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第四十二話「流 VS 不比等」

 黒い装束をきた二人が、広場に降りたった。


「すまん、みんな遅くなってしまった」


 流は忍者たちをみわたした。だれもが勇敢に戦いながら同時にだれもが傷ついている。


 流は正面を見すえた。そこには無表情でこちらをみる不比等がいた。


「やつは俺が相手にする。椿は星丸やみんなの手当をたのむ」


「わかったわ」


 椿はさっと飛びあがり、塔のほうへむかった。


 流はその目を不比等にむけ、ゆっくりと歩きだした。

 

パチパチッパチパチッ


 流のまわりに火花がちっている。

 ほのかに赤く染まる流の体は、まるで炎をまとっているようだった。

 そして、その炎が彼の怒りを物語っていた。


 城の侍兵たちはその姿をみて危険を悟り、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。指揮官である斬鉄が倒れたので、彼らにここにいる強い理由はない。


「不比等、久しぶりだな」


「流か」


 不比等はやはり無表情だった。

 流はゆっくりと、しかしまっすぐに不比等にむかっていった。


 広場の空気が熱くなってきている。


「なぜ鶴山城に手を貸す?」


「わが一族復活のためだ」


「民を苦しめる者の手助けをするのか?」


「十年前と同じ議論だな」


「民が飢えれば国も栄えん。自分の首を絞めているだけだ」


「どうでもいい。これは仕事だ」


「大義なく、人をさらい、人を殺め、それが仕事だと!?」


「ああ。依頼者がいて、仕事をし、報酬をもらう。そこに大義や正義は関係ない。忍者とはそういうものだろう。我々はいわば道具なのだ」


「大義なくては、いつかは滅ぶ。それがわからないのか」


「何を言っても一族の存亡がかかった我らの気持ちはわかるまい」


 不比等は印を切りはじめた。それは同時に会話を終える意思表示でもあった。

 不比等の手が光り、風が不比等の周りにおこった。


「強いものが存続する。この世界はきれいごとではないのだ」


 不比等は光る手を流にはなった。

 無数のかまいたちが次々に生まれ、猛烈に勢いで流に切りかかる。


「流兄ちゃん!」迅がさけんだ。


シャンシャンッ ズバッズバッ


 流は前で腕を交差して、かまいたちをふせいでいる。


 しかし、かまいたちの数がどんどん増えていき、まるで風の刃が竜巻のようになった。


ズバズバズバズバッ ズバズバズバズバッ!


「流!」猿飛もさけんだ。


 竜巻が止んだとき、不比等は眉をひそめた。


「風遁の奥義がきかないか」


 炎をまとった流には傷一つなかった。

 流はふたたび不比等にむかって歩きだした。


 そのゆっくりとした動作とは対照的に、目に宿す怒りの炎は、まっすぐ不比等をつらぬいていた。

 その姿は、忍びの里でみた優しい流ではない。まさに炎の鬼神だった。


 不比等はおびえることもなく、淡々と忍者刀をぬいた。

 手が光り、風が刀にあつまってくる。風の刀は、瞬時に数倍の長さになった、

 不比等は地面をけり、流に切りかかった。

 風の力が不比等を後押しし、突風のような早さになった。

 

シュッ シュッ シュッ


 不比等の連撃を、流は無駄のない動きでかわした。

 しかし、不比等の攻撃はやまない。


シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ


 目にも止まらない早さの攻撃だが、流はそれをかわしつづけた。

 しかし、刀から放たれたかまいたちの流れ弾が、忍者たちのほうへ行ったとき、一瞬流に隙ができた。不比等はそれを見逃さなかった。

 風の斬撃が流れをおそう。


 バンッ!


 強烈な風に、砂埃がまいあがった。


「流兄ちゃん!」迅がさけんだ。忍者たちも成り行き息を飲みながらみつめている。


 不比等の眉がわずかにうごいた。

 流が不比等の風の剣を素手で受けとめたのだ。


「に、兄ちゃんすごい」迅はほっと胸をなでおろした。しかし、不安はまだおさまっていない。それは違う種類の不安だった。


ボォゥゥゥゥ


 剣をつかむ流の手から炎がうずまいた。


 そしてもう一方の手の平を不比等にむけた。


 流の目は鬼神のままだ。


 その手が赤く光りだす。


「流兄ちゃん、だめだ!」迅がさけんだ。

 しかし、迅の声は流にとどいていない。


 流のもとに走りだそうとする迅をステファンが必死にとめた。


「だめだ、迅。巻き込まれる!」


「でも、このままじゃ……」

 

 不比等は、流の手の光をみた。

 ステファンには不比等がこのとき少し笑ったようにみえた。


 ブワォォォォォーン


 ものすごい爆発がおこった。

 すさまじい衝撃が広場中にあたりにひろがった。


「うわぁっ」


 その場にいたものは、あわててその場にかがんで身をまもった。

 爆風と粉塵でしばらく広場はなにも見えず、誰もがただ成り行きを見守るしかなかった。


 しばらくすると、ヒューっと優しい夜風が迷い込み、煙をゆっくり運びさった。


 じりじりと焦げぐさい臭いがあたりにたちこめる。ときどきパチパチという火の音がきこえる。


 その場に残ったものをみて、忍者たちは戦慄した。 


 その場で立ちつづける流の前には何もない黒い世界が広がっていた。


 土も建物も塀もすべて爆風に吹きとばされ、残ったものはすべて黒く焦げていた。


 広場にまた雨の匂いがした。


「すまんな、椿。また余分な力を使わせてしまった」


 流がゆっくりふりかえった。その顔にはもう鬼神はいなかった。

 そこには椿の姿があった。


「今回は危なかったわよ。今でもちゃんと『包めた』かどうか自信はない」


 そういってゆっくり印をきった。


 すると、焼け跡の中から一ケ所透明な膜のようなものがうかんできた。

 椿がその膜の消し去ると、そこには傷を負って気を失っている不比等がいた。

「……息は、あるわ」


 椿の言葉に、流はひとつ息をはいた。迅も同じ気持ちのようだ。


 忍者たちが流のところにあつまってきた。


「おせえじゃないか、流!」


 猿飛が流の肩をたたく。うれしそうだった。


「すまん、みんな」 


 流は忍者たちの顔を見回して、椿に声をかけた。


「椿、星丸の具合は?」


「命に別状はない。こちらも危なかったけどね。星丸君が必死に急所を守って耐えたから助かった。もし逃げたり動き回っていたら、今頃はどうなっていたとか……。茜が塔の下で付きそってるわ」


「そうか、よかった」


 そう言うと流はがくんと倒れるように地に手をついた。それを支える椿もかなり消耗しているようにみえた。


「お前たちは、塀の裏で休んでいろ」


「……すまんがそうさせてもらう」


流と椿が塀の裏に移動したときだった。


ガタガタガタガタ、ドドドドドドド


広場が揺れて大きな音がした。


「今度はなんなんだ?」


 猿飛がまわりを警戒した。


「みんな、気をつけろ! 舞台のほうだ」


 流が声に忍者たちは舞台をみた。


ゴゴゴゴゴゴォー


 轟音とともに舞台が持ち上がり、ドドーン、と半分にわれた。

 その中からなにか巨大なものがゆっくり上がってくる。


「嫌な予感しかしねぇ」


 猿飛が鼻をひくつかせながら忍者刀をぬいた。。


「なんだ、あれは……? ……お、鬼!?」


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