(3)
ユーザページにも書いてますが、「窓枠曲壁」とは、ほしよみさんの旧PNです。
なお、この物語は完全にフィクションです
「……主任」
僕は一気に神妙になる。そしていささかの殺気を放出せずにはいられない。
「12人……否、ロストナンバーを入れて、13人のチーム。LAOの創設グループ。この世界を変えちまった若き異能集団、社会の、あるいは歴史の闇で、動いていた連中。電脳網のアトラク=ナクア。ハッカー精神をもとに……」
「主任」
「なんだ」
「どうしてそれを……」
「いや、その理屈はおかしい」
あれ? 一気に空気が変わったぞ? なんでここでネタをもってくるの?
「隠したかったら本名投稿よせや」
ああー。
「塔乃森佑。『ガンホー』の……しかも、第二階梯『批評家』」
「そんな偉いもんじゃなかったですけどね。単なるオブザーバーですよ」
「ナンバー2のくせにか。というか、隠さなくなったな」
「そこまで知れているようでは、といった感じです。……どこから知ったのですか? それと、どこまで知っているのですか?」
「前者に関しては、情報源があるとしか。後者に関しては、組織図とLAOのシステムに関する面、としか」
ったく誰だよ……第七階梯「広報」か。いやあれは確か京都のねぎ焼き屋で店を構えていたはずだ。今更口を割る人間でもなかろう。なんでねぎ焼き屋やねん。マスコミにでも就職すれば……いやそれはそれで面倒だな……。
まあいいや。
しかしもにょるところが残るな。
「とすると、あれですか? 僕はその、元ガンホーであることを買われて、最終選考を受かった、と?」
「ひらたくいえば」
「小説自体の能力は買われず」
そう、僕はそこが一番気にかかるのだ。僕は、小説家になりたかったのだ。ガンホーの批評家・塔乃森佑ではなく、小説家・塔乃森佑として生きたかったのだ。
もしそこのところを、侮られるようでは……
「早とちりするな。だったらお前を小説家として招聘しねえよ」
おを?
「ちゃんとお前は、小説家としてやっていけそうだと踏んだからだ。将来性を買った。そういうことだ。……もちろん、元ガンホーとしての能力もだがな」
しょ、将来性を買われたってさ……て、照れるぜ……。
「で、だ。本題に入る。俺がお前に何を期待してるかだ」
「いい作品を書くことでは?」
「もちろんそうだ。そして、いい作品でもって、この異常事態を解決してもらいたい」
「なるほど、出版業界に蔓延する停滞ムードですか? 商業と同人が混ぜこぜになったシーンですか? 割れの横行によるコンテンツビジネスの危機ですか?」
「違う。LAOの暴走だ」
……は?
「順を追って説明していただけますか?」
「もとよりそのつもりだ。……今日のお前らの災難……ああ、でも、減給と始末書は変わらんからな」
「そんな!」
「そんな!」
「ハモるんじゃねえリア充ども」
隠さなくなりましたねあなたも。
「あのドラゴン召還は、とあるワナビがLAOを具現化能力を使って、暴走させたものだ」
「ワナビの所行? はた迷惑な。ワナビはワナビらしく、ダンゴムシのように世間の陰でうじうじ丸まっていればいいものを」
「おめーもワナビだったろうがよ。調子のんじゃねえ」
「うぐっ……まあそれはともかく、そのとあるワナビというのは? 何か世間に恨みでも?」
「一次審査、落ちたそうだ」
………………合掌。
僕は哀れに思わずにはいられない。
あれって、あの虚脱感って、ものごっついんだよなー……当座は「はい、次つぎ!」って思えるんだけどさ、無理にでも。けれど、時が経つにつれて、敗北感が沸いてきてさ、数ヶ月分の努力が無駄になった、と知れたときの、空虚感といったら……それでも「次」にいくことしか、道はないわけなんだけど、でもね。
「落ちた奴に是非はない」
主任は冷酷に言い放つ。それは全ワナビが、想定はしていても、耐えきれない言葉であるだろう。
「何かこう、そのひとのよいところってなかったんですか?」
僕はいたたまれなくなって、その某ワナビ氏を弁護したくなってしまった。迷惑野郎であることをとりあえず忘れて。
「角川系のとある新人賞……ほら、不死身なファンタジック精神で、基本的に軽い目で駆け抜けていくような、作品を求めてるとこだ」
なんとなく想像つきました。つか僕、そこにも送りました。二次審査で落ちました。
「そこに落ちたんですね」
「で、次には、業界最大手のライトニングなあそこに送った」
「使い回しかよ!」
要するに、落ちた原稿を、ほかのところに送るというやつである。……これについては「所詮落ちた原稿、受かるわけがないだろハハッワロス」というのもあれば、「しかし『ブギーポ●プは笑わない』は、改稿ののち、他のレーベルに送ったらあの大ヒットだしなぁ、カテエラの例か」みたいなことがささやかれたりもする。正直、わからない。
「で、それも落ちた、ということですか」
「そして、奴はあきらめが悪かった。今度は、業界……このところで勢いをグンバツにのばしてきた、ハーレム系ラブコメの総本山に送り込んだ」
「使い回しで」
「そういうことだ」
「そして落ちた」
「そういうことだ」
う――――――む。
正直、僕にもその手の心理は心当たりがなくもない。つか、使い回しは、したことがある。
二回送って、どっちも一次審査落ちだったことがあって、さすがにこれは、見直さざるを得なくなったときもあれば、一次審査で落ちたやつが案外上の方にまでいって、ぬか喜びしたこともある。
人間……否、ワナビなんてのは、わずかな希望にすがりたがる人種であるからして。
同情……どころか、完全にひとごとではないわけである。
「恨み辛み、ですか。そのワナビは。まあ……三回も使い回しをしたということは、それだけ思い入れが強い作品だったんですね。……ところで、改稿はされていたんですか?」
「ほとんどなかった、と言ってよかったらしいな」
うーむ、それはさすがに無策すぎやしないか。
「しかし、それでLAOの異能を顕現するとは、なかなかの能力者だったようですね」
「怨念だけはいっちょまえだったようだ」
「……なぜそこまでの強烈なもの……オリジナルテキストを顕現させたのでしょう? ロクにひとの目にふれてないコンテンツなんて、LAOが『ネタ』判定するはずもないのですが、本来」
「さすがに設計者の言い分は違うな。……デリケートな問題だから、オフレコで、だったら話すが」
「僕もそこまで鞭打つ人間ではありませんよ」
「……そのワナビな、ちょいと……いや、かなり、イタい奴だったんだ。作品は、ドラゴンを設定に多いに組み込んだファンタジー。俺も業界人だけに、各新人賞の動向には目を配って、事情も知っているが、今年はやけにドラゴンが多かった。……ていうか、お前の小説にもでてきたからな」
「はい。ちょい役ですが」
「まあファンタジーにおいてドラゴンはオーソドックスな存在だ。さもありなんといったとこだ。……まあ、今年の『ドラゴン率』は、高かった。それ自体は、驚くことじゃない。それをいうたら、この数年のハーレムラブコメ率の方が、ずっとずっとだ」
「なるほど。さもありなんですね」
「で、だ。そいつ……オフレコだぞ、名前出すなよ? ここだけだからな?」
うーん、ドラゴンソルジャー・オブ・アッパーアイランドって感じ。(単語を和訳してみてください)ドウゾドウゾ。
「そいつの名前は……ペンネームは、窓枠曲壁という」
この物語は完全にフィクションです




