第3話≪王に選ばれた者①≫
突如としてⅩⅢより告げられた生徒会役員、Ⅰの選出。
言われた側も周囲も全く状況を理解できなかった。
そんな中、初めに口を開いたのは司会のセツカだった。
「ⅩⅢ、確かにⅠ任命の権利は貴方に一任されています。しかし、権利があるからといってこの場で即就任することは、生徒会役員の一員として認められません。なおかつ、彼女は新入生なのです。生徒会役員としての素質があるかどうかすら判断できかねます。この場合、一度会議を──」
「それはどうかしら?ねぇ?」
会話に割って入ったのは、ミラだった。
「確かに彼女は新入生よ?でも、王様が見出だした生徒なのだから、問題無いんじゃないかしら?」
「しかし、例えそうであったとしても他の生徒会役員及び教員が納得できないでしょう」
あくまで、引く姿勢は無いことをセツカは示した。
「セツカ、さっきは権利がどうこうって言っていたけど、貴女、うちの王様にこれ以上反対することはできないのよ、わかっているでしょう?Ⅰの任命権は、彼にあるのだから。それでもこの任命を覆したいのであれば、ここは一旦引くべきじゃないかしら。それとも、この場で決闘でもする?」
ミラもセツカにそう言い返し、セツカはしばしの間沈黙した。
しばらくして、セツカは口を開いた。
「……確かに、今は引くべき時のようですね。それでは、話し合いの場を設けることにいたします。後程、ルームに顔を出させていただきますので、その時に日時を決めることにいたしましょう。生徒の皆様、大変混乱させてしまいましたが、ⅩⅢからの発表内容に関しては、後日改めて伝え直させていただきます。それでは、これにて講演を終わらせていただきます」
セツカの講演を終了するアナウンスにより、どよめきが起こっている中、ホールでの集会は解散となった。
その後、教員達がステージに上がり、ルイスに事情を聞いていた。
何かを話した後、あまり納得した様子ではなかったが教員達はステージを下りていった。
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会場内は騒然としたままだったが、次第にホールから生徒が教室へ戻り始めた。
そして、セツカを初め他の生徒会役員もステージから降りていった。
ユンヌは、ステージ上からエリナの姿を探したが、見つけることは出来なかった。
今、ステージ上にいるのは、ルイス、ミラ、ジュン、そしてユンヌの四人だけとなった。
「あ、あの……」
「ごめんなさいね、大事にしちゃって。ここじゃあ、話をするのも難しいし、ルームに行きましょうか。良いわよね、ルイス?」
「あぁ、そうだね。ひとまず、移動しようか」
「ふぅ、やっと一息つけるぜ」
ユンヌ以外の三人は、話しながらステージを降り始める。
「あ……」
歩いて話しかけようとしたユンヌは、自分の足が動かない事に気付いた。
大衆の前に晒された緊張と、自分が生徒会役員に選ばれたという驚きの発表に、体が言うことを聞かなくなってしまったのだ。
声を出したくても上手く出せず、足を動かしたくても震えてびくともしない。
(ど、どうしよう……、先輩達が行っちゃう……)
しかし、歩けないのではどうしようもない。
少しずつ遠ざかっていく三人を、ユンヌはただ見ているしかできなかった。
「……」
ユンヌが付いてきていない事に気が付いて後ろを振り返ったルイスは、ユンヌの様子を見て足を止めた。
目が合ったが、すぐにユンヌは逸らしてしまう。
ルイスは、ユンヌの元へ戻り、そして──。
「あ、わ……ぁ」
ユンヌは、再びルイスにふわりと横抱きにされた。
これで二回目ではあるが、だからといって慣れる訳もなく、ドキドキと鼓動が鳴り響く。
「気付かなくてごめんよ。怖い思いをさせてしまったね。とりあえず、少し落ち着ける場所まで移動しようと思うんだ」
そう言いながら、ルイスは階段へと歩き出す。
「ぁ……っ、あの……」
「頭を整理する時間が必要だろ?それに、このままクラスに帰るのも難しいと思うぜ」
「そうね、紅茶でも飲んで、少し休んでから戻ればいいじゃない」
ジュンとミラが、ユンヌに左右から話しかける。
ユンヌを横抱きにしたまま、ルイスはステージを降りていく。
階段を一つ一つ、ユンヌに振動を与えないようゆっくりと。
「それに、君に説明しなければならないこともあるし。どうだろう、このまま一緒に来てくれないだろうか?」
ルイスに言われ、ユンヌは少し考えた。
自分が何故生徒会役員に選ばれたのか。
それは、今一番知りたいことだった。
「……はい、わかりました」
小さな声で、ユンヌは返事した。
その返事に、ルイスは優しく微笑んだ。
「ありがとう。それじゃあ、行こうか」
四人は、ホールの出口へと歩き出した。
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エリナは、ホールから出ていく時、後ろを一度振り返った。
そこには、顔をキョロキョロさせ、三皇を見ているユンヌの姿が見えた。
(ユンヌ……)
エリナは、ユンヌが心配だった。
隣にいたユンヌが、いきなりⅩⅢに連れていかれ、訳もわからないまま生徒会役員だと宣言されたからだ。
声をかけたかったが、ステージの様子を見るにユンヌの側に行ける雰囲気ではないのは明らかだった。
今ここで、自分にできることは何も無い──。
エリナは、そう感じると生徒の流れに乗り、教室へと戻ることにした。
エリナは、教室に戻り自分の椅子に座った。
その途端、クラスメイト達に周囲を囲まれた。
「ねえ、エリナちゃん!ユンヌちゃんがⅠってどういうこと?!」
「もしかして知ってたの?」
「エスプリットさんは?一緒じゃないの?」
クラスメイト達は、一斉にエリナを質問攻めにした。
エリナは、多少予想はしていたものの、まさかここまでとは思っていなかった。
「あ、いや、うん。先輩達と話があるみたいだったから……」
一斉に聞かれ、エリナは上手く答えられなかった。
エリナがそう答えると、クラスメイト達は「そっか」と言ってそのまま互いにユンヌが選ばれた理由について予想しあっていた。
実力を隠している、ⅩⅢと繋がりがある、どこかのお嬢様で、選ばれたのはお金の力……。
皆、ありもしないことを口にしていた。
しばらくすると、担任教員が教室に入ってきた。
それを見たクラスメイト達は、すぐに各自の席へと散らばっていった。
エリナは頬杖をつき、窓の外を眺めた。
(ユンヌ、大丈夫かな……)
その時間、教員が何を話していても、エリナの耳には届かなかった。
初期より改変し、一部内容が異なります。