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第5話 転生者  の半生-3

 目を覚ますとそこは劇団長夫妻のテントの中で、横を見ると、アイリ達はまだ寝ているようだった。とりあえず、皆がまだ生きていることにほっとしたのを覚えている。


「あら、起きたのかい」

 テントの入り口に黒髪の女性が立っていた。団長夫人のキップである。

「ここは旅劇団の宿営地だよ。私はここの劇団のキップ。あんたはここにたどり着いた途端、倒れたんだ。一体、何があったんだい」

 質問に黙り込んでいると、

「まあ、無理に聞きはしないよ。血だらけでここまで来たんだ。言いたくないような事なんだろうさ」

 言われて体を見ても、血が付いていないどころか服すら着てないことに気付いた。体を布団で隠しながらキップを睨むと、

「何を恥ずかしがることがある、女同士じゃないか。血まみれのまま寝かせるわけにはいかないだろう」

 そう言って笑うキップの笑顔は力強くも優しげなものであった。


 その顔を見たとたん頬をはらはらと涙が(つた)い。とめどなく流れ出した涙に慌てたキップが私をそっと抱き寄せ、落ち着くまでその胸を貸してくれた。


 落ち着きを取り戻した私はキップに、村が襲撃されたこと、親たちも殺されてしまったこと、命からがら子供たちだけでここにたどり着いたことを告げた。


「そうかい、大変だったようだね」

 キップが私の頭をわしわしとなでた。またジワリと涙が流れそうになったとき、テントの入り口を見てびくっとした。お前は前科何犯だというような強面(こわもて)の男がのぞき込んでいたからだ。すっかり涙が引っ込むと、

「あんた、何してるんだい。怖がってるじゃないか。入っておいでよ。安心しな、あの悪人面は私の旦那でここの団長をしてるドウというもんさ」

「お嬢さん、体は大丈夫かい」

 ドウが顔と大きな体に似合わない可愛い声で尋ねつつ、テントに入って来た。

「あのっ、助けてくれてありがとうございます」

 まだお礼を言ってなかった。

「いや、いいんだ。当然のことだ」

 ドウはキップと視線を交わし、言い難そうにこう続けた、

「君はなかなか利口なようだから話すけど、どうやら、君たちの村は火を放たれたようだ。生き残ったのは君たちだけのようだね」

 ドウは一つの村が焼かれ、生存者はいないらしいという話が彼らのような流れ者の情報網に早くも伝わっていることを教えてくれた。


「まぁ、とにかく今日は休むといいよ。これからの事はそれから考えれば」

 ドウはそう言ったが、私の心はもう決まっていた。


「ドウさん、キップさん不躾(ぶしつけ)でごめんなさい、お願いがあります。私をここで働かせては貰えないでしょうか。私たち全員親たちが死んでしまえば、行く当ても身を寄せる親戚もいない」

 自然と涙があふれてくる。それでも構わず続ける。

「でも、私は何としてでも生き抜かなければならないんです、生きて妹たちを守らなければならないんです。何でもします。どうか、どうかここに置いて頂けないでしょうか」

 私は膝をつき、地に額をこすりつけるかのように頭を下げ頼んだ。

 団長夫婦は五歳児が土下座をし、必死に懇願する様に何が起こったのかと驚きのあまり硬直していたが、


「やめなっ、子供がそういうことをするもんじゃない!わかった、わかったから。とにかく今はゆっくり休みな。」

 キップが私を抱き上げ、強く抱きしめていた。ドウも傍にやって来て、

「そうだね、それについては明日話そう。ほかの子たちのこともある。ねっ。」 と優しく諭した。私はゆっくりと頷き、

「はい。」

 と短くいうと、やはり疲れていたのだろう。そのまま、キップの腕の中で眠りに落ちてしまった。この時はまさしく必死の思いだった。


 今思うと、団長夫妻には大変な迷惑だったろう、大いに反省しなくてはならないな。


 それから、私たち四人の旅劇団との放浪の生活が始まった。

 何でもしますと言ってはみたもののなんの見世物もできない私は、劇団員たちの炊事・洗濯・掃除に演目の準備・補助を手伝い、その合間に色々なことを教わった。何しろ人々の入れ替わりが激しい環境だったので、舞に曲芸、演技、歌、楽器、果ては火薬の使い方から負けない喧嘩の仕方まで。旅劇団に幼い子供がいるのが珍しかったのか、彼らは教えを請えば面白がって何でも教えてくれた。

 余計なことまで教えようとする奴らはキップにぶっ飛ばされていたけれど。


 そんな教えの中で最も真剣にやったのが、剣術である。あんな悲劇から妹を守るためには絶対必要だと思ったからだ。これは、元々隣国で剣士をしていたという男に教わった。その男がかなり小柄だった故に、編み出されたその独特の剣術は女の身である私に最適だった。その男がふらりとどこかに消えてからも毎日訓練は絶やしていない。


 そんな慌ただしいながらも充実した生活を送っていたが、どうしても頭を悩ませることがあった。アイリ達のことである。当たり前だ、三、四歳の子供が親を恋しく思うのは。何とか柔らかく親たちにはもう会えないという事実を伝えるがうまく理解できない。

「おうちにかえりたい。」というアイリと一日中揉めたり、一晩中テントの中で泣いている三人を必死に宥めたりする。そんな日々が続けば、もちろん体に無理が来ることもあった。


 ある暑い日、その日は朝から忙しかった。初めて行く場所での興行で準備も膨大だった上に、例のごとく一睡もしていなかった私はテントに帰った途端、気絶し倒れ伏してしまったのである。

 これはキップから後で聞いた話だが、私が倒れた後、ウータが団長のテントまで呼びに走り、サイとアイリは大泣きしながら必死に私を看病しようとしていたらしい。ドウとキップが来た後も三人は涙をこらえながらも私から離れようとしなかったみたいだ。


 その日をきっかけに少しづつではあるが、アイリ達の顔にも生気が戻り始め、劇団の生活にもなんとか馴染もうとしだしたのである。


 そうして、二年、三年と劇団の生活にもすっかり慣れてきて、私が舞台に立ち始めた頃、髪を黒く染めるようになった。これはキップの発案である。確かに舞台映えするというのも理由の一つだが、私は村を逃げる時敵兵に見つかっている。これから人前に立つ機会が増えるので万が一の事を考え、変装し一計を案じたのである。

 更に、この頃から私は流れ者の情報網を使い、情報を集めるようになった。もちろん村を襲い、両親たちを殺した奴らを探すためである。あいつらの身に着けていた品々からして、流れ者の傭兵やゴロツキではないだろうと考え、貴族や騎士、金持ちの商人に当たりをつけた。

 近くにいるらしい時には出向いてこっそり調べたり、たまには荷馬車を強襲したりもした。


 まぁ、お金が欲しかったというのもある。


 そんなある時、とある商人の馬車を襲い、荷物を漁ると意外なものを発見した。銃だ。

 見つけた当初、それはほとんど使いものにはならないものだった。狙いは安定しないし、一発ごとに次弾の装填(そうてん)に時間がかかりすぎる上に、(もろ)く数発続けて撃つと使えなくなるのである。

 しかし、これは使えるのではとひらめいた。もし(かたき)を討つ相手が貴族であった時、魔法に対抗するためにはちょうど良いのではと。私は、そこにあった銃を持てるだけ持ち帰り、サイ、ウータと共にこれらを改良することにしたのだ。前世でのおぼろげながらに知りうる銃の知識を総動員して。

 時には、火薬の扱いに長けた劇団員に手伝ってもらったり、調達屋のジンに頼んで必要な部品を手に入れてもらった。


 最近になってようやく満足のいくものが数丁出来上がった。この間の一件で、一丁はあの王子様にやられてしまったが。やはり、もう少し改良の余地ありか。


 とにかく、そんなこんなで不幸な死を遂げた日本人の青年は、妹思いで、凄腕の盗賊で、旅劇団のスターなスーパー美少女へと変貌を遂げたのである。


 あぁ、あの王女様に昔話をしたせいでいろんなことを思い出してしまったな。

 でも、王女に頼まれた今回の大仕事、これを果たせば、私たち皆安心して愉快に楽しく暮らせるようになるかもしれない。ようやくだ。

 ようやくだよ、父さん、母さん…

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