エピローグ てきぱきワーキン・ラブ
この話(一話)でおしまいです、このパクリ小説
僕ら……主任、琴さん、オルフェ、そして僕は、編集部近くの喫茶店に、集まった。
僕のラノベが刊行されて、それの打ち上げなのだった。
いつものあの喫茶店である。テーブルを囲んで、僕らには、ゆるやかなお祝いムード、と、言葉にすればなんか変だけど、そういう暖かなアトモスフィアがあった。
「お疲れさまでしたっ、ゆうせんせい!」
「琴さんもお疲れさま。オルフェもお疲れさま」
「俺は?」
「主任には、『お疲れさま』っていえないでしょう」
「んだよ」
「……本当に、ありがとうございました」
僕は、深々と頭を下げる。
そう、このひとには、本当にお世話になった。僕らが作り上げた原稿に、主任のチェックはことごとく入る。
時にバッサリいくこともあれば、しかし丹念に穴をつぶしていく作業もある。どちらにせよ言えるのは、その結果として、僕らの作品は、どんどんブラッシュアップされていった、ということだ。
おそらく、師の指導とは、このようなものであるのだろう。
「……ふう、まあ、堅苦しいことは、抜きだ抜き。んでもって、ここんとこの詰め具合もわかってた。そういうことで、今日は打ち上げだ。本来なら酒なんだがな、お前ら、そんなんでも未成年だし。ここは俺がもつから、好きにしろや」
度量がでかい……やっぱりこのひとは、根は骨太なひとなんだろう。異能とか性癖はクズだけど。
「……で、あのー」
僕はおずおずと、主任や琴さんに尋ねる。
「僕の作品の、売れ行きとか、評価とか、どうなんでしょう……」
そう、そこ。
そこが、め――――――っちゃくっちゃ、気になっているのだ。
正直、ヘタレと呼べば呼んでもいいのだが、ネットで評判を調べられるほど、まだキモが座ってない。
2ちゃ●ねるでは、新人ラノベ作家は、三冊出してから専門スレッドが作られる、というルールがあるから、僕専用スレッドは立てられない。
また、ニュース系、文庫レーベル総合スレッド系あたりを漁ってみたら、情報は流れてくるだろうし、twit●erなりグー●ルなりでエゴサーチかけて、感想をことごとくピックアップ、という手もある。
が、なんかチキンになってしまった。
そこで、ここにいるプロ編集者から、「正しい情報」「現場の声」を聞きたかったのだ。読者の意見だけじゃなくて、書店や、取り次ぎや、社の雰囲気まで込みで。
「意外だな。お前が率先して調べてないだなんて」
「動転してるんです……実は」
ふふっ、と琴さんはほほえんだ。
「そういうゆうせんせい、なんかいい感じですよ……あ、すいません、偉そうで」
「主任に比べれば、ぜーんぜん、無にも等しい偉ぶりですよ。ははは」
僕はジョークを飛ばすが、真実でもある。琴さんのほほえみは、これもまたとても真実なものだからだ。
琴さんがいなかったら、この本は確実に存在していなかった。僕は今まで、編集者に捧げる、あとがきでの謝辞というものは、「おきまり」だと思っていたが、そう思っていた僕はなにを考えていたのだと、直腸検診したい。
これほどまでに、「お世話になった」という関係があるだろうか。ときに励ましてくれ、ときに客観的な鏡となってくれ……けれど、一貫しているのは、常に僕の味方でいてくれたこと。
孤独さを感じがちな原稿作業でも、真に孤独でなかったのは、彼女のおかげだ。
「んだとてめえ? よく言ったもんだな」
苦笑する主任。このひと、口が大層悪いけど、しかしいまのような言葉にも、肩をすくめて場を笑わせてくれる。
いい感じだな……。
「やっぱり童貞ね。ここ一番で度胸が座ってないわ」
オルフェ、こいつは最悪だ。あとで殴る。
しかし……こいつも、こいつで頑張ってくれた。ギリギリまで挿絵指定の調整が行われ、今までに書いたイラストのブラッシュアップや、新規挿絵にも柔軟に対応してくれた。世話になった……本当に。
で、だ。
そんなみんなに助けられて、僕の本はできたわけだが……。
「その前にだな、塔乃森。あの事件について話そうか」
「ええええ――――――。もう終わったことじゃないですかー。過去を振り返るのやめにしましょうよー」
あの事件、とは、言うまでもない、ドラゴンワナビ窓枠曲壁の事件である。
しかし主任、妙にしみじみとした顔……神妙な顔をしているので、僕は逆らわない。
「最後の『幻想殺し』なんだが」
「ああ、あれですか?」
「……あれ、お前自身をも、殺していただろ」
「……」
無言。それに、明快なYESは、あんまし言いたくない……が、主任の言ってることは、正しい。100点満点だ。
「塔乃森、あれは、お前が説いた道理だが、お前が苦しめられてきた道理でもあるんだろ?」
「……はい」
「お前だから言えた道理でもある……リアリティ、という面においても、窓枠を完膚無きまでに叩きのめした強度においてもだ」
「……ひとごとじゃ、ないんですよね。あのドラゴンワナビ」
「救いたかったのか?」
「わかりません。実際僕はムカついてました。ワナビの嫌なとこの濃縮だったじゃないですかあいつ。ルサンチマンまるだしで。だからいっちょ、ムショで根性叩きなおして、っていうのは道理なんですけど、けど、けど……琴さんにも言いましたけど、結局僕とあれの違いっていうのは、ほんとにわずかで……」
「……なあ」
主任が、静かに口を開く。
「一般的に、抱き枕にハァハァする奴ってどう思う?」
「キモいです」
あ、本音言っちゃった。しかし主任は、
「だろう?」
と、理解のある大人の言葉を放つ。
「俺だってわかってるよ。いい年こいて、抱き枕に腰振ってるなんてな。まあ俺はああして、公的にも嫁を抱き、私的にも嫁を抱いてるわけだ。おかげで、ヒスる用とプライベート用、どんなに最低でも二枚は抱き枕カバー買わないといけねえ。その上、フェイバリット嫁に関しては、保存用も買わないといけなくて、また使用後のカバーを干す際のご近所的な配慮も大変で……」
「もういいっす」
あまりにヘビーすぎる抱き枕erの生きざまに、おなかいっぱいになってしまった。
「最後まで聞け。しかし、そういう抱き枕erは、癒しといやらしを得てるわけだ。それは何のためかといったら、不健全な行為を通して、健全な社会人としての生活のホメオスタシスを保つ行為だ。そしてあるいは、やり方によっては、俺のようにヒスって、怪異すら退治する。……俺の言いたいことがわかるか? ワナビ的要素が同じだろうが、境遇に相通じるところがあろうが、クソバカ野郎がバカやったらお縄だし、社会に役立つ行為に結果的になったら、ひ●まりスケッチほしみっつ、ってやつだ」
「ありとあらゆるネタに溢れていて、なにからつっこんでいいやら」
でも……。
うん。そうなのか。
あんま、同じワナビだとか、そういうことは気にしないでいいのか。結果がすべてなのか。ワナビだろうと、いい奴もいれば、腐った奴もいる。
なんだ。窓枠に説教した論理の。バージョン違いじゃないか。
……ありがとうございます。もう一度。
「やっと晴れやかなツラになったな。よし。じゃ、お前の待ち望んだ話をしようか……琴、あれ、見せてやんな」
「あれ?」
僕は怪訝な顔を隠せない。何だろう。大阪屋のデータだろうか(要するに出版点数ランキング)。ま、まさか、返本率をあらわしたグラフ……
「ゆうせんせい、どうぞ」
しかし、琴さんの表情は、慈母のようないつくしみに溢れているものだった。……正直、そのときの、午後のさわやかな光が差しているのと相まって、ただの劣情とは到底いいがたい、なにかを覚えた。
その光は、彼女が出した、わりに分厚い紙の束にも、燦々と降り注いでいた。
「なんなのこれ?」
「ファンレターですよ」
……へ?
「読者ハガキ、出版社への手紙、メール、各書店からの報告、広報のレポート……いわゆる『ファンレター』からははずれるものもありますけど、ぜんぶ、ゆうせんせいの本に関わって、『ぜひ作者に伝えたい』って、思ってくださっている方々の、心の声です。……私は、それを、全部ひっくるめて、ファンレター、って呼びたいです」
これが……
そうか、これが……って、ええ? 正直、実感ないっすよ? この僕にファンレター? 「なろう」時代、ワナビ時代から、ろくすっぽ感想をいただけなかったこの僕に、ファンレター?
シンジラレナイ。
「ゆうせんせい、お読みください」
「う、うん……」
なんとも現実感のない感じで僕はその束を手に取る。
そして、一枚一枚、僕は読んでいく。
本来なら、このような打ち合わせの場で、読み切れないものであるし(量的に、質的に)、話の流れをブッチして読みふけるというのも、どうかと思う。
けれど、止められない。
一語一語を熟読する。と同時に、次を読みたい、次を読みたい、と、スピードがつく。てきとーに読んでるわけでは断じてない。よく読みながらも、しかし言葉がすうっと入ってくるのだ、僕の中に。
批評とは、違う。こんな読み方が出来る文章があるなんて。
「なんか地味でパッとしない」という評価があった。けどそのあとに、「でもこんな地味な小説も、悪くはない」
声が出そうになった。泣き声が。
「暖かい世界観がステキ」という評価があった。けどそのあとに、「けどまだ内容を掘っていけるはず。それは次巻に期待しとく」
ちょっと声が出た。歓喜の声が。
「並」と、ひとことどーんと書いてある評価があった。「でも今時こんな愛ある丁寧な小説はないなぁ」
目が潤んだ。
「ハデな売り上げはありませんでした」というレポート。「けれど、お客様からの『買ってよかった』という満足度の量は、A評価いっていいかと」
泣いた。
僕は、全部を読み尽くす勢いで、読む、読む、読む。
一枚につき涙がいくつ出ただろう。
僕は、いつの間にか、泣きじゃくっていた。
ここにあるのは、琴さんが言ったように、ほんとに、心の声だ。僕の小説が……否、僕、琴さん、オルフェ、主任、そして本づくりに携わったすべてのひとたちが、このように、暖かいこころで迎えられたこと。
僕はプロとは、計算してヒットコンテンツを生み出すものだと思っていた。今でも思っている。けど、それに尽きるのだったら、何でこのような手紙がくるのだろう?
これが、出版なんだ。小説なんだ。文芸なんだ。
僕は、今更になって、それを知った。
「ま、そういうこった。悪くないだろ?」
「ゆうせんせいっ、よかったですねっ」
「ほら、泣きやみなさ……まあ、別にいいかしら」
三人が思い思いの言葉をかけてくれる。
「ううぅ……ああっ……」
嗚咽が止まらない。涙が止まらない。喫茶店的には迷惑かもしれないけど、許してほしい。次回からはこういうキャラじゃないから。またいつもに戻るから。
今だけは……今だけは……。
やっと涙が止まった。
眼前の三人は、僕をしっかり見つめてくれている。
「これは、ゆうせんせいの力です……LAOの力ではない、ゆうせんせいの、地力です」
「そうだね、ネタでもない、チートでもない、ほんとうのもの、だ」
「私は提案しましたよね、魔改造。けど、ゆうせんせいは、それのいいとこどり……って感じでしょうか? キャラを徹底的に煮詰めることによって、安易なサービスに走らず、しかしきっちり作品を読めば、どことなく色気というか、健全かつセクシーな魅力を出すようなキャラ造形がなされていて……おるふぇてんてーの絵の清冽さと、ゆうせんせいの文章・物語のまじめさ。それを、捨てなかったんです……」
「いいものを作ろう、って思っただけさ」
僕は琴さんに言う。
「……最後まで調整には気を使った。安易にエロを入れることは簡単だったけど、そうではなくて、キャラが持つ、自然な色気……言葉悪いな、『コケティッシュさ』と言い換えよう。それを引き出そうと思ったんだ……多分、小説を真面目に書く、世界を大切に作る、って、結局そういうことだから。それこそが、僕が本当にやりたかったことだから……あいつに、ああいうふうに説教した手前、ね」
「……ありえませんよ? 私の魔改造のあとで、こんなに作者一同が『愛せる』作品になるなんて」
ふふっ、と、お互い微笑む。うん、これでよかったんだ。
「次はどうするのかしら?」
次?
オルフェが、唐突に告げる……次、次……
「あ、ひょっとして、続刊のこと?」
「ここまできておいて打ち切りなんてマネはさせねえよ」
「私もそれには断固反対ですっ!」
編集者二人、この圧倒的な味方感はどうよ! なんと心強い……
「さあて、忙しくなりそうね……新キャラはどうなるのかしら? 挿絵の風景指定は早くしてほしいわね。それだけ資料の解析も必要だし」
相方も、こうしてガッツリサポートしてくれる。
こうなったら、やるしかないよね。
「やりますよ、やらせてくださいよ。ガンガン書いていきますよ!」
僕は熱血キャラになり、宣言する。ここで引いたら男じゃないぜ!
「んじゃ、来週までにプロットまとめてこいな」
「……は?」
「今回の手応えで、塔乃森×黒井は、星辰文庫の次代を担えると踏んだ。だったらあとは実戦あるのみだ。ビシバシラノベ作家として鍛えていくぞ。三ヶ月に一冊本出してくぞ、いいな。もちろん締め切りは……」
「ちょ、ちょ、ちょ」
僕、焦る、スーパー。
「ちょっとハードスケジュールすぎやしませんかね……」
「案ずるな、もちろん怪異エージェントとしての仕事もバンバン振り込んでいくからな」
「増えた! 仕事が増えた!」
「ゆうせんせい、これがラノベ作家にして怪異エージェントの仕事なんですよ……!」
「ええい琴さん、仲間を得たような感じで、いい笑顔すな! ちょっとこき使いすぎじゃねえか!? だいたい来週までにプロットってなんやねん!」
「愚弟、逆に考えなさい」
「んだよ?」
「またパジャマ的会合も、あるいは打ち合わせデートも、取材旅行も、いくらでも、琴とのあれこれが、大義名分が立つのよ」
「そこなダンディ、僕に仕事をよこしやがれぇっ!」
「お前って、すげー厄介そうなショタだと思ってたけど、実はすげー簡単なのな」
呆れ顔の主任。あなたに言われたくないぞこの抱き枕er。
うーん、どうやら。
僕の新たな生活は、死ぬほどドタバタが続いていくようだ……って、これ、明らかに自分で選んだ道だよな。想像する以上の騒がしい日々が僕を待ってるんだぜ。チェリーボーイとか言うな。
ラノベ作家、か。小説家、か。
なるほどね。こりゃ、ワナビだったら、わからんわ。
そこな君! 君も、プロ作家になってみない?
おしまい
完結ですっ!
そして……
元ネタ各方面の先生方、ミュージシャンの方々、
そしてコンテンツの数々に対して、
ほんっとーに!
すいませんでしたーーーーーーーーー!!!!!
完結ですっ!
完結!
もうこの手の小説は二度と書けんだろう!
皆様、お付き合いいただき、ありがとうございました! よろしかったら感想いただけたら、すごい嬉しいです! あとツッコミとか御批判とか! 覚悟のうえなので……
というか、いつか怒られるんじゃないか……とくに第四章で赤松●学先生……(ぶるぶる)




