第2話 盗賊 ヨークの話-2
目が覚めると、日はだいぶ高くなっており、辺りを見るとアイリがいない。
今夜の舞台の準備に駆り出されているのか。買い物かもしれないな。
そうだっ! 自分も買い物があったことを思い出した。剣と外套、それに煙幕玉である。一体いくら程かかるだろう。とりあえず、調達屋のおっさんのところに行くか。そうと決まれば早速、活動を開始だな。
服を手早く着替えると、テントを出た。
行く途中、昨日盗った貨幣入れを見ると、ウータたちに渡した分け前分少なくなっている。お金足りるかなぁ。
これから行く調達屋のおっさんはジンという名で、この劇団と一緒に生活しており、舞台で必要なものなどを手に入れてくる仕事をしている怪しいおっさんだ。怪しいが腕は確かだ、どこから手に入れてくるのか、欲しいものはある程度揃えてくれるし、なかなか質も良い。だから金もかかるのである。
剣もそうだが、やはり外套が問題だ。あの外套は特製で硬い動物の皮を幾度も鞣し、縫い合わせた丈夫なものでなかなか手に入らない。煙幕玉は、面倒だけど、いざとなったら劇団の火薬をちょろまかして、自作するしかないかな。
そうこうしてるうちに到着した。
「おっさん、いる~?」
と問いかけつつ、中に入ると
「『ジンおじ様、いらっしゃるかしら』くらいかわいい物言いは出来ないのかい、お前さんは」
全身虹色の服を着た怪しいおっさんが答えた。
「はいはい、オジサマオジサマ。仕事頼みたいんだけど、いい?」
「まぁ、来るとは思ってたよ。なんかボロボロの格好で帰ってきてたって聞いてたから。で、何がいるの」
必要なものをおっさんに話すと、唸りつつ
「外套は手に入らなくないこともないけど、時間かかるよ。あと、剣は最近入ったのがそこにあるから、いいの持ってくといいよ」
剣を品定めしつつ、
「全部でいくらくらいかかりそう?」
と聞くと、おっさんの示した金額はギリギリ足りないくらいだった。
「ジンおじさまぁ~。まけていただけないかしらぁ~」
と甘えた声でいうが、
「もう遅いよ」
やっぱり、つっぱねられたか。と思ったが、
「まぁでも、煙幕玉位はサービスでつけてやるよ」
とおまけしてくれた。いいおやじだ。
軽くて使いやすそうな剣を手に取り、手持ちの金を払った、
「しょうがない、足りない分は外套が手に入ったときに払うよ。じゃぁね、おじさん、愛してる」
「まったく調子がいいやつだよ。お前さんは」
軽口をたたいて、外に出でると、そろそろ、夜の舞台に向けて準備を始めなくてはならない時間だ。一回テントに戻らないとな。
歩き出すとアイリが荷物をもってテントに戻っていくのが見えた。
「アーイリッ。一緒に戻ろう」
と荷物をアイリの手から取り、並んで歩きだす。
「お姉ちゃん、夜に舞台があるから肉が食べたいです」
と言いつつ、買い物袋を覗くと、
「ちゃんと、買ってあるから」
よく心得た妹である。
「それより、今日の舞台大丈夫なの? 怪我してたみたいだけど」
「ダイジョブ、ダイジョブ、寝たらスッキリしたし、痛みもそんなにないよ。痣はまぁ、マスクするか、化粧すれば隠れるでしょ」
「ほんとに? ほんとに大丈夫?」
まだ心配そうな顔をするので、
「そんなに心配なら団長に言って、アシスタント役に変えてもらおうか?」
と言うと、アイリは少し考え、
「いいっ、だってお姉ちゃんの技は最高だもの。うちの花形だし」
なんてかわいい事言う妹なんだ。あまりの可愛らしさに当てられ、にやにやしていると、テントに着いた。
「ほらっ、お姉ちゃんは衣装に着替えなさい。ご飯の準備するから」
日が沈み民家の明かりが目立ち始めた。
今日の舞台は宿営地から少し離れたところにある街で行われる。大きな荷物は先に運び込んでおり、後は演者たちが準備して出て行くだけだ。
劇団長と奥さんが私の怪我を見て、本当に大丈夫かずいぶん心配していた。有り難いような申し訳ないような思いがしつつも
「大丈夫ですよ、これくらい」と笑顔で返しておいた。
身体を軽く動かしてみる、少々痛みはあるが今日の演目位なら問題なくこなせるだろう。奥さんの凄腕の化粧術で怪我もほとんど目立たない。
そろそろ時間だ。お客もそれなりに入っている。今日もせいぜい一稼ぎしようか。
舞台へ歩み出でる、
「さぁっ、お集りの皆さん、これから夢のひと時をお届けいたします」