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あとでまた登場人物とか設定一覧とか書きますが、このワナビ、こんな奴ですが、外見は結構かわいいショタです。黒髪ショートの細身小柄な。だからといって許されるとでもいうのだろうか
朝からの日程を振り返ってみよう。
僕は慎重に慎重を重ねて、マイホームタウンである埼玉王国草加市から、今日はあえて電車を使わず、越谷発のシャトルバスで、編集部へと向かう予定だった。
いやぜんぜん電車でもいいんだけどね。ただ、シャトルバスのルート上に、かなり都合よく編集部のビルがあったの。
僕は埼玉王国民だから、東京行くなんて、庭歩くようなものであって、電車乗り継ぎでトチることはない。
ただ、こんな都合のよい手段があるのだったら、そっちを選びますよ。
そっちの方が確実なら、今回のような「外せない」ことに望むにおいては、そっちを使いたい。僕は慎重なのだ。
電車に比べてちょい高めではあるけど、どうせプロになったら、このあたりの金額も、全部経費で落とすことになる。
け、い、ひ。
なんて素敵な響きだろう。作家の証。
これで取材旅行も献本(ようするに出版社が作家に資料としてタダで本くれるのだ)も、じゃんじゃんですよ。見たかワナビども。君らが夢見たセカイのリアルを、僕は享受しようとしとるのだ。ふっははははは。
で、バスが着くまで暇することになったので、駅前の書店を冷やかしてたら、ドラマガ(略称ですって)の今期号を見つけたので、さくっと購入。荷物を増やすのもアレかと思ったのだが、今の僕はむしろ、
「ラノベ編集部に赴くときまで、ラノベ雑誌を読む……なんて働きもののラノベ作家の卵なのだろう……」
と悦に入りたかったからでもある。
うん、正直、これからこういった仕事をするのが、楽しみでしょうがない。そんな感じで、バスに揺られながら、のんびり「これはゾ●ビですか?」の短編を読んでいた。
相変わらず洒脱なバカ文章だぜ……僕はこの作品の文体的魅力を、ハードボイルドの手法に通じるところがあるともくろんでいる。主人公は洒脱に、皮肉っぽく、そしてかっこよければいいのだが、いつもなんか抜けててバカなのである。その甘辛せんべい的な独特の味わいはクセになる。
そして思う。僕はこのレベル――木村心一先生の領域を、さらさらさらっと書けるまでに、どれだけかかるのだろう、と。そして僕は、軽く目眩がする。
それは、僕が書き手だから思うことだ。「これゾン」のオビに、煽り文として「こんなの俺でも書ける」みたいなのがあったと記憶している。
バカいっちゃいけないよ……この「アンチハードボイルド」的な洒脱アホ感が、凡人にやすやすとできるとでも?
そうだ……僕は、このような化けもんたちと、戦わなくてはならないのだ。
怖くないといったら、嘘になる。
けど、それでも、僕はこの世界(業界)でやっていきたい。
そんなことを考えていると、バスは停留所で止まった。ここから高速で一気にいく。つまり、乗客はここまでの人数でおしまいってこと。
平日の真っ昼間なので、観光目的のひともいなければ、仕事で使うひとも、そんなに。要するにわりに空いてる車内。悪くないね。
そんなところに、一人の女の子が入ってきた。