってかメシアってこいつじゃないよな...いや、可能性はじゅうぶんにあるんだが。
「人間族は、メシアを交渉役とし独立を宣言しますが、メシアは言うことを聞かず、暴れに暴れ邪神と名乗り独立します」
「めちゃくちゃだな」
「そうして魔王や邪神の対応に飽きて、面倒になった神々は、この世界を後にしました」
「じゃあ、世界には魔王と邪神が残ったのか?」
「当時はそうみたいですね。ただ、その後に邪神が魔王を倒したと記録が残っています」
「じゃあ、邪神は?」
「邪神は数百年か数千年に1度、世界を審判し破壊する、破壊の邪神として一部では崇められています」
それはただ好きに暴れてきただけじゃないのか。
「そうだったんだな。いやあ、勉強になった。ありがとう」
もうそろそろいいだろうと、話を切り踵を返す俺の肩をがっちりと掴む係員。
「お待ちください。まだ話足り、いえ、話は終わっていません」
今、話足りないって言おうとしたじゃん。だからこういう人って苦手なんだよ。今なら世界を放棄する神々の気持ちに寄り添えそう。
「...続きがまだあるのか?」
「もちろんです。魔王も息絶え、邪神も永い眠りについた世界は人間族の天下となりました」
「うん」
「そこでそちらの写真やカメラを初め、様々な技術やスキルが生まれたといいます。ただそのほとんどがロストテクノロジーとして、現代では失われていますが」
技術レベルにそぐわない物があるのは、そのせいか。
「ってか、スキルってその前はなかったのか?」
「もちろんそれ以前もありましたが、現在のようにスキルとして技名やその能力が確立されたのはそのときだという話です」
「そういうことか」
「はい。そして、そんな中で人間族が生み出したロストテクノロジーの1つ、異種族交配術。これが現在のこの世界を形作ることとなった要因になったようです」
「異種族交配術?」
「そうです。人間族は他種族の力を取り込もうと、どの種族とも交配できる技術を生み出しました」
「お、おう」
さすがは力の振り分けが知性と繁殖力の人間族。力を取り込むだけが目的じゃないんじゃないかとさえ思える。
「そうして、人間族は全ての種族と交わい、繁殖し、この世界の人々は今のように人間族をベースにした姿形になったのです。現在では精霊族を除き、純粋にその種族だけの血を持った純血は1人もいないと言われています」
「それは...よく考えたら、なかなか闇の深い話だな」
鬼やエルフはまだしも、獣や爬虫類系の人種が町に多いのはそういうことだろう。先人たちの性の方向性には恐れ入る。
「当時は血のつながりが家族の証でしたが、今では先祖に他種族の血が少しでも入っていた場合、両親とは別種になる可能性もあるため、血のつながりは薄くなり、現代のように家族とはマナでつながるものになりました」
「えっと...それは人と人からでも獣人が生まれたりするということか?」
「その通りです。種族は見た目やその力に反映されますので、全く違う見た目もありえます。先祖にその血があれば、可能性のある種族は全て生まれる可能性があり、それを両親が決めることはできません。ただ、先祖の個体数が多く、繁殖力の高かった種族の血の比率が高くなっているため、現在は人間や獣人が世界の約9割を占めます。ざっくりですが、これが現代に至る歴史であります」
そうすると、ハルのアカメ族ってのもなかなかレアなのかもしれない。
「そうか。良くわかった。ありがとう」
「いえ、こちらこそありがとうございます。めちゃくちゃ気持ちよかったです。他に何か聞きたいことはございませんか?」
再び顔をずいっと寄せてくるニコニコ笑顔の係員。
気持ちよかったならもういいじゃないか...だめだ、断れない。つくづく美人に弱い。
「えと...町の地理って聞いてもいいかな?」
「え...はい、いいですけど」
あからさまにがっかりする係員。
そうか。歴史じゃないからか。
「こちらに地図がありますので、ご説明します」
そのまま俺はその係員に地図まで案内され、町のこと聞いたのち、図書館兼博物館を後にしたのだった。
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今後ともよろしくお願いいたします。