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童貞丸出しですが、しかし美形ショタです。童貞丸出しですが。

やたらとキョロキョロしている。

こういうバス使うの初めてなのかな。


バスの番号というか、行き先名や会社名を、手元の紙を何度も見返して、「うんうん」みたいに、念を入れて確認している。


 田舎から来たひとではないことは見て取れた。

荷物が、ショルダーバッグひとつと、ギターを背負っている、それだけだったから。

旅荷物がないって意味だよ。


 なんで僕がその女の子をそこまで観察して、こうして事細かに描写しているかというと……



 ……キモイといわれることを承知で告白しよう。


 かわいい。



 派手はでしい感じじゃない。むしろ結構地味な感じ。


 色素の薄い……プラチナブロンドとまではいわないけど、相当に薄い茶色の髪は長く、しかしガチガチにセットしているというのではなく、首あたりでゆるやかにふたつのおさげとしてまとめている。


ツインテというより、おさげ。

完全にマニアックな比喩で伝わらないことを覚悟しているのだが、要するに「らき●すた」の卒業後、大学編の柊かがみがときどきする髪型。

アニメしか見てないひとにはわからんだろう。

アニメ以降でも原作を丹念に追ってないとわからんだろう。


 その髪型から察せられるように、全体的に素朴なのである。

ふわっとしたロングスカート、穏やかな感じのカーディガン。なかなか上品だ。暖色でまとめたコーデは、人柄を感じさせる。


 で、かわいい。


 その顔は、ほら、最近よくあるじゃん、

 「どーもこれ、フォトショで加工したんじゃね? 美人は美人なんだけどさ……」

 みたいな、写真。

女の人の。ていうかギャルの。


 そういうのとは、まったく対極の、

自然な、

ナチュラルな(同じやん)、

素直な、

まっすぐな、

心穏やかな、

それでいて一生懸命そうな、

好感がもてる顔つきだったのです。


かわいい。


 正直、超好み。


 わりに今までの人生で、アクの強い女性……というかあいつらはホント……まあいいや、そういうのとつきあってきたから、彼女のようなほがらかそうな女性は、僕を無条件に引きつけるのでした。


 ああキモイ。


 まあ、もちろんのこと、ナンパ的なことはしませんよ。

僕の愚父ならともかく、わりに僕は、そこまで好みでありながら、踏み出せない。

ヘタレと呼べば呼べ。僕は常識人なのだ。


 ところがどっこい。


 その女の子、ギターをふつうに軽々担ぎながら、僕の方にやってくるではあーりませんか!


 え、え、どういうこと!?


 女の子、言い出しかねて、みたいな間の取り方で、僕の方に話しかけようとします。


 どういうこと? どういうこと? じろじろ見てたのバレた? 


 「あ、あの……」


 女の子はとつとつと語りかけてくる。


 「なんでしょうか?」


 僕はいたってポーカーフェイスで淡々と受け答えをするが、うおおおおお、僕どうしたらいいんだ?


 「いきなり話しかけてすいません、ひょっとして、その制服、葵高校の『改造制服』ですよね?」


 「ええ、そうです」


 僕が着ているのは、なんと、学校の制服なのである。


 しかし、しかしである。これは単なる制服ではない。

軍服めいた黒衣、肩や腕のあたりには、十字架をモチーフにした、まるでラノベに出てくる聖職者のような飾りの布があしらってある。


 全体的に、黒の下地に、赤や白の線でスタイルを決める……まあようするに中二的な外套コートなんですね。


 僕が持ってる服装で、もっともスタイリッシュかつフォーマルなのが、これなのである。

そうだよ、「編集部に着ていく服がない」ってやつだよ!


 僕の通っている……というか、「この僕がわざわざ学校経営に協力してやっている」葵高校というのは、かなり変わった学校で、制服の改造をも奨励しているのだ。

よって僕はこんなゴス風味のをしている。周囲曰く、葵高校の制服はコスプレ制服。


 で、だ。


 「それが、どうかしましたか?」


 「……ひょっとして、塔乃森……佑……先生ですよ……ね?」


 え? 


 なーんでこの(僕好みの)美少女、僕のこと知ってるの――と思ったが(動転してますから)、瞬時に事情がわかった。


 略歴に「葵高校在学中」と明記しておいて、んでもって、このデザインの改造制服は、都内でも相当に有名。で、前の日の電話で、バスで行くって伝えてあったから。


 「はい……ひょっとして、『星辰文庫』の方ですか?」


 「あ、よかった……私、空庭社くうていしゃ星辰せいしん文庫編集者……といっても、見習いなんですけど……あの、お隣座ってもよろしいですか?」


 「まさか拒否することなどありはしないでしょう」


 ジョークをとばしてみる。


 にっこり、プラスどことなくおもしろそうに笑って、美少女もとい編集者さんは、僕の隣の席に座った。ギターを前の席と足の間に抱えながら。

「高校経営に肩入れしてやっている」という傲慢な発現は、

しかし真実です。

第二章あたりで、そのへんのことが語られます。

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