(4)
東京タワーにたむろしていたドラゴンどもが、窓枠を守ろうと、主任に向かって襲いかかる。窓枠は完全にビビっているが、むしろドラゴンたちは殊勝である。主を守ろうとしている。
上空から滑空するドラゴン。しかし主任の手には、もはやガンブレードはない。オルフェが一瞬で描いたそれは、殴り描きだったから緻密さには欠ける。LAOの具現化はネタの情報量もだが、オルフェのような「匠の技」は、力の入れ具合で変わるものでもあるからだ。
が、オルフェのあの嫌らしい笑みは、今度はもっとやる気のある何か……何か、とても嫌なものを具現化する予感がひしひしとする。
主任は真っ向からドラゴンに対峙し、走って距離を詰める……てか、てか、てか、速すぎっ! 弾丸のごとく、とはまさにこのことであって、弾け飛ぶように疾駆するその姿、獰猛にして野生。
一瞬にしてドラゴンに肉薄した主任は、相手のドタマに蹴りをブチ抜く。ドラゴンの進行ベクトルは直線から曲線へと……ようするに、ぶっ飛ばされた。
そう――主任の異能は……だいたい想像ついた。主任も具現化しているのだ。
「物語の登場人物の身体的特性」
を。
今回は緋●のアリアであったが、これはおそらく一手段なのだろう。世の身体能力向上というスキルを持ったコンテンツ(バトルもの)はまだまだある。
が、肉弾戦レベル向上ということでいったら、「ヒスる」、極めてポテンシャルが高い。
何せ、
「すべての身体能力の異常な底上げ、格闘スキルの超人化」
なのだから。チート……。
その上。
ちゃちゃーちゃ、ちゃちゃちゃちゃ、ちゃっちゃっちゃー♪
「『DRACU―RIOT!』主題歌『Scarlet』!」
琴さんは曲を奏でる。今回は魔曲ではない。なにも具現化してない。軽快なスカコア(んっ、ちゃか、ちゃか……)のリズムに、ぶっといホーンリフが、キャッチーなメロとともに、ビシビシとくる、何げにガチにスカコアとしても完成度が高い曲だ。女性Vo招いて東京スカパラダイスオーケストラで取り上げてくれないかな……こないだマヌー・チャオや、EGO―WRAPPIN’の中納良恵さんとコラボしたんだから……。
琴さんは、ホーンパートを、歪んだギターで、ゴリゴリにアレンジする。アグレッシヴ……。
しかし……この曲は、あのとき鳴った琴さんの主任対応着メロだ。主任関連の曲だ。
主任のオーラがさらに肥大する。爆発する。
「ノってきた! ノってきたぜー!」
主任はスーパー●イヤ人のように「うおおおおおおお!」的ポーズをとる。金色の閃光というよりは、紅色の閃光。その可視オーラが放たれる。無論、圧倒的迫力でもって。……正直、あまりのパワーに、味方である僕でさえガクブルするくらいだ。窓枠はもう漏らしてるんじゃないか?
おそらく。
琴さんはドラクリの世界やネタを具現化することも出来るのだろうが、今回は主任のサポートに徹するのだろう。
LAOにおいて、先ほどの主任のシスコン発言のようにに、ネタは相乗効果をもつ。重ねがけが効く。
もう一度主任の格好をよく見てみよう。
赤いラインが入ったコート、無精髭……パッと思いだせなかった僕は不学なのだろうが、しかしそれもしょうがない。エロゲの男キャラのファッションなんて誰も覚えていない。
あれは、そう、ドラクリの、風紀班主任、枡形兵馬の服装の……コスプレだっ!
「あんたことさらにチーフチーフ言えと言ってたのは、このことだったんか!」
つまりはコスプレであり、イメージプレイである。もっと言えばごっこ遊び。
衣装はそろった。BGMはドラクリ主題歌の生演奏。さらにはリアル主任。ヒスるためには、美羽抱き枕にハァハァ。
ドラクリの具現化である。LAOは、確かにこのようなこともできる――はっきり言って、たしかにハズい。琴さんが言葉を濁したのも、納得だ。
――だがしかし、愚直は美徳である……ここまでお膳立てをしたら、LAOは、それは、それは、それはもう……
最高にネタ力を発揮するってもんだ!
「いくぜっ!」
主任は、向かいの建物に向かって走り出す。
え? と僕と窓枠(たぶん失禁)は思ったが、すぐに見て取れた。人間ではあり得ない三角飛び……建物を使って、対角線上に三角飛びを繰り返し、とんでもない高さまで跳躍したからだ。ほとんど飛翔である。その間、わずかに三秒。
次の瞬間には、主任は空高く飛ぶ黄色いドラゴンと同じ高さまで到達していた。空中で、静止したかのようなポージングをする主任に、ドラゴンは驚きを隠せない。ほとんど戦慄しているのが見て取れる。
これを生かしてはおけない、と考えるのは道理。
黄竜――雷竜は、主任に、初手から極大のライトニングボルトを放つ。ピカ●ュウの「でんげき」とは比べものにならない。「10まんボルト」ですら生ぬるい。サンダーかサンダースあたりを持ってこいレベル。初代ポ●モンも遠くなりにけり、か……。
どうでもいい話をしたくなるほど、戦力差は圧倒的だった。雷の直撃を食らいながらも、主任は再び、棺桶でおもっきしドラゴンをぶっ叩く。しかしその攻撃力は、往時のそれとは違う。殺傷力、と言い換えよう、その攻撃力。
これが……LAOの「支援効果」だ。
具現化だけではない、ひとのスキルの底上げも、LAOは可能にする。それがネタであれば。ネタによる批評という回路を通っていれば。ネタとしておもろければ。LAOは、汝の妄想を具現化する。
この場においての効果をまとめてみよう。
・エロパワー/ヒステリアモードによる身体能力向上
・BGMにおけるドラクリ世界ネタ強度=主任の能力の向上
・コスによるドラクリ世界ネタ強度=主任の能力向上
ドラク●オットと、緋●のアリア。このふたつのコンテンツを使って、最強の戦士を現出される。細かいことを言えば、両方のコンテンツの看板絵師は、こぶいち先生である。この共通性も、LAO的にはポイントが高い。
イエロードラゴンは、即座に撃墜された。煙と消えながら。一撃かよ……あんな化物。琴さんがスピットファイアで屠ったのも相当だったが、主任、それ以上だ。強すぎる。
主任は、雷撃によって多大なるダメージをくらった……かのように見えた。そりゃ直撃なのだから。
しかし。
「チートすぎねえかあれ……」
主任、空中に浮遊している。また、傷だの火傷だの衣服のボロボロさだのも、即座に再生している。
ドラクリにおいて、一部の伝説的吸血鬼は、通常の吸血鬼のパワーを凌駕している。質においても、量においても。
これだけのドラクリ再現率ならば、「ライカンスロープ」の設定すら具現化されるのか……ライカンスロープ、それはドラクリ世界において、忌み子でありながら最強であるという、作品の根幹をなすものだ。空も飛べるし、肉体の再生も容易。つまり何でもできる。
チートすぎる。その上なんだ。ヒステリアモードによる異常格闘能力……ケタが違う。ドラゴンの中でも強者に属するイエローをああも簡単にSATUGAIしまうのだったら、あとは押して知るべしだ。
その上。
「できたわ!」
そう、オルフェの武器。
彼女は二枚の紙に、一振りづつの剣を描き、具現化、空中の主任に、投擲機でも使ったかのように、一直線に飛ばしていく。便利だな……。 ごく当然のように、主任はその二つの剣――双剣を握る。わずかに体勢変えただけで、しっかりグリップ。かっこええ……。
左手には、真っ赤な色したグリップの、無骨にして重厚なブロードソード。
右手には、凍えるように青い刀身の、繊細な作りをしたサーベル。
これは……。
「私の自信作、炎氷双剣、『Wつかさ』よ!」
猛烈に嫌な予感がしたので、オルフェに問いただしてみる。
「なんの、『つかさ』、だ」
「川口士と瀬尾つかさの仲良しラノベ作家ネタの具現化よ!」
ズガガガッ!
ドヤ顔するこのバカにげんこつ三連。
「さ、三点バースト射撃をぐーぱんでやるなんて、成長したわね弟……」
「お前、なに考えてるんだよ!? 説明をしろ説明を!」
意味がわからねえ。作品ならともかく、作者をネタにするなんて。これは杉井光先生の「ばけ●の!」なのか? それより遙かにタチ悪いぞ。
「川口、瀬尾両氏の作品は読んでるかしら?」
「代表作はひととおり」
ゼロ年代以降のラノベシーンの中堅どころにおいて、一歩も二歩も抜きんでた「地力」を持ったクリエイターがこの二人だ。
川口先生は一貫してファンタジーを、瀬尾先生はファンタジーとSFのふたつを。どちらも、枕詞に「王道」といいう形容詞がつく。今時愚直なまでにまっすぐに「よき小説」を追求する作家であり……作品づくりは両者ともに丁寧で誠実、噛めば噛むほど味のあるキャラに、設定。骨太な世界観と、物語。
だがワナビ的には……このふたりは、ラノベ界隈ウォッチャー的には、また別の意味でとらえられている。
川口先生、別名「一日50枚」
瀬尾先生、別名「川口専属編集者」
どういうことかというと、いっつも無茶なスケジュールで、周囲の失笑を買う川口先生を、瀬尾先生が編集者はだしの編集的指導を行う、というのが、このふたりのファン(作品の傾向が傾向なだけに、オッサン率もといファン層が近い)の間では常識なのである。ソースは主にふたりのブログと一迅社文庫ブログ。それから、2ちゃ●ねるの川口スレ、瀬尾スレ、一迅スレの相互乗り入れ率は異常。
そのように、ネタ的に愛されているコンビなのである。
……まあ、双剣というネタはよいとしよう。ただでさえ強力――いままさに旬となっている作家さんふたりだ。仲良しであることを鑑みても、双剣という発想は、百歩譲って、まだ妥当かもしれないこともないかもしれなくもない。
「だが剣にするかね!」
「『千の魔剣●盾の乙女』十巻越え記念、『スカイ・●ールド』四巻越え記念よ!」
「だからどうした!」
「ばか――――っ!」
ばちーん、と僕はオルフェに平手打ちを食らった。
「殴ったね! 愚父にも殴られたことないのに!」
「ラノベ作家として先達に対するアンチリスペクトはどういうこと?」
「その言葉お前にそっくり返したい!」
「十巻、一迅社文庫が、この記録をどれほどの思いで達成したと思ってるの! SAOととにかく比較されがちだけど結果残した瀬尾たんのヒット作に対して何をいうの!」
「お前ハラ切れよ。僕も一緒に謝ってやるから。各方面にめっちゃ失礼だ」
どうしてくれよう……。
しかし今は、事を収めるほうが先だ。謝るのはアトだ! アト! アト! アトラク=ナクアの初音姉様、銀アト子! 大事の前のショージ君って奴だ! このセンテンスでさっそくまた敵作ったような気がするが気にしない! テンション高くしとかにゃやってらんねえよ!
主任は双剣を握り、獰猛な笑みを浮かべ、オーラを剣にまとわらせ、その剣に秘められた異能を引きだそうとしている。
周囲には、今まさに暴れ回ろうとしている主任に、手を出しかねるみたいな感じで、窓枠が召還したすべてのドラゴンが集結している。
主任、今日一番の凶悪な笑みを浮かべる。
「……全殺しだ」
バーサーカーじゃねえか。
ぶん、と剣を振るい、回転するかのように、体をねじりながら、叫ぶ。
「神様も、あーきれーるよーうなー!」
炎が、氷が、空を埋め尽くす。紅い空に、さらなる異常――異能が、絢爛に、刻まれて、展開され、夢幻なるセカイが現出される……は、いいものの、
「それは同じゆずでも、『天●乱漫』だろが!」
僕はこのつっこみだけは欠かすことができなかった。




