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この話は、前に「なろう」で連載していたときのことをネタにしています。
前、というのは、一度退会したときのことです
「あとゆうせんせい、先ほどの『一大勢力』のお話ですけど、これには2010年代の今、ふたつの意味があると思うんですよ」
「二つ、ね。それはひょっとして、ギターでいうとこの、生音と、エフェクターかませた音の違い、みたいなものかな? つまり、従来通りの、リアルでの作品の、作家の評価と、LAOのネタとしての価値的評価」
「えっ! なんでわかっちゃったんですか? コ●ン君ですか?」
「すぐサンデーのレジェンドに結びつけるこの日本ってなんなんだろう。あと、どっちかといえば、僕はYAI●A派」
「敵を作りそうな発言を……」
「でもさあ、あの……中二剣豪伝説っていっていいのかな? すごい鮮烈に写ったんだよね。異能あり剣術っていう。る●剣とは違った形の」
「そのお話には興味が実はすごいありますし、飛天●剣流談義だったら一晩できますが、話ずれてるので」
「失敬。また日を改めて」
「そのときはぜひっ」
話ずれたわりには、目をキラキラさせとるやん……ところで、今の言質をとれば、一晩パジャマパーティ的なものへの参加を認められるともとれるのだが、そんなことはもちろん口には出せない。
「で、ゆうせんせいの言った例え……当たってるんです」
「そりゃ制作者だからねー」
「ですよね。でも、そのルールの『なかのひと』として生きていく、これからのゆうせんせいの認識は、また変わってくるんじゃないでしょうか」
「……」
ちょっと、言葉がでないね。琴さんは、ほんと育ちのいい穏やかなひとなんだけど、言うことは、マジできちんと言ってくる。あんま、ラノベやエロゲではいないキャラなのかもしれない。ほら、基本的にああいったものでは、シリアスシーンでしか、まじめでクレバーな発言、ほんわか系の少女はしない傾向が……敵を作りそうな発言だなこれも。
「ゆうせんせいには、野心があるっていいました」
「うん」
「じゃ聞かせてください。LAOというシステムを作っておいて、それをほっといて、なんで小説なんですか? 野心の達成だけだったら、LAOを駆使すれば、いくらでもできるじゃないですか。ましてや制作者にして、『批評家』。最強じゃないですか」
「……」
「あの……怒っちゃいました?」
「ううん。ただ、先を聞かせてくれないかな?」
「はい……でも、これだけは、言いたいんです。ゆうせんせいは、どうしてよりにもよって『プロ小説家』になろうとするのかな、って。だって、小説を書くだけだったら、そしてその文芸的野心を達成するためだったら、同人でいいって話になりますよ。いえ、ゆうせんせいに、同人気分がアリアリだ、みたいな話じゃないです。全然逆です。私の魔改造にここまでつきあってくださって……ゆうせんせい、気づいてますか? 私や主任のネタ発言以外の、作品にまつわるあれこれに、ゆうせんせいは、一言も否定や反論してないんですよ?」
「そりゃ、プロ未満どころか、これから本出す駆け出し丁稚奉公たまねぎ剣士だしねえ」
「どうして……そこまで、プロとして、商業ラノベシーンで、やっていきたいんですか? 私には、そこだけが、わからないんです」
なるほどね……
他人には、そう見える、か。まあ、僕自身の出自があるし、また、自分はワナビ的なのを隠してないけど、そこを以上を踏まえて「WHY?」とされたら、謎は残るか。それに、琴さんにも、確かに、野心の根底というか、ふつふつ湧き出る「この感情」について、語ってはいなかったのだ。
……いい機会、かな。
「じゃ僕のターンだね」
「はい……あの……」
「だいじょぶだいじょぶ。僕も僕で覚悟きまりつつあるし。えーと、主任にも伝えていいんだけど、親にも話したことないこと、これから言うね」
「えっ、えっ、いきなりすごいシリアスに!」
「おーい最初にカード切ったのはどっちやねん」
僕は笑う。このあたりの邪気のなさが、彼女を僕が好む理由だ。
たたみかける。
「Web小説家、やってたんですよ。『小説家になろう』って、知ってます?」
「あ、はい。最近、あそこからいろいろ商業出版ルートになってる作品でてますよね。オンライン小説投稿サイト」
「僕は、自分の作品が認められたくて……批評家でない、小説家として……まあ本名投稿ではなかったけど、いろいろ投稿してたんだ。ファンタジーが多かったかな」
「よく言われるように、あそこでよくあるような、異世界転生ものとかですか? MMORPG? チート系? 俺Tueeeeeな?」
「その手のを全然書かなかったのです」
「え? ゲーム大好きなのにですか?」
「そのころの僕は……専門用語でいうとこの、ハイファンタジーを書こうと……要するに、硬派ファンタジーですな。ハーレムもなく、まあ多少のRPG要素はあっても、それでも基本はトールキンだのダンセイニ卿だのル=グィンだのエンデだのの直系的な」
「とってもいいですねー。私今あげたひとたち全員好きですよ」
「でもそういったのって、全然ひっかからないんですよ」
「あー……」
「他にも、ミステリや、純文学も書きましたし、SFも……数だけは打ちました。そりゃ、単純に僕の腕不足っていうのもあります。それらを改稿して賞に送って、箸にも棒にも引っかからなかったですからね。……ただ、それ以上に」
「以上に?」
「僕、基本的に、ひとと関わってこなかったんですよ。他の小説を読んで作者さんにコメントするような、文壇つきあいを。受ける要素のなさと、コミュ力のなさ、その二点で、オンライン小説では芽がでなかった、と」
「私、オンライン小説って、詳しくない……ってのは、編集者として失格なんですけど、そんなに難しいものなんですか?」
「どのユーザーにも、アクセス解析が与えられて、また、小説が『お気に入り』されたり、点数与えられたり、みたいなことを、競っているような風潮あったね。まあそりゃ、他よりももっと、みたいなのが基本にあるんだけど。人間の精神。で、僕は……アクセス……一日、十人くらいでした」
「十人!?」
「それも、ログ追ってってみれば、一見ですぐ退散みたいな……、作品全部を読んでくれる、みたいなひとは、ごく一部で……まあそういうひとがたまに居てくれると嬉しいんだけど……唯一作品が完結したときだけ、40~50くらいいったかな、みたいな。最高記録は100。結局……やめるまでに稼いだアクセス数は、1000くらいだったかな」
「ちなみに、トップランカーはどれくらいなんですか?」
「一日1000はごくごく当たり前。累計アクセス300000とか当たり前。それでも書籍化しないひともザラ」
「あまりに違いすぎますね……」
「そういう惨めさがあった、というのが、ひとつ。で、ここでこれなら、同人誌即売会に出しても、絵師がいないから、手にとってくれるひとなんていない、っていうことは、自然に導き出されるわけで。ブログで小説? 余計に不利だよね」
「うーん、夢もキボーもないですね……」
「『夢喰●メリー』かい。……うん、まあそうなんだけど。で、夢やキボーの話をすると、全オンライン小説家の憧れ、川原礫先生いるじゃない。『アク●ル・ワールド』や、『ソードアート・オ●ライン』」
「もう天下とっちゃいましたもんね、ラノベの」
「あのひとのWeb小説歴って相当長くて、ファンもめっちゃついてたんだよね。で、そのころから、SAOってあったんだ」
「え、今出し直ししてるんですか?」
「当然改稿はあってのことだけど、骨格は当時のままらしい。らしい、っつのは、僕はそのころのことを知らない……読んでなかったから。でも、そんな伝説があっても、SAOはその段階では、『一般レベル』では話に上ってなかったじゃない」
「……」
「もひとつ例をあげるとだね、TYPE―MOON……月姫、Fateであまりに有名なあそこだけど、小説出してることも知ってるよね?」
「空の境界。講談社ノベルズで伝説になりましたね」
「あれ、最初コミケで同人誌版……現在と内容はほとんど変わってなかったらしいけど、それ出したとき、斯界の反応は黙殺だったって、知ってる? さらには、講談社ノベルスで出すとき、あの名物編集者……現星海社の太田さん。そのときの悲惨な数聞いて、ファウスト的驚愕してたっけ」
「え――――――ーっ!」
声大きいっすよ。気持ちわかるけどね……現在、タイプムーン、そしてらっきょ(空の境界の気が抜ける略称。きっと公式)の現状を知るとねえ……。
「とまあ、天下とったコンテンツでも、こんなもんだった、って話です。……そりゃね、うまく同人コミュ、『なろう』コミュで立ち回れば、そこそこ程度にはいけたのかもしれない。でも、それじゃね。結局、『なろう』での、アクセス日数平均10ってのが堪えてるんだわ。グラフのお粗末さが、身を切った。そこで思い知った……こういう人間は、商業でやっていかないと、ムリだって。リーマン的宣伝交渉力もなく、コミュ力もなく、みたいな人間は。商業だったら、そこのところを、かなりの部分保証してくれるから……というのは、楽観的な見方かな?」
「でも、おっしゃるとおり、コンテンツの宣伝こそが、出版社の役目のひとつですからね」
「あるいは僕に、しつこいくらいの努力が足りなかった、といえるのかもしれない。おそらく、いや、きっとそうだろう。地道に、地道に、オンラインで、同人で……でも、僕は結局、せっかちであると同時に、プライド高いんだろうな。……だから、さ。あのドラゴンワナビ、ひとごとじゃないんだ」
「窓枠曲壁さんのことですか」
「僕だって、ひょっとしたら、そうなっていたかもしれない。行動にこそ移さなかったものの、その類の暗い熱はないわけじゃないから。いや、ワナビ臭を、こうして嗅ぎとられている時点で、同じなんだよ」
「それでも、ゆうせんせいは、LAOを使って、脅迫的に出版社に働きかけなかった……ちゃんと、賞でもって、難関を突破してきたじゃないですか。あのひととは違います。王道です。正当なルートです」
「ありがとね。……で、ここまでで、『商業なのはなんで?』には答えたことになるけど、じゃ『そこまでして小説家になりたいのか?』については、まだ答えてないよね」
「はい」
「話すと長くなるし、これまでの話がずいぶん長くなってるし、たいした話じゃないし……ぶっちゃけ、この話より、未来のハナシしてたいんだよね」
「あはは。振っておいてなんですけど、ゆうせんせいのそういう理屈っぽいポジ思考好きですよ?」
どきどきどきどき……同年代の女の子に、自分の性質を評価(過大評価かもしれんけど)してもらって、声が……とっても優しいいい声で鼓膜に響くって、いいなぁ……いいなぁ……
いかんいかん。ここでウザく語りだしたら、せっかくの好感度がダウンしてしまうっ! 昨今のギャルゲーは親切設計で、ちょっとした選択肢のミスでバッドエンドになることはないけど、しかしリアルでのつきあいでは、バッドエンドに「なることもある」んだっ。
なんで僕は童貞丸だしでこんな思考してるんだろうな……。深く考えない方がいいような気がする。それこそ昨今流行のラブコメヘタレ鈍感主人公の「え? なんだって?」と同じくらい。
僕はいう。これまで、誰にもいったことのないことを。
「僕は、批評家として、実は天下とった人間なんだ。そのまんま、そのまんま、爆走してれば、きっと幸せだった。どう考えても、そっちの方が、まっとうなキャリアの重ね方だ。でも……憎むべきは、僕の中にある、中二病さ。……書きたかったんだ、小説を。……創りたかったんだ、自分の世界を。オリジナルを。分析するよりも、創作したかったんだ……明らかに向いてる『批評』よりも、アクセス数10の『創作』を選んだ、愚か者が、塔乃森佑、という、人間さ。笑ってくれて……」
「絶対に笑いません」
ものすごい真剣な顔で、琴さんは僕を見据えて、きっぱりという。
「どうしても、創ることを諦めなかった人間を、創作者って呼ぶんです。邪道に手を染めなかった人間を、創作者って呼ぶんです。どうしようもないほどの、定義なんです、それが」
琴さん……
……………………そうか。
僕は、ちょっと、何かを見落としていたのかな。
「『どんな事態に直面しても『それにもかかわらず!』と言い切る自信のある人間。そういう人間だけが政治への『天職』を持つ』」
「……ゆうせんせい?」
「マックス・ウェーバー『職業としての政治』の……僕が好きな……好きだった、一節さ。政治ってのを、創作に置き換えてくれるかな」
「はい……そうですね……ほんとに、そのとおりです」
「好きだったんだ、この『それにもかかわらず!』って言葉が。この言葉の前には、こんな前提が書かれているんだ。『自分が世間に対して捧げようとするものに比べて、現実の世の中が――自分の立場からみて――どんなに愚かで卑俗であっても』ってね……でも、結局は、薄汚いワナビになってしまってたのが、僕さ」
「でも……」
「そう、でも、今は、この言葉を、かつてのように『好きだ』。現在進行形で好きだ。この通りに生きようと思う。……あるいは、ワナビ時代、『なろう』時代にもこの心を忘れていなければ、ひとかどになれたのかもしれんけど、でも、もうプロ作家になっちゃったもんねー!」
「あっはははははっ!」
最後はジョークで締めたら、大ウケ。よっしゃ!
「さっ、琴さん、打ち合わせ再開しましょ」
「はいっ。……あの、話してくれて、ありがとうございました
「いやいや。つまらんハナシにご静聴くださりなんとやら」
「それじゃゆうせんせい……せんせいのお話にもあった、ビジュアル面の、強力な助っ人……イラストレーターさんの話をしましょう」
キタ――――――――――――!!
全ラノベ作家、そしてヴィジュアル世代の作家の夢! 絵師さんがつく!
やっと……やっと僕の妄想世界に、確固とした「かたち」が!
興奮せざるを得ない……たしかに、このシーン、アニメ化が、だいたいの連中にとっての夢だ。が、その前に、キャラクターデザインというのがなくては、走りだせるはずの夢も走りだせないのだ。これといったストーリーのないオタ系出身の音楽でも、オリキャラのジャケでしょ?
しかし……ここまできたのだ。
羽ばたきはじめた翼を止めることなんて誰にもできやしないッ!(byライアーソフト・スチームパ●クシリーズ(桜井光)「蒼天のセ●ナリア」)
俺たちの乗った列車は途中下車はできないんだぜ?(byファイナル●ァンタジー7)
さあ……はじめましょう?(by橙汁「スグリ」)
数々のゲームの決意名言を引用したくなるほどっ! 震える我が心!
誰だ……誰がくる? イラストレーターは誰になる?
「まず私が提案させてほしいひとがいるんです。すごくぴったりな感じの。あ、ゆうせんせいの意見ももちろん話し合いましょうね」
「もちろんもちろん。で、どなたです? 僕が知ってるひとだったらエラいことだな……」
「今同人やってて、壁まではいってないですけど、中堅といいますか。でも実力は確かです。確かすぎます」
「いいですねえ。実力派! 好きな言葉ですよ」
「固定ファンもついてますし、時流を押さえつつも、確とした個性もあり、三年そこらで消えるひとじゃないと私は確信しています」
「理想的じゃないっすか」
「私も大ファンでして。あ、ごめんなさい、職権乱用ですね……」
「よかよか」
「で、なんと、ゆうせんせいのこと知ってるひとなんですよ」
「……うそーん! まさか、まさか、『なろう』時代の僕知ってるひとなのかな……だとしたら恩義があるな……こりゃなにがなんでもその絵師さんの期待に答えにゃならんぞ。で……そのひとのお名前は?」
僕は固唾を飲んでそのお名前を拝聴する覚悟である。手に汗握るぜ! しかし琴さんも引っ張るな。嫌いじゃないけどそういうのは。
「そのひとは……」
「そのひとは!」
「黒井オルフェさんっていいます」
…………………………………………。
…………………………。
…………はぁ?
おるふぇ?
だれだっけ、どこかですっごく、まいにちまいにちそのなまえをきかされて、よびつづけて、ぼくはさんざんののしられて、くちげんかして……だれだっけ……おるふぇ……
……じゃねえよ! オルフェ!?
いやいや同姓同名だろう。つかあいつ黒井なんて名乗ってなかったはず。オルフェはコードネームみたいなもんだったろ。
ガンホー第一階梯「チーフプログラマ」、リーダー、総帥、カリスマ、発案者、希代の天才少女、僕にとっての「天才」の定義……オルフェ。
まさか同人絵師なんてやってるわけじゃ……
「ゆうせんせい? 今までに見たことないものすごい顔してますよ?」
「いや、僕のよく知ってる同名の奴を思い返してね……」
その瞬間、琴さんがテーブルに置いていた携帯がピピピブルルと、音とバイブが両方鳴った。
「電話?」
「いえ、アラームです。あ、もうこんな時間ですか。……じゃあ、もうすぐ、来るはずです。時間設定してましたから、オルフェさんと」
なるほど、用意周到である。そして僕は、そこで真偽を確かめればいいはずだ。
しかし……確かオルフェは、異常なまでに時間をピッタリ守る奴で……
カランカラン。
僕がそう思っていると、喫茶店のアンティークなドアベルが鳴った。
まさか。
その少女は、僕たちのテーブルにまっすぐやってくる。
黒いツインテール。大人用の白衣。
浮き世離れした表情にして美貌。その相貌は幼くして、完全なる知性を兼ね備えている。
例によってつり上がり気味の、厳しそうな目つき。
しかし、僕らのテーブルにたどり着いた彼女は、顔つきを緩やかにして、語りかける。
「希代の絵師、黒井オルフェよ」
「チェンジ」
僕は冷酷に言い放った。
これにて第二章、おしまいです。
オルフェ登場です。
で、次回から第三章いきます。
こいつの登場により、この小説、よけいにひどくなっていきます。




