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第七十六話「科学研究所」

 月が雲に隠れたのをねらい、ステファンは木の頂上から空に向かってとんだ。


 そして素早く印をはなった。


 すると強い風がステファンを後ろから押しすすめてくれた。


 それは一瞬の出来事で、ステファンは警備兵に気づかれず屋根に乗ることができた。


 ステファンは屋根につくと、素早く煙突まで移動した。


 煙突からは白い煙があがっている。施設の中で何かが行われているのは確かだ。


 ステファンはそっと中をのぞいた。


「ゴホゴホッ」


 なにか変なものが燃える臭いがした。これをまともに吸いつづけると気を失いそうだ。


 ステファンは小さく印をきり、顔の周りに空気の膜をつくった。


(これでも長くは無理だな)


 ステファンはそっと煙突の中に入った。


カンッ コンッ カンッ コンッ


 下からと金属を打ちつける音がする。なにかを作っているようだ。


 手足で落ちないように支えながらゆっくり下におりていく。


 煙はモクモクと出つづけ、決して心地いいものではなかったが、煙が姿を隠してくれたのは好都合だった。


 金属をたたく音がかなり近くなってきた。


 下を見ると煙の合間から施設の中がみえる。


(ちょっと内部をのぞいてみよう)


 ステファンはクナイ取りだし、カンッコンッという音に合わせて壁の隙間に打ちつけた。


 クナイを支えに施設の中をのぞくと、吹き抜けの大きな広間があった。


 どうやら工場のようだ。


 ステファンはそこにあるものをみておどろいた。


(なんだ、これは!?)


 そこは何体もの人型の大きな機械がならんでいたのだ。


 ステファンはその機械に見覚えがあった。


(「鬼」だ!)


 それは鶴山城でみた鬼のカラクリそっくりだった。しかも鉄を使っているので威力は増しているだろう。


(マジェスタは、あの鬼にもかかわっていたのか)


 ステファンはマジェスタに怒りをおぼえたと同時に、底知れぬ恐ろしさもかんじだ。


 研究所の中は夜なので作業している人間はすくない。しかし、副大統領に狙われている現状で、外の警備の厚さを考えると、中に人間は多いと考えたほうがいい。


 ステファンは隙をみて吹き抜けの三階の廊下へ飛びうつった。


 地下への入り口は一階の階段付近だ。大体の見取り図は覚えてある。ステファンは記憶を頼りに一階にむかった。


 何度か人が通ることがあったが、闇にまぎれてやりすごし、とうとう一階についた。

 ステファンは一階の中央部分にある階段までやってきた。


(地図にないということは、地下への入り口はどこかに隠されているんだろう)


 ステファンはそっと窓から外をみるとたしかに地下への空気孔がある。


(このあたりなのは間違いない)


 ステファンはあたりを気にしながら、階段の場所を丹念にしらべた。すると、階段の裏のスペースに大きな鉄板が敷かれた床があった。

(ここが怪しいな。これが地下への入り口なら鉄板を人が持ちあげるというよりも)


 ステファンは周りを見わたした。すると案の定、ハンドルがあり、そこに鎖がつながっている。


 ステファンはそっとハンドルをまわした。


 ゴゴッ、という音と同時に、少し床が持ちあがった。


(やっぱりな)


 ステファンはできるだけで音がないようにゆっくりハンドルを回しつづけた。するとステファンが入れるくらいの隙間ができた。


(よし!)


 ステファンはそっと隙間に体を滑りこませた。


 階段を降りると、そこは牢屋がならんであった。


 空気孔から漏れる光がわずかに牢の中を照らしていた。ステファンは音をたてないように気配を消して身を低くした。


 牢の中の人間はほとんどが眠っていた。ステファンは一つ一つの牢をそっとのぞいていった。


 そして巨漢の男が眠っている牢を過ぎ、一番端の牢の中をみたときだった。


 その人は、眠らずに空気孔から空を見あげていた。


(パ、パパ!)


 月明りに照らされたその顔はしわや白髪が増えて老けていたが、まぎれもない父だった。

(パパ! パパ!)


 ステファンは思わず涙がでた。


 しかし、ここで声を出して、まわりの者が目を覚ましたらまずい。それによく見ると牢の中でさらに手足を鎖でつながれていた


 ステファンは、高鳴る気持ちを抑え、父に聞こえるくらいの大きさで、床を指でたたいた。


 トン、ツー、ツー、ツー、トン


 それは父に教えてもらったモールス信号だった。


(S-T-E-P-H-A-N )


 ステファンは自分の名前をたたきつづけた。


 やがて父はその音に気づき、そしてその信号の意味を悟り、大きく目を見みひらいて牢屋の外のステファンをみた。


 父はじっと息子の顔をみた。その目には大粒の涙がうかんでいた。



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