ただ一言欲しかっただけ
生まれた時からいいことなんて一つもなかった。
ヒステリックな両親、私のことを処理道具にしか思ってない大人たち、腫れ物のように扱うクラスメート。
そんな中やっと見つけた幸運があなただった。
私の生い立ちもひっくるめて「好きだ」と言ってもらえたのは初めてで話すだけで笑みがこぼれるほど嬉しくて。
だから、ついあなたの気をもっと引きたくて口にした言葉が大きな間違いだったのに気づいたのは何もかも終わった後だった。
「こんな穢れたの捨てていいよ」
私はただあなたに「そんなわけない、大丈夫」と頭を撫でて愛を伝えて欲しかっただけ。
話しかけてもあなたは全く気にも留めなくて生返事。
反応して欲しくて過激になる。
ある一点を超えたところであなたはようやく口を開いた。
「俺に当たらないでよ」
冷や水を被った気分になる。
「悲劇のヒロイン気取ってるつもり?」
涙がこぼれそう。
「ユリの親御さんと一緒だよ、そんなの」
やめて、一緒くたにしないで。
「俺も手伝うから治そ?」
二の句が繋げずに黙りこくる。
彼の表情から悪意を感じないことより言葉のナイフが痛かった。
「そっか、怒らせちゃったね」
上手く笑えてるだろうか。
「ごめんね」
我慢しきれなかった一雫が頰を濡らす。
二人で借りたアパートは開放的な窓がお気に入りだった。
それを開けると冬の冷たい風が入り込んでくる。
お互い好きなのは間違いないのに。
弱くてごめん、許して。
後ろであなたの声が聞こえる。
違う、私が欲しいのは静止の言葉なんかじゃない。
一言、慰めて欲しかったの。