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12 写真

 あれから俺とハルは主に冒険者が暮らすという区域で、ハルがいつも利用しているという宿に向かった。町全体で見ると西側のほうである。


 冒険者ギルドの証を持ち、一時滞在を含めて町で生活する冒険者は、みんなこの区域で生活することになっているらしい。


 宿に着くと、受付のおばさんが「お帰り、ハルちゃん」と迎えてくれる。


 ハルが今日からもう1部屋お願いしますね、というのと、簡単に俺という存在の説明をするのを聞きながら、お帰りっていう言葉を久しぶりに聞いたな、と思っていた。


 宿は木造の建物で、ハルに案内され二階に上がる。どうやら、隣の部屋を借りてくれたらしく、部屋の中のものを説明してくれたあと「僕はこちらの部屋ですから、何かあったら言ってください」と、部屋に入っていった。


 俺も自分の部屋に入り、隅にあるベッドに腰かける。ふわりとした感触。ベッドってこんなにも気持ちよかったんだな、とそのまま後ろに倒れこむ。


 しばらく体全体に伝わる感触を堪能したあと、ふと思った。


「...そう言えば、トイレの場所聞いてなかったな」


 俺は立ち上がりハルの部屋に向かう。そして、何も考えずにそのまま部屋の扉を開けた。


 そこにはハルの後ろ姿があった。ハルはドレスを脱ごうとしているところのようで、きれいな背中が丸見えになっていた。


「あっ」  


 慌てて扉を閉め思い出す。ノックという概念そのものを失念していたことに。


 部屋から「えっ」という驚いた声が聞こえる。


 しまった、やってしまった。どうしよう。


 しばらくすると、ハルが部屋から出てきた。


 今までと同じようなドレスではあったが、デザインが少し違うところをみるとしっかり着替えたようである。


 そのまま流れるような動作で、鞘には収まっているが、細剣をおれの喉元に突き付けるハル。


 その瞳が赤く染まっている。


「...見ましたか?」


 静かに低い声で問い、俺を睨み付ける。


「いえ、何も見てません!ごめんなさい!!ノック忘れてました」


 喉に触れる鞘の金具がとても冷たい。


「本当に見てないんですね?」


「はい。何も見えてません。ノックを忘れたことに気付き、驚いて扉を閉めただけです」


「...」


「...」


 気まずい。


「...わかりました。信じます」


 俺から剣が離れていく。同時にハルの瞳が黒く戻る。その瞳のシステムについてとてもじゃないが聞ける雰囲気ではない。


 ふぅ、助かった。


「僕に何か用ですか?」


 ジトッとした目で聞いてくる。


 とりあえず引いたが、態度は全然納得してない様子。


「あ、いや、トイレどこかなー、って聞こうと思って」


「トイレは一階の角です...次からは気を付けてください」


「肝に命じます」


 ハルはその返事を聞くと、部屋に戻っていった。


 細くてきれいな背中だったな、という心の隅の雑念を消し去りながら、トイレに向かい、自分の部屋に戻る。


 部屋には備え付けの鏡があった。


 異世界に来て、初めて自分の顔を見る。


「若い...?」


 鏡に映る俺が若い。20のときくらいの俺だ。その上、心なしかカッコいい。言うなれば自分の一番調子の良いときの顔とでも言えばいいのか。


「今の相棒の姿は、相棒の理想に近い姿になってるぜ」


「おわっ、びっくりした」


 足下からいきなり声が聞こえて飛びのく。見ればメシアだった。


「何だ、やっと起きたのか...って何食べてんだよ?」


 メシアという人形が口にしていたもの、それは、ギルドの証のペンダントだった。


「ちょっ、ちょっとやめてくれよ!」


 慌てて証を取り上げる。


「うぃー、ごっそうさん。なかなか良質なマナだったぜ。おかげでちょっと回復だ」


「おいおい」


 取り上げた証を確認する。そのもの自体の見た目に変化はない。


 大丈夫なんだろうな?現状、異世界ライフを安定させるための最重要アイテムだぞ。


「まあ、大丈夫そうか...そういえば、あの痴女の鎖もメシアが食ったのか?あのときは鎖ごと食べてなかったか?」


「おお、あれもなかなか良いマナだった。あれは鎖自体がマナで生み出されたもんだからなあ。それは、そのペンダントにマナを付与してある形だな」 


 なるほどな。だからペンダントは残ったのか。ってか何が付与されてたんだ?ほんとに大丈夫なのかよ?まあ、もう気にしてもしゃーないけど。


「まあいい。それでこの姿が俺の理想ってどういうことだ?」


「召喚するにあたって、マナを使って体を構成し直すんだ。そのときにそいつの理想の姿形にサービスでしてやってる。今の相棒の姿は、相棒の深層心理にある最高の自分ってこった」


「そ、そうなのか」


 改めて鏡を見て確認する。元が元なので、めちゃくちゃイケメンとかそんなんではないが、なんか自信のでる姿だ。


 はやく言ってくれよ。それだけでもモチベーションが大きく変わってくんだから。


 その日は、鏡の前でひとしきりポージングを楽しんだあと、旅で汚れた体を濡らした布で丁寧に拭いて、眠りについた。


 そして、次の日である。


 朝からハルが起こしに来てくれて、俺の1日は始まった。


「今日は町を案内しようかと思うのですが、いかがですか?」


 宿の近くのお店で、食事をしながらハルが聞いてくる。


 昨日の晩もここで食べたが、やっぱりご飯は温かいほうがいい。


「町に図書館ってあるか?」


 図書館に行けば、だいたいなんでもわかるんじゃないかと思って聞いてみる。


「ありますよ」


「それって俺でも入れる?」


「特に入場に制限はないはずですが」


「じゃあ、そこの場所だけ教えてくれ。町のこととかは図書館で調べるよ。ハルもやりたいこととかあるだろ?」


 何でもかんでもハルに頼るわけにはいかない。そもそも齢30のいい年なのだ。できることは1人でしていかないと。


「いいんですか?」


「もちろんだ」


「実は一件だけ用事があったんです」


「俺はここまで連れてきてもらっただけで満足なんだから、何かあるときはそっちを優先してくれ」


「ありがとうございます。では、今日のところはお1人でお願いします。明日はギルドに依頼を受けに行きますから、それは一緒に行きましょう」


「それに関してはすまんが、よろしく頼む」


「お任せください」


 店を出てハルに図書館の場所を聞く。町の中央から北に行った場所にあるらしい。


「では僕はこっちなので」


「ああ、ありがとう」


 ハルは町の中央とは逆、西側の人混みに消えていった。


 宣言通り俺は1人で図書館に向かう。


 そして、向かいながら思った。


 しまった。字が読めないんだった。


 根本的な問題に直面し、何やってんだ俺は、と若干自己嫌悪しながら歩いていたら、気付けば、聞いていた建物が目の前にあった。


「とりあえず入るか」


 図書館は白い大きな建物で、入ると博物館も兼用してるのか、展示物があるゾーンと本が並んでるゾーンがあった。


「どうせ読めないしな」


 なんとなく展示物ゾーンに足を踏み入れる。


 そして、入ってすぐのところにそれは並んでいた。


「なんだこれ?写真...か?」


 額縁に入ったもので、どれほど古いのか、かなり色褪せている。


 いやでも、さすがに絵か。すごい精巧だな。でも見れば見るほど写真にしか見えない。写ってるのは、昔のお偉いさんなのか白髪のおじいさんが写っている。


「何かございましたか?」


 係員っぽい女性が声をかけてくる。


 絵に感心するでもなく、不思議そうな顔で見つめていた俺を少し不審に思ったのかもしれない。


「いや、すごい精巧な絵だから、どうやって書いてるのかなあ、と思って」


「これは絵ではごさいません。古の技術、写真でございます」


「えっ...今なんて?」


「ですから、こちらは古の技術である写真でございます」


「写真ってあの...場面を写して切り取るあの写真?」


「よくご存じですね。その通りでございます。もしや、あなたは歴史マニアでございますか?」


 えっ、本当に写真なの?この世界、とてもそんな技術レベルに見えないんだが?





 お手数でなければ、評価や感想などいただければ嬉しいです。


 今後ともよろしくお願いいたします。

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