第二章 どんなときでも、ひとりじゃない(1)
あけましておめでとうございます。
今年もパクり道を邁進していくこの小説です。しねばいいのに。
今年も宜しくおねがいします
「琴、お前減給だからな」
「そんな! 主任!」
新人編集者、新仕事はじめから、減給をくらうの巻。
僕は編集長氏の肩をもつ。
「ゆうせんせいも弁護してくださいよぉ」
「どやかましいわ。琴さん、もっとマシな方法はなかったんかい」
「あれが一番早かったんですよ。なんとあの状態で、10分前に到着したじゃないですか」
「デメリットを考えろというとるのだ。ドヤ顔すな」
「ゆうせんせい、若さってなんですか?」
「振り向かないことさ」
「「HAHAHAHAHA」」
僕らは声を合わせて笑う。
「ははははは」
眼前の中年男性編集長も笑う。そして、
「おいお前ら」
メンチ切るどころじゃない、ガチ殺気でもって僕らを睨みつけ、ドスのきいた低音で僕らに語りかけるえらいひと。
「すいませんでした」「すいませんでした」
僕らは声を合わせて猛烈に頭をさげる。
編集長火野氏は……まあはっきりいって、こういう恫喝がすっごい得意そうな、怖そうなひとだ。鷲のような、彫りの深い顔つき。スマートではあるが、ガタイはよく、ダークグレーのスーツと、室内だというのに羽織っているコートが実にダンディである。怒られていなかったら惚れてしまいそうやん……。
「琴、お前減給な。始末書は書かんでいいから」
「逆がいいですよぉ」
「両方よりはいいと思え」
「変わりませんよお」
僕らはしっちゃかめっちゃかになったオフィスを、編集部の皆様が片づけている傍らで、編集長に連れられ、別室……なんか尋問室じみた、あるいは倉庫じみた場所で、テーブルを向かいに、締めつめにあっている。ちなみに机の向こうが、編集長、こっちが僕と琴さんである。
「塔乃森の初仕事は、始末書書きだ」
「それくらいはおやすいご用ですが火野編集長」
「主任と呼べ」
「はい」
「簡潔に、ビジネス文書のフォーマットに従い、しかしながら読み流されることなく、担当者が家に持ち帰ってもう一回、私的に読み返したくなるような文章を書け」
「なんて無茶振り!」
ふつうのビジネス文書の範疇を越えてますよ!
「出来んとはいわせん。お前は小説家だろう」
それをいわれたら、ぐうの音も出ませんわな。それに、断れる立場ではないのだあきらかに。そんな状況でにぃのがカカッとわかるのは確定的に明らかなのだ。おっと緊張のあまりブロント語が出てしまった。
「わかりました。カカッと書かせていただきます」
「返事が早いのは良いことだが、ブロント語がでてるぞお前」
「アウチ!」
「……はあ、まあいい。いや、よくないんだが、いいとする」
苦々しい顔つきで、しかし話を進めようとする主任。
「これからの仕事の話をしよう」
「これからの戦争の話をしよう、じゃなくてですか?」
「アメリカ現代文学のネタにまで食らいついてくるのには頼もしさを覚える。俺や琴の目は曇ってなかったな」
「恐縮です」
「まあいい」とか、「これから~しよう」とか、一定のテンポで、おなかにくるずっしりしたバリトンボイスで語りかけられると、惚れてしまうやん……何歳だかわからんけどこのおじさま……見かけだけでは歳がわからん。ダンディズム溢れる男の魅力に目眩がするぜ。僕の愚父とは……あれはあれで男前なのだが、しかし正当派中年男性の魅力といったら!
「じゅるり……」
「ど、どうした」
「いえなんでもありません」
「私の気のせいだといいんですけど、うちのボーイズ部門の編集者や作家さんの目つきに、いま似ていたような。ゆうせんせい」
「はははなにをおろかな」
「俺の目を見て話せ塔乃森、斜め45度を向くな」
「……」
「……」
じ――――っ。
鷲そのものの瞳。ワイルド、Born to be wild……たまらない野生だぜ……
「じゅるり……」
びくっ! と、ダンディー、もとい主任は椅子をずらした。
「ゆうせんせいって守備範囲が広いんですね」
「何の話かな?」
「こいつを選んだ俺の目は確かだったのか……?」
三者三様の思い思いのコメント。
なんか話がどんどんずれてきてる。が、僕がホスト役やるのもなあ。だって上座は向こうなのだし。
タイトルもとは、WA2です。
ホワイトアルバムじゃないよワイルドアームズですよ!