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タイトル一文字。 同音異字から連想する物語、あいうえお順に書いてみた。

「な」 -那・菜・名-

作者: 牧田沙有狸

な行

別れた男の結婚相手の名前が自分にダブっているとむかつく。

あたしは加那子。

あいつの奥さんになった人は美那子だった。

同じ「那」が付き、向こうはその上に「美」がつく。

あたしと別れてから出会った美那子の名前を初めて聞いた時

あたしのこと絶対思い出しただろう。

そして文字書くたびに比べていたに違いない。

そう思うとムカついて、

結婚式の写真でできた報告のハガキを破り捨てたい気持ちになった。

年賀状と兼ねてくれればいいのに、わざわざ式直後に送ってきやがって

相当自慢したい美人なんだろう。美那子は。

写真の美那子は確かに美人だ。

あたしが振ったのに、あたしより美人と結婚した自分を自慢したいんだ。


「気に入らなかった?」

「え」

純朴そうな青年があたしを心配そうに見つめる。

あたしは、我に帰った。

結婚報告を破り捨てた自分の部屋にいた意識が、有機野菜のレストランに引き戻された。

「うううん。とっても美味しいよ」

品よく盛られた有機野菜のオーブン焼きが美しく発色している。

「よかった」

優しい笑顔を向ける青年は、今の彼氏。

美那子の旦那とは真逆なタイプだ。温野菜と焼肉。そんな感じ。

温野菜の彼は農学部出身でスーパーの野菜売り場で主任をしている野菜大好き人間。

派遣でそのスーパーに行った時に出会った。

「何か心配ごとでもあるの?」

「うううん。平気。このナスすごい美味しいね。秋ナスは嫁に食わせるな!だね」

「それって、ナスは身体を冷やすからっていう思いやりの意味もあるんだよ」

「へえ」

「だからほら、身体を温めるショウガがついてる」

「ほんとうだ」

野菜大好きで健康知識もある彼。焼肉大好きのあいつより年上だけど肌がキレイ。

余分なお肉ついてないし、量より質のオシャレな料理たくさん知っている。

「ナスか……」

彼はナスをフォークにさしながら微笑んだ。

「覚えてる?僕が始めて名前聞いた日のこと」

「え、ああ」

「バカだよな」

「うん。栃木県のナスって言ったら、那須高原とか那須塩原が普通だもん」

「いや、栃木の茄子ナスは美味いのあるから」

名前の漢字を聞かれて「加えるに栃木県の那須の那に子供の子」と言ったら

彼は「加茄子」と書いてた。あたしは中華料理か。

それからは、沖縄県の那覇の那と言うことにした。


美那子もきっとそう説明するのかな……


ふいにそんなことを考えた。

どこか、対抗している。

肉と野菜とか言っちゃうように、常に比べているのはあたしだ。

それをやめたらきっと美那子はあたしの頭の中からいなくなる。


「加菜子だったらよかったのにな」

「え?」

「野菜の菜。菜の花の菜」

「すっかり野菜好きになってくれたね」

「うん。だって肉より、野菜好きの君の方が好きだもん」

引き合いに出された肉を誰とは言わないけど、彼は嬉しそうに微笑んだ。


那須が茄子に変換されしまうほど、野菜好きなやや天然ぶりが肉食にふりまわされてたあたしには新鮮で優しかった。本当に胃にやさしい温野菜のようだった。

存在比喩じゃなくて、実際 野菜好きに洗脳された身体は気持ちがよかった。

どんどん調子がよくなって便秘も肌荒れもイライラも解消された。

ああ、新しい恋のおかげか野菜中心の食生活か、どっちもだけど、

こんなに健康的な気持ちでいられる恋愛があったんだと思った。

そう。

あたしに必要なのは野菜だ。

少しは大人になったんだなと思った。  




 

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