10 ミリア
変更申し訳ありません。
赤目族→アカメ族に表記変更しました。
今後ともよろしくお願いします。
休憩所から1日。ひたすらに道をまっすぐに歩いている。
ハルの話ではもう少しでこの森林地帯を抜けるらしい。
さすがに丸1日以上ずっと2人でいると、ある程度は打ち解けてきたような気がする。
『探知』のスキル練習もその要因かもしれない。
それにマナに関して確信は持てないが、これかもしれないというものを感じるようになってきた。
コツは頭の上でずっと寝てるメシアを感触以外で感じようとすることだ。
意外に簡単で、思っていたよりも早く出来るようになるかもしれない、と思うと俄然やる気が出てくる。
「どうですか?」
「なんとなくコツが掴めてきた気がする」
練習は歩きながらでも出来るので、あれからずっとしている。何かあってもハルがいるから、と歩く以外は意識を全部練習に回しているのはさすがに甘え過ぎかもしれない。
「その分だと、すぐに習得出来そうですね」
「それだと嬉しいんだけどな」
そう俺が言った瞬間だった。
森のほうから、どんっ、小さな爆発音のような音が聞こえた。
「な、なんだ!?」
「今の結構近くですよね」
日常にない音に焦る俺とは違い、冷静なハル。
「一応確認に行きましょう」
「そ、そうだな」
昨日のウサギみたいな変なやつに、また急に背中から襲ってこられても困る。
対処できそうなやつなら、早めにハルに対処してもらったほうがいい。
森を掻き分けて進むハルの後ろを恐る恐るついていく。
「止まってください」
ハルが小声で言うのに合わせて、足を止める。
少し焦げ臭いような気がした。
「あれ、見てください」
ハルの背中から顔を出すようにして見てみると、そこには焼け焦げた真っ黒の物体があった。
結構でかい。
「なんだこれ?」
率直な疑問を口にする。
「何か動物のようですね」
動物か...あのウサギよりは小さいが、ライオンとかトラぐらいの大きさはある。
道すがら見た昆虫とか小動物、休憩所にいた角の生えた馬みたいなのとか、普通のサイズの動物もいてちょっとだけ安心してた自分を戒めるサイズ感。
「おわっ」
考えていたら、オォォーン、と先から鳴き声が。
「近いです...誰かが戦っているみたいですね」
見えてないが、ハルの口調は確信めいている。
もしかしたらこれが『探知』のスキルの力かもしれない。
「こっちです」
行くのか、と思いながら音をたてないように無言でついていく。
何かわからないけど、声で見つかったりしたら嫌だし。
「いました」
ハルと2人、茂みに隠れながら覗きこむ。
視線の先では本当に人が何かの動物と戦っていた。
その動物は犬だろうか。動物園で見たライオンサイズ。鋭い爪と牙をもった真っ黒の毛。それが数匹。
それに対峙しているのは長身の女性で、切れ長の瞳に切れ長の耳、オレンジがかった長い赤髪をポニーテールに後ろにくくり、鉄の胸当てに袴姿で、手には大きな薙刀を構えている。
あの人はもしかしたらエルフってやつかもしれない。ものすごい美人だ。
「あれは大丈夫なのか?」
「おそらく問題ないと思います」
「そうなんだ」
あの状況で問題ないとかどうなってるんだ。
「あれはミリアさんです」
「ミリアさん?」
「はい。冒険者の1人です。ほとんど会話したことはありませんが、高ランクの討伐依頼も普通に1人でこなす方です」
「へー」
まあ、確かに強そうな見た目はしてる。
「そう言えば、黒狼の討伐依頼がギルドで出てました。それを受けたのでしょう」
あれ、狼なんだな。
俺の視線の先で、黒狼の1匹がミリアに飛びかかる。
それを真正面から切り伏せるミリア。
「うおお、すげぇな」
胴体が2つに別れた黒狼の亡骸が切り口から燃え上がる。
「なんだあれ」
「あれはスキル『炎滅』です。使用者が与えた傷口から炎を発生させます」
なにそれ。えげつなっ。とんでもないスキルだな。
ミリアは飛びかかる黒狼たちを次々に切り伏せていく。
そして、最後の1匹。今までのよりひとまわり大きい個体。おそらくあれがボスなのだろう。
オオオオォォォォーン、とミリアを威嚇して襲いかかる。
明らかに今までの黒狼より早い攻撃。
振り下ろされる鋭い爪。
ミリアはそれをバックステップで避ける。
黒狼はそのまま追い討ちをかけ、次は下から上に飛びかかる。
ミリアはそれも体を反らしギリギリで避けると、他の黒狼同様に最後の1匹も切り伏せる。
鮮やかな討伐劇。なのだが、最後の黒狼の一撃、体には当たっていない。だが、何かアクセサリーに掠めたようで、首の辺りから放物線状に何かがこちらに飛んでくる。
そして、そのまま俺の顔にヒット。
「いってぇ」
戦闘の非現実感に映画を見る感じで、ぼーっ、と眺めすぎてた。
「だ、大丈夫ですか?」
ハルもさすがに取れると思ったのか、ただ当たるのを見ていた。
「ああ、大丈夫だ。すまん、ぼーっとしてた」
当たったものを手に取ると、小さなコインのついたペンダント。
「ペンダント?」
「イシスエの冒険者ギルドの証ですね。僕も持ってます」
言うと、ハルも首もとからペンダントを見せてくれる。
「生活に必要な物なので、ミリアさんに返してあげてください」
「わかった」
見ると、黒狼を殲滅したミリアが薙刀を背にして、こちらに向かってきている。
俺はペンダントを差し出しそうと、立ち上がった。
「お、おい!」
ミリアの急な大声に体がびくってなる。
な、なんだよ。わかってるって。
「これだろ?」
俺は近づいてきたミリアにペンダントを差し出す。
「す...」
す?
ってなんだ?
ミリアが発した言葉を考えた瞬間だった。
バチーンと、ペンダントを持った手のひらに衝撃が走る。
ミリアが強い力で、ペンダントを手のひらから取った衝撃だった。
「うぐっ...」
悶絶するほど痛い。
ミリアはペンダントを受けとるとそのまま立ち去っていく。
その背中を見送りながら、ハルがぽつりと言った。
「不思議な人ですね」
全くだ。
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