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面倒な客

どうも、今日の夢に出てきたアレです

暇つぶしがてらに文章構成の修行で投稿しております

暇つぶしがてら読んでいたければ幸いです

とある日のことである

スラム街で雑貨屋を営む今日も繁盛などしていない店内は静かで雨音しかしない

電球が薄暗く照らすカウンターで頬杖をついて味気ない午後を過ごしている


昼下がりのこの時間でも客は来ない

この店に来るものは訳ありの客かショバ代を求める取り立てか稀にわざわざ殺されに来る強盗ぐらいだ


いつもなら仕事の一つでもしていることだが生憎今日は何もない

大抵何かしらあるはずだが今日は珍しく何もないため読み終えていない本を開こうとした


ドアに取り付けられた呼び鈴が透き通るような音を鳴らし客が来た合図を店内に響かせる

この時間帯なら常連の胡散臭い風貌をした男だろう


どうせいつものやつだ

常連の客の顔を思い浮かべながらいつもの商品とポットに淹れておいたコーヒーを準備する

保温効果のある少し大きめの容器は熱を保ったまま内容物をコップへと注と温かい飲み物は独特な香りを放ち嗅ぐ者の鼻腔をわずかながらに刺激する


常連の客は甘党だった筈だカウンターの下に用意しておいた飲み物に入れる為のコーヒーフレッシュなどを出そうと手を突っ込むがその手は止まった

どうやら来たのは違う人物でコートを雨水で濡らした女だった

それもこのスラム街には場違いで小綺麗で顔立ちも整い、女性にしては長身で少し癖のある長い黒髪を靡かせながらカウンターまでやってきた


「流行りの飲み物なら売ってないぞ」


鼻で笑いながら女に言った

その冗談交じりのふざけた接客を無視して女は要件を口にした


「暗号化信号も受信できる通信機器が欲しいわ」


「はっ…ここは家電の店じゃないぞ」


男は察する、この女は危険だと

表向きの雑貨店で通信機器を真顔で要求する女など間違いなくそういう類の連中だろう

こういう手の客、よもや初見で訳ありの客など相手にする気はない

繁盛こそしていないがたかが客1人の要望に答えないだけで潰れるような店ではない


暗号通信を受信するという目的に時点で相手は警察や軍などそもそもそれなりの規模の相手と大体絞れる

そんな面倒ごとなど関わるに値しない

むしろさっさと帰って欲しい手合いである


女は着ていた上着のポケットから札束を取り出して何枚か捲ってカウンターへ投げた

通信機器を求めて出すにしては少し多めの額だ、おそらく口止め料も入っているのだろう

内心これだけあれば今月のショバ代にも困らない上にある程度仕事をしなくても生きていける額のため正直貰いたい気持ちがある

しかし関わり合いを持ちたくないのも事実


「…誰からこの店を知った?」


「胡散臭い男ね…確か名前はノーズよ」


あいつか…全く面倒なことをしてくれる

ノーズとはいつも来る常連客の1人であり刑事でもある

胡散臭いペテン氏のように口八丁に相手を煽るクセの強い相手で自分の目的のためならどんな手段でも使う男だ


連絡の一つくらい寄越せというものだがまぁいいとにかく真っ先に奴の名前が出てきたところを見るとこいつは雇われた身だろう


なぜそんなことをするかと言えば警察、というよりも奴は仕事が欲しいのだ

最近騒ぎも無く平常運転なこの街を騒がせるため、言ってしまえばマチポンプだ

特にこの地区はスラム街といえどある程度治安は落ち着いている

恐喝や薬物の売買などは日常的だがな


それもヤクザ者の連中が目を利かせているのもそうだが薄くはない繋がりを警察と持っているためだ

そうなった経緯は知らないし、興味もない

言ってしまえば今自分がしてる商売はヤクザ者やその辺にいるチンピラの下請け稼業だ

少なからず関わりを持っている


そういえば、奴はこの女に刑事とも伝えていなければ本名も告げていないということはこいつをスケープゴートにでもするつもりだろう


しかしそれも止めるつもりなど毛頭ない

その騒ぎと見立てたマチポンプで稼げるのはこっちも同じだ

こいつに武器や道具を見立てて金をとる、それは俺の仕事の内だ

仕方ない、売ってやるとするか


「その口ぶりからして…あるのね、物は」


「そうだな…待ってろ」


ため息を吐きながら後ろにある棚の南京錠をカウンターにしまっている鍵束のひとつで開け大きめのバッグを取り出した


目の前でバッグのファスナーを開けてやり中を確認させる

注文の通信機器で電源を入れると問題無く液晶に周波数の数字やバッテリー残量の異常の有無を表示している


「ポリ公どもの無線機だ。 これひとつでとりあえずは何とかなる」


「…使い方を聞いてもいいかしら?」


こいつは驚いた…無線機の使い方知らないでこの稼業をしているということは何も知らないで仕事していることと同じだ


こういう手の仕事に限らず大半のことは情報が必須であり、自らの命に直結することでもある

絶えず情報を集めてどれだけ生き残りかが肝なのだ

特に現場で直接手を下すものは荒くれ者で学はない者ばかりだが間抜けな奴などいない

それこそど素人のチンピラかナルシシズムの傭兵気取りの愚者だろう


誰だって何も知らずに爆死などしたくない

無線機材の扱いなど大半が似たり寄ったりなため専門的な知識がなくても扱えるのが当たり前だ

それをこの女は…


「…とりあえず、ほかにいる物を言え。 まとめて説明する」


「そうね、わかったわ…後は武器と弾が欲しい」


面倒な客になりそうだな

辟易とした様子を隠そうともせず今度は銃器を収納している棚の鍵を開け引き出しを開ける


いつものように粗悪な5発の回転式弾倉の銃を差し出すと不満な顔をされる

弾倉を手首のスナップで出し弾が入っていないことを確認すると所々いじくり回し始める


でやがったな

面倒臭さそうなな怪しい女から本気で面倒臭い客に切り替わった

ひとしきり続いた銃の状態確認を終えるといらないと言うことで銃を返してきた


「ひどい銃ね。 よくこんな物を出そうと思ったわね?」


「ここらじゃ当たり前の銃だ。 何故なら客は多く金を持っていないからな」


素人目でもわかるほど粗悪で安定していない作りをしているジャンクガンはど素人のチンピラやこういう手の客に渡すと決めている

当然この街に住んでいる連中は自前の銃はしっかりしている物を使っている

何故ならジャンクガンを使えば損することをわかっているからだ


悪徳商売と言われてもおかしく無いだろう

事実そうだし、こっちは客が欲しいと言っているから売るだけな以上買った後にどうこう言われる筋合いにはこっちには無い

そんなに保証の一つでも欲しければスラム街なんかで物を買うなというところだ


「もっと良いのが欲しい。あるでしょ?」


「あぁ、あるさ。 旧式でも新型でも、9mmでも45口径でも欲しけりゃ金を払えばいい」


「…状態の良いお薦めは何かあるかしら」


座っていた椅子から転がり落ちそうになった

比喩などでは無く文字通り転びかけた

無線機の扱いも知らなければ銃のことも分かっているわけじゃない

大抵銃の種類を言うか条件に沿った物を言うのだがお薦めときた

何をするかも知らない奴にお薦めを出せと言われても困るという答えしかない

こういう言い方をするということはど素人だがそれなりに頭が回る奴ってことだ


とりあえず状態の良い拳銃を何梃か出してやる

カウンターに並べると確認ため触り始めた


当たり前だが弾も弾倉も渡していない

性能のいい銃を持って変な気を起こす奴がいるのだ、本当に


どうやらこの女はその類では無いのか用意したものをぎこちない手つきで確認しカウンターに置くと黙りこくって眺めている


「どれがどれかわからないか?」


「…そうね。 銃なんてどれも似たり寄ったりだから」


「じゃあ、どういう目的か言ってくれ。 銃の経験は?」


「あまりないわ。 前はさっきのと似ていたのを使ってたの」


となると、自動拳銃はダメだな

リボルバーの方が向いているかもしれない


「目的は撃って当たれば良い。 それだけで十分よ」


「…わかった。 じゃあこいつだ」


最初に出したジャンクガンをよりも大きな本体のリボルバーを差し出した

フルサイズの銃に比べれば小さいが女性が使うにはちょうど良いサイズだろう


「それなら使えるだろ」


確認のために構えたり弾倉を出して確認していた

その横で専用の弾を箱でとりあえず用意しておく


「えぇ、ありがとう。 これにするわ」


「2000でいい。もっと取りたいがな」


「高く取るのね?」


「商売なんでな」


口止め料分の金も重ねられ受け取り会計を済ませてもう帰るだろうと思っていた矢先であった

先ほどまで沈黙していた電話が甲高い音を鳴らす

「うるさいな」と小さく溢し受話器を取り耳に当てた

受話器越しに聞こえた声は知り合いの声であった


『よぉ元気してっか?』


「言いたいことはいくつかあるが、とりあえず要件を言え…ノーズ」


奴の偽名を言ってやると少し黙り込んで続けた


『なるほどな…連絡が少し遅かったみたいだな』


「次から来る前に教えろ」


『まぁいい…数日その女の面倒を手取り足取り見てやれ。 それだけだ』


「あ? おい待て」


『じゃあな! がんばれよ〜」


聞き返そうとした途端通話が切られた…なるほど完全に面倒ごとだ

奴が話を遮って切るときは面倒ごとの兆候だ

面倒みろだと? こっちは逃し屋だ匿うだそんなサービスしてねぇんだようちの店は


受話器を置いて女の方へと振り返る

女は事情を話されていたのか平然とこちらを見ている

なるほど、なったらしょうがない


「よろしくね? 色々と」


呑気なもんだ…いや、それは俺もか

注いでいたが冷めてしまったコーヒーを啜った


コメントや感想、誤字脱字などの指摘は受け付けているので気兼ねなくどうぞ

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