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第6話 騎士 セイの騎士団の話-2

 急いで警備隊の詰所まで行くと、同僚たちはすでに揃っていた。

「ギリギリだな。王子」「寝坊かっ」

とからかいの言葉が浴びせられる。がこれは、彼らなりの友情の証とでもいうか、まぁいつもの冗談である。

 流石に私が騎士になりたての頃は皆、遠巻きに()れ物にでも触るかのような態度であったが、騎士団の気風(きふう)とでもいうのだろうか、騎士団長からして豪快というか雑な性格であり、皆細かいことに気が回らない質なのだ。

 そういった事情で有り難いことに騎士団に馴染むのにそう時間はかからなかった。


 いい加減ひとしきりからかわれ終わったところで一人の男が姿を見せた。我らが警備隊隊長のゴートだ。彼はいつものように眠そうな目で隊員たちを見回すと、ニヤリと口の端を持ち上げ、

「まぁ、ほどほどに頑張ってちょうだいよ。頑張りすぎて怪我でもしちゃったら馬鹿らしいじゃない。何でも程々だよ、程々。じゃあ、お仕事始めようか」

 朝っぱらから何とも気が抜ける朝礼だがこれもいつものこと。彼は椅子に座り、懐から出したパイプに火をつけ、プカリプカリと煙を吐き出す。

 ただ、この様にやる気の欠片も感じられないゴートだが猛者ぞろいの騎士団の隊長まで務めるのだからただ者ではない。彼が怪しいと睨んだものは大体が何かしらの不正を働いている、王都内に持ち込めないものを隠し持っていたり、犯罪者であったりである。

 その正確さたるや、隊長こそ何か不正をしているのではと疑いたくなるほどだ。まぁしかし、その実力があるからこそ、やる気のない態度も皆に許されているのだろう。


『カーン、カーン』と鐘の音が辺りに響く、門が開き始めた。さぁ、仕事の始まりだ。顔を叩き、気合を入れる。


 昼過ぎまで、人が途切れることはなく、ひたすら荷物と書類を突き合わせていると、

「王子様よ、交代要員が来たから、昼食でも取りに行きなよ。まだまだ仕事は続きそうだ」

 先輩の騎士が門外に並ぶ列を眺めながら言う。そういえば、今日は朝から食事をとっていなかった。

「じゃあ、遠慮なく。ちょっと行ってきます」

 忙しすぎて空腹を感じる暇もなかったんだな。近くの店に入り、少し遅めの昼食にすることにした。門番の仕事の時は大概この店である。雑多ながらもおいしく、詰所の近くにあるため警備隊の御用達のような店で、同僚たちもちらほら見受けられる。軽く挨拶をして、料理を注文。しかし、空腹に任せて注文したため、パンに肉にスープ、魚、サラダと少々豪勢にし過ぎたか。


 料理が来て、早速食べようとしたその時、ふと窓の外が気にかかった。

 門の方からこちらに向かって歩いてくる人影がどうにも気になるのだ。目を凝らして見てみると「あっ」とつい声が出そうになる。


 黒い長い髪、意志の強そうなあの目に生意気そうな顔つき、間違いない。今日は町娘のような恰好をしているが、あの時の盗賊の少女だ。店の前を通り過ぎ大通りを北に向かって歩いていく。

 近くにいる同僚に、

「これ全部、食べていいから、今日の仕事変わってくれ」

 と代金を渡し、「おい、ちょっと……」という声を背中に聞きながら、店を出る。

 彼女の行った方を見ると、まだいた。そんなに離れていない。しばらく後をつけ様子を見る。すると彼女は辺りをきょろきょろと見回して、人通りが少ない路地へと入っていった。しめたっと思い、続いて路地に入り、

「おいっ、君」

 と声をかけた。彼女は振り返り、こちらに気付くとあからさまに『しまった』という顔を見せた。逃げようにも狭い一本道の路地、一体どうするだろう。

「えっ、私ですか。なんでしょう、何か失礼でも致しましたでしょうか」

 すっとぼけた顔をしている、しらばっくれるつもりのようだ。

「いやいや、どう考えても無理があるだろう。明らかにしまったって顔をして動揺してたじゃないか」


 少しの沈黙の後、諦めたように

「チッ、ばれちゃあ、しょうがねぇ。何の用だい、王子様。私を捕まえにきたのかな」

 と開き直っている。初めはそうするつもりで追いかけていたのだが、先日の件は口外するなと言われたことを思い出した。そうなった以上、表立って捕まえることはできないだろう。仕方ない。

「いいや、ちょっと訳があってね。君を捕まえるのはよしておくことにする。それにしても、私が王子だとどこで?」

 あの時名乗ってはいないはずだ。

「そんなの、あんたの姉さんに聞いたに決まってるじゃないか」

 当たり前のことを聞くなとでも言いたげな顔だ。そうかまた姉上か、一体何をしているんだあの人は。

 私のどっと疲れた顔を見て、何かに気付いたらしく、

「何も聞かされてないんだな。それにしても、あんたも大変らしいな。あんな化け物みたいな姉を持って」

 と鼻で笑った。

「まぁ、そうだが。あんな姉でも私のことは考えてくれているし、何より大事な家族だからな」

 彼女は少々、意外そうな顔をしている。

「ふーん、まぁいいや。今日はその大事な姉様に呼び出されてこんなところまで来たんだ。 そんなわけで何にも用がないなら失礼させてもらうよ」

 そういうと、彼女は路地の奥に消えようとする。姉上に? また何か企んでいるのか。なんとも不安だ。


 そういえば、一つ気になっていたことを思い出した。

「あの時、あの崖の上で君が私に向けてした仕草は何だったんだ」

 去ろうとする彼女に尋ねると、足を止め振り返る、

「ははっ、王子様あんた変わってんね。そんなこと聞くために追いかけてきたの」

 自分でもそう思う。なんとも間抜けな質問だ。

 彼女は右手の人差し指と中指を立てこちらに突き出しつつ、

「これはね、私の住んでた国で使ってた、平和と勝利のサインだよ」

 そういうと、彼女は走り去ってしまった。住んでた国? 異国の出なのだろうか。ぼーっと彼女の行く手を見つめていると、『グーっ』音がお腹から響く、朝から何も食べてない。

 なんか色々考えるのも馬鹿らしくなってきたな。

「まあいい。どっかで食事でもしよう」

 一旦、騎士団内の状態や不穏な姉上たちのことをすべて忘れてしまいたかった。近場の食事処を目指し、大通りに戻ることにした。


『グーっ』……また腹がなる。そうだ、彼女の名前も聞いていなかった。

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