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ドラゴンガーディアンの1stは個人的にはこのリメイクが好きです
http://www.youtube.com/watch?v=CTPf0ClDVfk
※窓枠曲壁とは、作者の旧PNです。
なお、この物語は全くのフィクションです。
「あ」
「……まさか、知り合いか?」
「いえ、変な名前の投稿者がいるなぁ、と、ここのHPの投稿者一覧でみて、思ったまでです。ずいぶん変な名前だったので、ちょっと覚えていたんです。一次審査で落ちたようですが」
「そーなんだよ。そいつ、ここにも送ってきていてな。落としたが」
「今回の事件によるものですか?」
「単純に作品が面白くなかったからだ」
Oh……ばっさり、その一撃は、なにより重いぜ……窓枠ってひと、聞いたら死んじゃうだろうな。
「そういえば、ここに来た作品、竜族の末裔の少女とか、ラストでの大魔術でドラゴンなんちゃらって書いてあったな。ドラゴンそのものをバリバリ出している感じではなかったが、なんかドラゴンにオブセッションがある奴らしい」
「で、その窓枠氏は、イタい人だったと」
「俺はメンヘラの気質があるんじゃないかと見ている……今回のあらましをざっというとだな、その業界での地位を占めてきたハーレム系レーベル、そこに乗り込んでいったらしい」
「うおっ」
な、なかなかやるなぁ……2ちゃ●ねるでも、そういった「やってやるぜぇ~」みたいな書き込みは見るけど、実際にやるひとがいるなんて。……ちょっとヒヤヒヤしてきた。その手のイタさは、聞いてて、紙で手を切るようないや~な感触がある。
「まさにわたしの作品は御社の唱える精神に則ったものであるはず、とか、この作品こそが美少女萌えと王道ファンタジーを融合し、世代間の断絶せし文芸シーンを統合するものであり、わたしは第二の川口士になるのだ、『魔騨●王と戦姫』をとるのなら、わたしをとらないと嘘だ! 嘘だっ! ひぐらしっ!、とかぬかしたらしい」
「すいません、つっこみどころがあまりに多すぎるひとなので、もうなにがなにやら」
思いこみが激しすぎるというか、どこまで自信あるねん、というか、だったら最初からそのレーベルに送れや、とか、嘘だ=ひぐらしなんてぬるぽ=ガッと同等の発想力だろが、とか、もろもろ。
ていうか。礼儀知らず。へたに御社とかシーンの革命とか、礼儀を尊重しているフリのフリだけしていて、その実超実傲慢。そういうことを酔わずにぬかせるとこ、うん、確かにメンヘラの気質あるかも。
「で、さらに」
「まだあるんですか……」
僕と琴さん、一斉にげんなりする。僕はこの手のワナビのどうしようもなさをよく知っているからまだマシにしても、基本的に才能があって(音楽の)、ちゃんと仕事してる、琴さんにしてみたら、ちょっと耐えきれないだろう。
「まずひとつ。そいつは、今回の一連の作品執筆状況から、投稿に至り、また、レーベルに殴り込むことまで、事細かにブログに書いて、それがまあ、見事に炎上してしまってな」
「そりゃそうでしょうよ」
「お前知らなかったか?」
「びたいち知りませんでした。ネットは広大ですし……まあ、ある程度は面白い催しだとは思いますが、こうして聞いていてもしょうもないですからね。……あるいは、どこかで噂が聞こえても、意識の下の方でシャットアウトしていたと思います。自分のことの方が優先でしたから」
「まあ、そういう殊勝な奴の方が、さっと本が出せるってやつだ。お前のようにな」
「そこまでいいます?」
「事実だしなぁ。で、ネットの一部好事家……つか、ワナビウォッチャーの間で、悪名とかわいそうな子的視線と、ネタとして、『窓枠曲壁』は成り立っていた、というわけだ……もろもろを奴はさらけ出していた、と俺はいった。つまり、ドラゴン云々の物語についても、ベラベラしゃべっていたんだ。三流物書きにありがちなのが、誰も望んでいない『オレサマの傑作ストーリーを聞け!』を押しつけることは言うまでもないが、奴は見事にその轍を踏んでいた」
「イタいイタいイタいイタい……」
もう聞いていられない。琴さんを見ると、なにか毒気にあてられたような顔をして、ぽんぽん(おなか)を押さえている。
「ちゃんと聞け、琴。これからこの出版業界、新人賞まわりでは、こんなことが山とあるんだぞ?」
「ひどいですよお」
それは主任がひどいのか、ワナビの所行がひどいのか。……後者かな。主任はごく当たり前のことを言ってるのだから。
「お前もやがて、新人賞担当にでもなったら、この手の……そうさな、クレーマーか。そういうのと相対しなければならねえ。新人賞のHPつか要項が、やたらと形式的で、しかし妙に神経症的に書かれてるのもそこさ。携帯電話のマニュアル理論だ。……まあ、バカはどこまでいってもバカなのだから、このように、クレーマーは、後を絶たない。サービス業の宿命だな」
「オトナの社会は大変ですよぉ」
「なに、悪いことばっかりじゃない。お前の隣にいるような、面白いバカにも出会える」
「ああ、それはいいですね」
にっこり。うん、僕を評価してくれるのはうれしいし、こんな邪気のない笑みを浮かべてくれるなんて、冥利に尽きるってもんだが、しかし、
「あんたらひとのことよくもまあぬけぬけとバカだと」
とりあえずツッコまざるを得ない。
「で、そのドラゴンワナビ、窓枠曲壁のことだが」
スルーされたよ……しかしすげえ二つ名だな。
「もひとつ、奴はしでかした。炎上以外にな。その編集部で言ったことだ」
「まーたドラゴンワナビは伝説を作っちゃいましたか」
「こんなふうだったらしい。『御社メデ●アファクトリーの音楽部門で活躍している、ファンタジーメタルユニット・ドラゴ●ガーディアン! あの王道クサクサファンタジーがOKで、わたしのより骨太な王道ファンタジーがダメだというのですか! ソリッドな音像とRPGファンタジーの融合のメソッドは、わたしの小説と相通ずる! けして下にくるところではない! わたしが出版記録を塗り変えたら、ドラガとコラボして……』」
「イタいイタいイタいイタい……やめてください……イタすぎる……」
どんだけ誇大妄想やねん。どんだけコンテンツビジネスなめとんねん。賞をとること前提の話だけど、実際は一次審査落ちとるじゃん。
「話はまだ途中だが」
「もう十分です……」
「なんだ情けない。ワナビの情けなさはお前が知っとる通り、こんなもので収まらないだろう」
「それでもこれは結構きてますよ……」
琴さんの方を見ると、おっかない妖怪にでも出くわしたかのように、ぷるぷるしている。かわいそうに……。
こりゃドラゴン伝説も作るわけだわ。
しかし……ドラゴ●ガーディアンか。
「……」
「どうした塔乃森」
「いえ……好きなんです。ドラガ。とくに1st収録の『我らが嘆きのカルミア』はほんとに……しかし、考えるところが多い話です」
「災難だったな。まあ、考えるところがやたら多い話だよな。で、この窓枠がなにをしたか、もう察しはついたな?」
「ドラゴン小説、ドラゴンネタ、ドラゴンイタ話、ドラゴンガーディアン冒涜……それら一切の『ドラゴンワナビ伝説』が、具現化したということですね。元ネタは、その一次審査落ち・かける3の小説というよりは、自分の炎上したブログのテキストや、コメント欄、及び2ちゃ●ねるのワナビ関連のスレッドや、まとめサイト」
「100点満点のご名答だ」
そして僕ら一同は、深い深いため息をつく。
はぁああぁぁあぁぁぁあああ……
ワナビの闇は深い……
「で、窓枠氏は……」
「窓枠でいいぞ。あんなんに氏をつける義理はない」
「了承です。当然この件で、窓枠は各社のブラックリストに……」
「当然だわな。ウチでも採る気はさらさらない。……まあ、このネタ性を利用しようとするとこもないとは言い切れないが……しかし、これは、もう刑事事件だからな。前科持ちを囲おうとするレーベルなんてありはしねえよ」
「あ、もうお縄ですか、窓枠は」
「哀れなものだな。現在各レーベルが情報提供して、警察が、今日にでも動くだろう」
…………合掌。
哀れといえば哀れ。しかし犯罪は犯罪である。罪を憎んで人を憎まずというが、この問題は、そもそも人格的な問題であるからして。
「……まあ、これが、『異常事態』の、典型的な例だ」
「なるほど」
「なるほどじゃねえっ!」
ドガッ! と鉄拳を打ちつけて主任、叫ぶ。
「おめーらが作ったんだろが、LAOは!」
「それはそうなんですけど」
「そうなんですけど、で済んだら警察はいらん! 一般社会がどれだけ混乱してると思ってる!」
激高する主任。
その言葉は、いわゆる「良識派」が、この数年、ことあるごとに言ってきた言葉である。
しかし、そういうオトナたちに向かって、僕らが返す言葉は、これだ。
「……でも、楽しかったでしょう?」
「うぐっ……」
主任、黙りましたね。ということは、あなたも、この「妄想具現化」を楽しんだ、ってことですよね?
僕は、オルフェは、「広報」は、そして他のガンホーのメンバー……13人の全員が、確信していた。この設定は、結局は受け入れられる、と。だって、老若男女、皆が皆、心の底で待ち望んでいたものなのだから、という、確信だ。
ひとが良識でもって「そうじゃない」といえばいうほど、裏で燃え上がる中二魂。僕らはそれを知っていた。
そう、皆、迷惑している、とはよく聞くが、しかし「LAOをやめた世界
に戻りましょう?」という提案には、耳を貸さなかったのが、今のセカイなのだ。
それをいわれると、痛いのが、この目の前にいるような、良識を持ちながらも、その実、中二魂を持ち合わせ、かつ、「終わらない日常」にうんざりしているようなひとびと……オタクたちのことだよ……それと、もうわかってんだよ、このダンディ、実は相当なオタクだってこと!
「……お前らは、よく考えたよ。『ネタ』の収集ソースを、ラノベだけでなく、あらゆる創作物……音楽だの、ハードSFだの、純文学だの、映画だの、アニメだの、ありとあらゆるものにまで範囲にした。また、それらの現実性を強化するために、『ネタ性』っつうのも利用した。グー●ルの検索機能、twi●terのトピックやタグ、2ちゃ●ねるの総合的『雰囲気』、ブログのシステム……あらゆるネット上の『批評なるもの』が、作品の強度を高めるって、創作原理を知り尽くしているだけに、『ネタ性の高さがそのまま強度になる』というシステムは、盛り上がれば盛り上がるほど、現実になっておかしくない、という雰囲気を社会に作りだし、簡単に受け入れられた……ひとは、そういうかたちのないものが、手に取れるようになることに、興味津々だからな」
「すべてお見通しのわけですね。で、僕はどうすることを望まれているのでしょうか? まさかLAOの撤廃撲滅じゃないでしょう?」
「制作責任者はアフターケアをしろという話だ」
「アフターケア」
「アプリのデベロッパーは、公開してから、バグ報告に対応するのが、筋だろう?」
「してないとすごい腹立ちますよね」
「お前等のことだよ」
なるほど。
「しかし、LAOは、手前味噌ですが、バージョンとしては、完成しているだけに、現実化において、これといったバグは見受けられないのでは?」
「そういうことじゃねえ。こういう現実……セカイになっちまった責任をとれ、ということだ」
「デベロッパーに社会的責任までとらせますかね」
「それはファイル共有ソフト……winny擁護派の理屈と同一だということに気づかないか?」
「なるほど。しかしあの問題も、結局はユーザの倫理の問題に帰結するという論理もありますが?」
「まあ、な。変わっちまったセカイ、それをひとりの責任に背負わせるっていうのも、アホな話だ。だがな、ここまで異常事態になってしまったセカイに対する、なんらかの責任っつうのもあるだろう。せめて、今回のワナビのようなアホの暴走くらいは、水戸黄門的になんとかしろや」
「で、僕の出番ですか……ところで、星辰文庫って、ラノベレーベルですよね? 怪異処理は、仕事じゃないですよね? なんであなたがたが、僕にこのような仕事をふるのですか?」
「ラノベ出版も仕事だが、怪異退治も仕事だからだよ、空庭社は」
「……え、なんですか、その『戦●司書』とか『”文●少女”』的世界観」
「ガンホー第二階梯、おまーがそれをいうな。出版もするが、怪異も退治するんだ」
「す●屋やミ●ドの理論じゃないですか、牛丼も出すけどカレーも出すみたいな」
「んだこら、俺らの商売にケチつける気か」
僕は琴さんを見る。マジ? 的目線で。
こくり。
目がマジだ。そりゃそうか……あれほどの魔曲の使い手を、ふつうに社員としてるのだ。きっと、おそらくこの編集部、この出版社には、異能もちがたくさんいるのだろう。
……ん?
「いや、その理屈はおかしい」
「なんだよ」
「なんですか?」
出版社のふたりがいう。
「怪異は、LAO設定後にのみ起こることじゃなかったので? 僕らが設定したルールは……」
「なんだ、お前、そんなことも知らなかったのか。『ここまで創作が現実化する』のは、LAO以降だが、その前から怪異っつうものはあったんだ。陰陽局、導士、カトリック教会、みな『怪異』と戦うしろものだ。俺らはその現代バージョンだ」
「え、なにその『と●る魔術の禁書目録』的世界観。なにその『ヘル●ング』的世界観」
「そういう世界だからこそ、LAOも現実化したんだろが」
「なるほど!」
「お前が納得してどうする!」
いや、システムの構築に関しては、オルフェを中心としたプログラミングチームの管轄だったから……。
「わかりました、わかりました、そういう理屈ですか。『怪異と戦ってきた出版社』というのが激しく気にかかりますが……」
「琴にきけ」
「わ、私がですか!?」
「ウチの中の連中、全員が異能持ちじゃねえんだ。異能持ちが説明したほうがわかりやすかろうよ。お互いの自己紹介にもなるだろ……っておい、なんで俺はリア充の手引きをしてんだ……クソックソッ」
案外しょっぱいなこのオジサマ。
「主任、あなたの能力はどのようなものなので?」
「教えねえ。必要に迫られたら、出す」
「……むー」
「性格悪いと思ったか? 残念! さ●かちゃんでした!」
「言ってて自分で後悔しません?」
「……した」
だったらしなければいいのに。
「まあともかくだ」
すっごい苦々しいバリトンボイスで言う。しかしその言葉には、迫力があり、ひとをしっかりと説得させる重みに満ちみちている。この言葉からは逃げられない。
「最終的には、お前の小説が、LAOの中の一大勢力になって、ほかの有象無象をけちらす、というのが、ひとことでまとめると、俺の計画であり、社の方針でもある。怪異を片づけつつ、文芸社会でも天下をとる」
「……さっきまでの胡乱な話と打って変わって、熱がヒートしてきましたね……」
主任の目が、今日一番、獰猛なものになっている。
これが、やり手のビジネスマン……か。
「二兎を追って両方ともジビエ料理にするぞ。異存は?」
「あるといったら、僕の出版計画もおじゃんですよね」
「まあな」
「じゃあ、やります。やらせてください」
そうして、僕は星辰文庫の新人作家になることになったのであった。ついでにもとガンホー所属の立場から、怪異解決プロエージェントにして、空庭社の切り札にも。あれ? 後者のほうが、遥かにすごくね?
この物語は全くのフィクションですが、自分でもこのネタはギリギリだと思っています。ていうかアウトですよね……




