第7話 俺様の誘拐事件と俺様のくしゃみ
俺様たちは、日が暮れる頃に、やっと帰ってきた。
城館はダンジョンより怖いところだったのだ。きゃーきゃー言う女の人は魔物より厄介なのだ。
ハンターギルドの受付の机に座ってやっと休憩できるな。毛づくろいをして、ごろんと転がる。後足と前足をまっすぐに伸ばして、にゃんこ棒スタイルだ。
のんびりしていると、商人さんがやってきた。やけに上機嫌だな。
「ヌコ様、城館のほうはどうでしたか?」
俺様は前足を伸ばして肉球をにぎにぎ。しっぽで一回だけ机をぺしっと叩いた。
「そうですか、大変だったんですね」
はて? 商人さんは、さっきので何を理解したのだ?
受付の奥から、茶色の女の人もやってきた。
「お疲れ様です、ギヨムさん。商業ギルドのほうはどうでした?」
「請求書をギルドに提出してきましたよ。商業ギルドも難しい立場になりますからね。商会を保護するのが本来の役目ですが、ハンターギルドと争う訳にもいかず。今回は事務的に請求書をステハン商会に送るだけみたいです」
「商業ギルドが邪魔してこないなら何よりです。
それで、壊れた魔道具の納期はいつ頃になりそうですか?
ハンター達の依頼処理は手作業でなんとか再開する予定なんですけど、
本部との連絡が郵便だけだと色々と問題がありそうで」
「非常に申し訳ないのですが2週間はかかりそうです。そもそも在庫がある商品じゃないので。王都の工房から取り寄せですし」
茶色の女の人はがっくり肩を落とした感じだ。
「2週間・・・私とナリンで頑張るしかありませんね」
商人さんは、ふむふむと少し考え事。ちらっと茶色の女の人をみて言った。
「どうでしょう、私の商会からベテラン事務員を派遣しましょうか?
計算も早くて確実、帳簿の管理も完璧にこなせますよ?
3人派遣しますので金貨1枚でいかがです? サービス価格ですよ」
「2週間で金貨1枚ですか・・・ギルマスに相談してみます」
また難しい話ばっかりなのだ。俺様はちょっと鼻がむずむずしたから
「くしゅん!」
とくしゃみをしたのだ。ちょっと鼻水が飛んだけどな。
そしたら、商人さんが急に畏まって
「ヌコ様・・・そうですね、あまり欲をかいてはいけませんね。
これは魔道具の見積もり金額に含めましょう。
金貨235枚の受注ですからね。これくらいはサービスできますよ」
いや、俺様は本当にくしゃみをしただけなんだけどな。
でも、茶色の女の人も喜んでるし。まあ、いいか。
「ところで、ステイン商会の倉庫が消えたという噂を聞いたのですが・・・まさかヌコ様が?」
俺様は、ふぁ〜と欠伸してみた。いたずらを誤魔化すにはこれが1番なのだ。
「くくくっ、なるほど。ステイン商会は大慌てでしょうね。そして、こちらは、ステハンのデスクの書類で何処に何を納品するのか把握している・・・これは大きな商機です。大急ぎで手配しなくては!」
誤魔化せたかな? 商人さんは喜んでるみたいだから大丈夫だろ。
俺様は、早足て出ていく商人さんに尻尾をふりふりしってやったのだ。
しばらくしたら、茶色の女の人も帰って行ったから、俺様はいつものように、白髭の爺さんの椅子で丸くなった。
◇◇◇◇◇◇
次の日の朝、俺様は魚の干物ゾンビを追いかけていた。
ハンターギルドが休業状態だからな。人が居ないのだ。茶色の女の人も、いつもより遅い時間に来るので、朝ごはんが貰えないのだ。
だから、魚の干物を出してみた。
魚の干物ゾンビにも個性があって、すごく高くハネるのとか、小さくハネて動き回るのとか、色々あって面白いのだ。
今日の魚の干物は、動き回るやつだ。床の上を走り回って追いかけて、捕まえてちょっとかじる。
また、逃げ回るから、捕まえてかじる。魚の干物ゾンビは、面白くて美味しい食べ物なのだ。
俺様が楽しく食事をしていると、誰かやってきた。
「郵便でーす。あれ? 誰も居ないのか?」
郵便のおじさんだ。時々やってきて受付に紙束を置いて帰る人だな。
「おはよう、みーちゃん、朝から元気だねえ。エヌエラさんは居ないのかい?」
元気なのは魚の方だからな、俺様は食事を楽しんでいるだけだ。
魚の干物が郵便のおじさんの方へハネて行ったから、ダダダっと追いかけて行く。
ついでだから、郵便のおじさんの足でちょっと爪研ぎもしてみる。別に意味は無いけどな。お約束ってやつだ。
「いててて!」
よーし、魚を追いかけるぞ! また、ダダっと走って魚の干物ゾンビを捕まえた。
「みーちゃん、郵便の受領書にサインが必要なんだけど、サインできる?」
さあ、魚に食べようとしたら郵便のおじさんが小さい紙を鼻先に差し出して来たのだ。じゃまだから前足でぱしっと叩いてやった。
「そうか、スタンプでもいいな」
郵便のおじさんは、腰の袋から小さなインク台を出した。
俺様が魚の干物をハグハグ食べているのに、それを足元に近づけて来たから、バシッと猫パンチしてやったのだ。
干物は半分食べると動かなくなるからな。残りはのんびり食べるのだ。「ふぅぅ」と抗議してやった。
そしたらまた、紙を鼻先に差し出して来たから、もう一度バシッと叩いてやった。
食事の邪魔するなんて、失礼な奴なのだ。
「よし、受領書おっけー。郵便物を置いておくからエヌエラさんに渡してくれよ。じゃあな」
郵便のおじさんは、手を振って帰って行ったから、これでゆっくり食べられるのだ。
食べ終わったら、受付の机の上で毛づくろい。背中を舐めて、お腹も舐めて、丁寧に顔を洗う。
あれ? 机の上に紙束が置いてあるな。丁度いいから封筒の上に箱座りして昼寝しよう。
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【脚注】金銭感覚について補足です
興味がなければ、読み飛ばして大丈夫
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・この世界では金貨1枚が約100万円相当、赤金貨が約10万円、銀貨が約1万円、青銀貨が約千円となっています。色んな国や地位域の貨幣が入り混じってややこしくなってるらしいです。
・事務員派遣の値段ですが、ベテラン3人を2週間派遣して金貨1枚なら本当にサービス価格じゃないですか? ただし、ギヨムさんにも安くする理由はあるんです。
・今回の受注金額の金貨235枚は約2億3千5百万円です。ギヨム商会の年間売上は金貨数百枚ですからギヨムさんが上機嫌になるはずです。
とは言うものの、普段扱ってない商品なので利益率はそれほど高くないはず。それでも売上が大きく伸びるのは商会主として嬉しいでしょう。
・納期2週間を、こちらの世界で例えるなら、1億円の大型計算機を海外の工場から調達して2週間で納品という感じです。ギヨム商会すごくないですか?
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□アルファポリスでも掲載中 (アルファポリスが少し先行しています)






