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転生旗本退屈日記

作者: ソルト

 どうやら俺は死んだらしい


 生まれ変わらせてやると言われたがそれが誰なのかは判らない。


 神?仏? もしかしたら悪魔かもな。


 もしや剣と魔法の世界なんて事はなかったよ……普通に同じ日本だそうだ。ちぇ! 言語チートは無しか。


 過去に転生なんてありふれてるから未来は? 駄目ですかそうですか……便利道具を無限倉庫インペントリにたくさん持ってるお世話ロボットがいる世界に密かにあこがれていたんだがなあ。


 過去一択だそうだ、戦国時代は修羅の国其の物だからいやだな…それは無い? ありがたい。そう思わせておいて南北朝…楠とか足利がガチ殺りあってる時代もやだよ…お呼びで無い? ああ良かった。


 ネット小説では縄文時代がのんびりしてていいらしいが……え? 甘く見るな? すいません!


 無駄な駄弁りをしてたら時間だそうだ。 じゃあ楽しんで来いってどの時代なんだよ?


 聞こうと思った所にボツシュートみたいにいきなり足元に落とし穴作るなよ!良いじんせいを?何じゃそりゃー




Δ


 いきなり六歳児の中で目が覚めた。 赤ちゃんモードでなくて良かったよ、恥辱遊戯は苦手なんだよな。


 どうやら判ったのはこの時代は江戸時代であった、元和偃武げんなえんぶ 万歳! この時代なら疫病や飢饉など以外で命の危険は少なくなった。


 因みに俺は武士の家に生まれたようだ、外様大名の領地の百姓でなくて良かったよ。 けどな、大名みたいな家じゃないのは分かってる非常に質素だからね、うん。


 どこかの大名の家来なんだろうけど一帯どこの家中なのかね?



Δ


 八歳になった。


 どこの家に仕えているのか判ったよ、なんと幕府しょうぐんさまに仕える旗本だった。


 旗本って言うのは徳川幕府に仕える侍で将軍様に会うことが出来る御目見おめみえの家格を持つ者で1万石以下の石高の者の総称であるとのこと。


 教えてくれたのはこの世界での俺の親父である…父上と呼ばねばならんのだが何か凄く抵抗があったよ最初はね。


 あと教えられたのは我が家のルーツだ。


 名乗りを忘れていたが我が家は榊原という、そう榊原といえば徳川四天王の一角榊原康政の家かと色めき立ったけど父上から教えられた事はとんでもない事だった。元々はうちの先祖は榊原康政が家康に仕えた頃に仕官した口で元々縁戚関係にあった訳ではなかったとの事、向こうは出世してやがて四天王の一角になったが我が家はぱっとせず底辺旗本になったとの事だった、その後諸家家系図が作られる事になり先祖の怪しかった我が家は困り果ててなんと康政に一族に入れてくれと頼んだそうだ、そこで超傍流の某という人物が分家して我が家の祖になったとしてもらい現在に至っているということだ。


「源三、それは先代までだぞ」


 父上に言われて頷く、そう父上の父上、俺にとっては祖父の時跡継ぎの男子に恵まれなかったため親父が婿養子に来たわけだ。


 そして父上の生まれた家が旗本榊原家、うちとは違ってちゃんとした康政の分家である。 ただし父上は部屋住みの五男だったそうだ、それを見るといかに向こうが此方をどうでもいいと見ているか判るよね。 そんなこんなで家系図上で親戚だったのがやっと本当の親戚になったというわけだ、結果良ければそれでよしという事さと父上は笑っていたけどね。


 と言う事で俺の名前は榊原源三久之、最底辺の旗本榊原家の嫡男だ。


 その我が榊原家は禄高150俵で知行地無しの蔵米取である。旗本としては最低クラスというわけだ、御目見えの出来ない御家人の最高クラスより下である。


 当然役しごとも無い小普請組に属している、父上は部屋住みの五男だったからそれでも文句は無い様だ、最も出世の糸口も無いから致し方ないよね。榊原本家も其処までは世話してはくれないらしい。



 そういうわけで我が家の立ち位置を確認したわけだが、今は江戸時代の何時ぐらいなのかな?



「公方様? 館林から綱吉様が入られてな今は天和だ」


 

 え? もしかして犬公方様なの?


 

 かくして旗本の家に転生した俺の退屈な? 日々が始まった。



 我が家の生活は質素である、底辺の旗本なんだから当然だが、何でも徳川に仕えた初代が「我が家は清貧を家訓とする」と言ったそうなのだ、なんか負け惜しみが強いけどあんまり継ぎ当てだらけの着物を着ていたので神君家康様から着古しを賜ったとかで其れが家宝になってたりする、初代がさらに着古したのでぼろぼろだけどね。自慢とするのは借金が無いことくらいだ、代々無理せず身の丈に合った暮らしをしていたかららしい。


 食事は一汁一菜一日2食で非常に健康的だ、これなら間違ってもメタボにはならんな、でも同じくらい貧しいはずの他家に太った奴がいるのが信じられん、水でも飲んで太ったのか?


 質素ではあるが栄養バランスはいいみたいだ、ご飯も白米ではなく七分搗きという米に麦を混ぜた物を食っているので脚気にはならないな、あれは白米ばかり食べているからなる物だしね。


 動物性たんぱく質は主に魚である、肉が食いたいと言ったらイノ鹿シカチョウしか無いと言われた。牛肉という選択肢は無い様だ、最もあのジューシィな牛肉なんて手に入ら無いけど。


 当然魚屋で買うなんて贅沢が許される訳がないので専ら釣りや網で魚を採るわけである。


 因みにまだ生類憐れみの令は出ていないので咎められる事は無い、今日は投網でもするかね。麻で出来た網を担いで俺は川に向かう。何時行っても魚影の濃い川に着いて一網打つと結構な収穫となった。


「よしよし、大漁だな」


 この時代は上流に人がたくさんいないので生活排水も少ないし、余り河川整備されてないから魚影が濃い。


 川魚だから刺身とはいかないが、おかずが豪華になるのは良いよね。


 そう思っていると釣竿を持ったお侍が現れた、といってもこの時代金は無いが暇な武士は結構居るみたいでこのような場所で会うのはそう珍しいことでは無い。この場所に来る侍はほとんど顔見知りなのだがこの人は初対面だな。


「この場所は魚影は濃いですかね」


「そうですな、結構魚は居ますよ。釣るのであればあそこが良いでしょう」


 俺は釣りをする時に使う場所を指さす。


「忝い、ここは初めてでしてな、相方(同僚)が良く釣れると言うので明番(休日)に来てみたのですよ」


 身形からして中級~上級旗本と言ったところか、大身旗本だと殆ど大名みたいなものだからこうして供も連れずに歩くわけないからな。まあこんな所で詮索するのは野暮というものだ。


「某は大岡忠右衛門と申す、貴殿は?」


 大岡?どっかで聞いたような姓だがまあ結構大岡姓はいるから関係ないだろう。


「拙者は榊原源三と申します」


「おお! それでは神君様の四天王の御一族でござったか!」


 まあ、間違いでは無いんだけどね、超傍流だけど。


「まあ、末葉を汚しているだけですよ」


 これが今後生涯の友となる大岡忠真との出会いであった。



 友達も出来(家格は違うが)時折連れ立って釣りや囲碁を楽しむようになったある日、連れ立って浅草寺へ参拝に出かけることに。もっともその真の目的は山門を潜った中にある仲見世にいく事なのだが。


 まだ提灯の無い雷門を抜けると両側には幾つもの屋台が並んでおりこれが仲見世である。前世の記憶にある提灯付きの雷門で無いのを含めて新鮮な風景だな。


 そのとき前方で騒ぎが起きた。『掏りだ!』『何だと!』


 どうやら武家と町人が揉めているらしい。


 俺は忠右衛門と目配せをして近づいた。


「俺のどこが掏りだって言うんだよ」


「そなたがぶつかってきた時に懐に手をやったのは判っている」


 争っているのは少し派手な衣装の町人とまだ若い侍とその奥方らしき人物である。


「じゃあ財布はどこにあるって言うんだ?無いのでは話にならんだろう」


「それは……」


 町方役人が呼ばれているが肝心の財布が見つからず状況は侍不利である。


「財布はここにあるんじゃないかな?」


「!!」


 忠右衛門殿が抑えている男の懐から取り出した分不相応な財布を見せる。


「それは某の財布!」


「そこの男がこいつに手渡ししてたんですよ」


 町方役人に見たことを教えてやると犯人二人は番所にしょっ引かれていった。


「助かりました、某は直参の柳沢房安と申す者、そして此方は妻の染でござる」


 え?まさか後に大老格まで出世する柳沢吉保?


 なんちゅうメジャーな人が浅草寺に居る? まあこの頃はまだ綱吉に付いて館林からきてそう経ってないはずだから気軽に出歩いてるのか。だけど何てエンカウント率の高さよ。


 俺は天下泰平の世でのんびり貧乏旗本の生活を楽しもうと思ってたのにまるで誰かが邪魔をしているような…… はっ!まさか俺を転生させた奴が面白がってやっているのかも。


 楽しそうに話している大岡殿の横でいやな予感にさいなまれている俺であった。




「弥太郎、浅草寺に行ってきたそうだな」


「はっ! 心洗われる思いでした、帰りに掏りに会ったのですが直参旗本の方々に助けていただき……」


「ほう? それは面白そうだな詳しく聞かせよ」


 柳沢弥太郎こと後の柳沢吉保は館林以来の主に伝えた。自分を助けてくれた二人の旗本について、高潔で勇気ある人物として語ったそれは主の記憶にしっかりと焼き付けられたのであった。



「どうしてこうなった……」


 俺は今江戸城の中に居る。


 確かに事実上仕事の無い小普請組でも江戸城に揚がる事はあるがここは確か上様との御目見えの間のはず、基本家督を相続の為御目見えはするはずだが、その他大勢の中でするはずなのだが……


「どうやら源三殿と二人だけのようですな、某ら何かしましたかな?」


 何も知らない大岡忠真は暢気に話しかけてくるが恐らくは……


「上様の御成り~」


 そう声が掛かったので慌てて上座に向けて礼をする。


 襖が開く音がして足音が響き。


「苦しう無い、面を上げよ」


 その声に恐るおそる顔を上げると其処には当代征夷大将軍徳川綱吉の姿が……


 あ、これ終わた、俺の平穏で退屈な旗本生活が。


 そして始まる。


 犬公方様と愉快な面子の元禄太平記、その序章が。

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[良い点] 面白いです [一言] 序章ならば本編もお願いいたします(ジャンピング土下座)
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