第2話 俺様の初仕事と家出ヌコの事情(4)
次の日の朝だ。
俺様はいつものように、受付の机の上で座っている。
昨日、家出ヌコのチェルシーと別れてから、帰り道が大変だったが何とか帰って来れた。
赤毛の女の子と臭い人に、どうだったか聞かれたけれど「にゃ」とだけ言っといた。俺様は喋れないからな。
出掛けていく臭い人達を見送っていると、場違いな婦人が受付までやって来た。俺様を見ると「ひぃ」と驚いてちょっと震えてる。
茶色の女の人が気付いて、声をかけた。
「シスター、どうかされましたか? ハンターギルドにようこそ。ご用件を承りましょうか?」
シスターと呼ばれた婦人は避けるようにして、俺様と反対側の机の端にやって来た。めっちゃ避けられてるな。
「あ、あの、ヌコの専門家がこちらに居ると聞きまして」
「はい? ヌコの専門家ですか? ヌコそのものなら目の前に居ますが・・・」
「いえ、あの、ヌコじゃなくて、専門家の方に、依頼を、と思いまして」
詳しい内容を聞く為に机の対面に座って頂く。俺様は嫌われてるの解ってるけど此処から動く気はない。俺様の居場所だからな。
茶色の女の人が、話を聞いて依頼票に書き込んでいく。ふむふむ、ヌコのイタズラで困ってる。数日前から近所に住み着いたヌコが、子ども達のごはんを取っていくのか。洗濯物を汚したり、礼拝堂に忍び込んで飾り物を倒したり。
場所は、教会の裏手の孤児院で、この人は院長さんか。
そして、今日の朝、玄関口に大きなトカゲが3匹置いてあったそうだ。
うっかり踏んだ子どもが転んでケガをして、トカゲでシスターがパニックになって面白がった男の子達がトカゲを持って追いかけ回したり、大変な事になったらしい。
いたずらヌコを何とかしたいと、孤児院出身のハンターに相談したら、ヌコの専門家が居ると教えてもらったらしい。
「それで、たしか、お名前が、みーちゃんと言うらしいのですが」
間違いなく、あんたの探してたのは俺様だな。確かに、ヌコの事ならよく知ってるつもりだが・・・
「みーちゃんは、まだF級で指名依頼が受けられなくて。ちょっと上司と相談してきます。少しこちらでお待ち下さい」
茶色の女の人は、書き上げた依頼票を持って二階へ。俺様はやると言ってないんだけどなぁ〜。
しばらくして、買い物カゴを持って戻ってくると、俺様をちょいとそこに乗せた。
そのまま、嫌がるシスターに無理やり持たせると、いってらっしゃいと送り出してくれた。
今日もお出かけする羽目になってしまったのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
かごに揺られて、やって来たのは昨日の教会。やっぱりここだったか。そんな気はしてたんだ。
シスターは、買い物カゴごと俺様を下に下ろして後ずさった。
「こ、ここに、あのヌコが出るのです。あ、あの、お願いしますね」
さあ、その困ったヌコを探しますかね。
まずは、裏手の建物へ。ここが孤児院だったのか。玄関口で臭いをかぐ。ふんふんふんふん。やっぱりチェルシーの匂いしかしないな。間違いなくヤツだな。
昨日と同じように庭(畑?)でしばらく待っていると、チェルシーが現れた。
「みーさん、おはようございます。迎えに来てくれたのですか。ありがとうございます」
「まあ、用事のついでだ」
「おかげさまで、子ども達へ贈り物も届ける事ができましたし、お縄につく覚悟ができました」
刑事ドラマみたいになってきたな。
玄関口から見守るシスターに軽く頭を下げて、チェルシーを連れて歩き出す。ここでエンディングテーマが流れて来たら完璧なんだが。
「ところで、その贈り物と言うのは、でっかいトカゲだっのか?」
「よくご存知ですね。昨日は運よく3匹も捕れたんですよ。あの教会の地下ですから、きっと女神様のご加護があっのでしょう」
女神様の加護だと? まさか俺様がお漏らしてちゃったかも?
チェルシーのトカゲ狩りの話に適当に相づちしながら、お屋敷の入り口にまできた。
入り口のおじさんが、あわてて奥に入っていって、しばらくすると、でっぷりの人がやって来た
「チェルシーちゃん! ああ、心配してたのよ こんなにやつれて、お外は怖かったでしょう? さあ、お部屋でゆっくり休んでちょうだい」
チェルシーは、最後に俺様に向き直って「お世話になりました」と悲壮な顔をして戻っていった。
俺様の役目はここまでだ。さらばチェルシー。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ハンターギルドに戻ると、赤毛の女の子がシスターの依頼票を常時依頼の掲示板に張り出していた。
「みーちゃん、おかえり! 早かったね、どうだった? 孤児院のヌコ退治できた?」
いや、退治してないから。
いたずらヌコは、家出ヌコのチェルシーだった訳で、家出ヌコの依頼も、いたずらヌコの依頼も、これで完了だ。今日からまた昼寝が出来るぞ。
俺様は机の上で丸くなった。
午後になって、お屋敷の使いの人が来た。
家出ヌコ探しの依頼票に完了サインをして、「奥様からの特別報酬」として魚の干物を一箱くれた。
ヌコ用に塩分控え目にして小骨も柔らかく処理しているのだとか。これ専門の錬金術師を雇っているそうだ。
今日の夜ごはんは、これで決まりだな。
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