表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/83

第六十八話「忍術と科学の融合技」

 ステファンは目をあけた。


 そこには金色で光る枝垂桜の紋と茶色の髪をしたマジェスタがたっていた。


「ほう、もう戻ってこれたか。『正気』の君とはお別れかと思ったよ」


 マジェスタが目をほそめた。


「ステファン!」


 隣には涙ぐむ迅とマックスがいた。流たちも戦いの構えをとりながらもほっとしたようすだった。


「ほ、本当に帰ってきたのか、ステファン」


 松五郎の言葉に、ステファンはうなずいた。


「心配かけてすみません。記憶がなくてどうなったかわからないんですが、なんとか帰ってこれたみたいです」


「無茶しやがって! このバカ!」


 マックスがステファンの背中をたたいた。


「うぐっ!」


 ステファンの体に激痛がはしった。


「お、おい、だいじょうぶか?」


「あ、ああ。ここで立ちむかわなきゃ、何のために猿飛さんの鈴をつけたのかわからない」


 マジェスタがゆっくりせまってきた。


「面白いな、君は。だが、せっかく得た自然の力も使えなければ、このサル男のように失格になるよ」


 ステファンは印をきった。なぜか印のきり方をしっていた。


 風の力が自分の前に集まってくるのがわかる。


 ステファンは印をはなった。ステファンの前でうまれたかまいたちが、ステファンの思い描く通りにマジェスタにむかった。


 バシッ


 マジェスタはそのかまいたちを素手でにぎりつぶした。


「本当なら一から手ほどきをしたいんだが、あいにく私もそこまで気は長くないのでね。さあ、どうする、忍者たち?」


 マジェスタはあいかわらず余裕の表情で忍者たちをみまわした。


 ステファンは流たちを横目でみた。彼らも力を使っているので、体力を考えても、長期戦は避けるべきだ。


(個々で攻撃しても確実に負ける。それぞれの力を最大限に活かすには、どうすればいい?)


 流がふたたび攻撃をしかけた。それにあわせて椿もコンビネーションを仕掛ける。


 炎の拳がマジェスタをおそう。マジェスタは軽く避けたが、服の袖に火がついた。


 マジェスタは何の動揺も見せず回転し、火のついた袖を水をまとった椿に拳にぶつけた。椿は、火から避けるために慌てて水の力を強め、その水が結果的にマジェスタの袖の火を消すことになった。


「ありがとう、消防士さん」


 マジェスタは自分の袖をパンパンとはらって、服をととのえた。完全に余裕に満ちている。


「何が消防士だ。完全に遊んでいやがる」


 マックスがつぶやいた。


(消防士……?)


 ステファンの脳裏に、父と友人の消防士に聞いた話がうかんできた。


(あれができるか……迷っている暇はない、一か八かだ!)


 ステファンはマックスに小声でいった。


「マックス、策がある」



 ステファンは素早く椿の横にすべりこんだ。


「椿さん、空気の通らない水の膜にあいつを入れることはできますか?」


 椿は驚いたがうなずいた。


「ええ、できるわよ」


「お願いします!」


 椿は印をきった。


 マジェスタはまるで生徒の発表をきくように立ちどまっている。


 椿が印を放つと、マジェスタの周りに水の膜ができた。


「はは、こんなことをしてどうするんだ。独り占めの水族館でも用意してくれるのかな?」


 つづいてステファンが印をきった。


 風の矢が水の膜に穴をあけた。


「マックス!」


「おぉ!」


 マックスは天守閣にあった豪華な大きな袋を水の膜に投げ入れた。


「最高級調味料だ!」


 袋がステファンのかまいたちで切り裂かれ、膜の中に粉が充満した。


「……胡椒? お前たちは私にくしゃみで苦しめたいのか? あんまりふざけるなよ」


 マジェスタが怒りの表情を浮かべたとき、ステファンがさけんだ。


「流さん、いまです! 火をあの中に!」


 その声にマジェスタの表情がかわった。しかし、流の印ははやかった。


 流が全力で炎をおくる。そこへ、ステファンが思い切り空気を流しこんだ。


「みんな、ふせるんだ!」


 ステファンが叫んだ。

 

 次の瞬間、

 

ドゥオォォォォォォーーーン


 水の膜の中で大きな爆発がおきた。

 衝撃は水の膜の上部を破り、そのまま天守閣の天井をやぶった。


 マックスが爆発の衝撃に耐えながらいった。


「どうだ、ダストエクスプルージョンだ!」


 ダストエクスプルージョンとは「粉塵爆発」と呼ばれ、空気中に舞い散る可燃物が引火すると爆発を起こす現象だ。


 豪華な天井が焦げて真っ黒になり、チリチリと音をたてている。

 


「つ、椿さん、あ、ありがとうございます」


 ステファンが息を切らしながら、同じく息を切らしている椿にいった。


「え、えぇ、なんとかみんなは守れたようね」


 椿が水の膜の上部を開け爆風を逃がし、膜の下部を分厚くしたので、忍者たちが被害を受けることはなかったのだ。


「や、やったのか?」


 松五郎が水の膜の中をみてつぶやいた。


 しかし、まだ立ちこめる黒い煙でなにもみえなかった。



 やがて、椿が水の膜を解くと、そこには黒く焦げたマジェスタの体がどたっとたおれた。


 一同はマジェスタの様子をうかがっていた。


 体から焼けた臭いがしている。生きていたとしてもかなりの重傷のはずだ。 


「ステファン、やるな!」


 マックスが誇らしげに友人をほめた。


「パパの消防士の友達から聞いた製粉工場での爆発のを思いだしたんだ。一か八かの賭けだったけど」


「まさに、忍術と科学の融合技だな」


 そのとき、流がさけんだ。


「おい!」


 マジェスタの袖の下がわずかに黒く光りだしたのだ。

 すると指が動き、マジェスタがゆっくり起きあがった。


「……お、おい、こんなに火傷を負って、まだ動けるのかよ」


 ゾンビをみるような目でマックスがいった。


 黒く焦げたマジェスタがゆっくり起きあがった。顔は焼けただれているが、その目は忌々しげにステファンをにらんでいた。


「お、の、れ、覚えておけ」


 そういうとマジェスタはささっと走り出し、なんと天守閣から外に飛びだした。


「まてっ!」


 マックスがおいかけて、外に顔を出したが、マジェスタの姿は夜の闇にまぎれてきえていた



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ