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今回で「第一章」がおしまいです

そしてライヴは実は終わってなかった。

 

「塔乃森先生! 乗ってください!」


 琴さんは具現化している「Aces High」に向かって走り出す。僕を招く。


 まるでいつか読んだラノベだ――少女が少年を、非日常へといざなう。圧倒的な「怪異」が日常を壊し、少年は夢幻にして無限の戦いへと……そして少年は大人になる……


 琴さんがさしのべてくれた手をとり、僕は戦闘機に飛び乗った。戦闘機は低空をホバリングしていて、羽翼にひょいと乗る琴さんの後を追っていく。琴さんにとって、これに乗るのは、バイクに乗るのとほとんど同じなんか。


 そして飛行機は再び飛翔し、トップスピード。


 やがて音楽は、ラストのギターフレーズを弾く。……っておいおい、こんな状況っつか、飛行機乗ったままギター弾けるんかい。……っておいおい、僕ら操縦席に乗れないのかい。機体にしがみついているんかい。


 あーきーらーかーに、物理法則でいったら振り落とされる状態なのに、それでも僕らがバイク感覚で飛行機を駆ることができるのも、またこれが「妄想の具現化」だからだ。ようするにファンタジー。うーん、ご都合主義万歳。


 しかし。


 「あのー、琴さん?」


 もんのすげえ暴風に包まれているのに、ご都合主義によって、自然と声は通る。


 「はい?」


 「これって、聞くまでもなく、編集部に向かってるんですよね?」


 「はいっ!」


 いーい返事だ。Cagayake! Girls! しかし僕は、ひとつの疑念を呈さずにはいられない。知ってるから……この曲が……あ、ヘビメタさんのほうですよ。


 「どんなにそのギターをアドリブ入れても、あと1分しか、曲続きませんよね?」


 「……はいっ」


 悪くない返事だ。


 「魔曲って、終わったら、具現化の異能は、きれいさっぱりなくなってしまいますよね?」


 「……」


 「ここ、都心の上空ですよね?」


 「……」


 「……返事をしろやぁーっ! クラァ!」


 お話にならない。


 いくらこれがご都合主義の産物とはいえ、落ちたら落ちたで死ぬのだ。異能の終結は、日常への回帰であり、極めてつまらないリアリティワールドの復帰である。


 「だ、大丈夫です。間に合います! ……たぶん」


 「最後のひとことが余計じゃあっ!」


 ああ、ノリで乗ってしまったこの飛行機は死のフライトだったのか。こんなアホなノリで、ラノベ作家にもなれずに死ぬ……ハハッワロス。誰が死んでたまるかっつの。


 って、ああっ!


 ギターのメインメロディーがほんとのラストに!


 「琴さーん! 急げーっ!」


 「え、もっと早弾きしなきゃですか?」


 「逆じゃあっ! 引き延ばせというとろうに!」


 「でもダラダラ手癖ソロは嫌われるんですよ?」


 「どうでもええわ! そういう話じゃねえわ!」


 「というかさっきまでの礼儀正しい少年作家はどこにいきましたか?」


 「ええいどうしてロッカーは土壇場になると強いんだ!」


 そうこうしているうちに、東京都心の上空を猛スピードで駆けていくスピットファイアと我々ふたり。エアロバティックス、エアショーというより、テロというか、第三次世界大戦というか。


 やがて、ビルが……HPで空庭社の企業説明ページを確認したときに見て覚えている、妙に近代的なビルが見えてきた。空庭社本社ビルである。間に合った……


 ……いや、違う! 


 屋上に降り立つと思っていたが、この速度と、リードギターの状況からして、違う!


 これは突っ込む体勢だ!


 琴さん、最後の超ロングトーンをギターで響かせて、ジャッ、と掻き慣らし、演奏を終える。


 反射的に僕は拳を突き出しメロイックサインを掲げ、ミュージシャンをリスペクト!


 「うお――――――っ!」


 「センキュー! Love you Madly!」


 デューク・エリントンかよ! 今時の若いのの誰がスウィング・ジャズの王を知ってるねん。


ってか。


 ぱっ、と、飛行機は、消えた。音が虚空に吸い込まれたら。


 「ああああああああぁぁぁぁ――ーっ!」


 「き、きゃあぁぁぁああぁあぁ!」


 慣性の法則によって、僕と琴さんは、飛行機の推進方向へと投げ飛ばされる。僕は琴さんを抱え、ビルに突っ込んでいく。


 どんがらがっしゃーん!


 一面の窓ガラスを突き破り、オフィスの中へ突撃である。受け身なんてとれるはずがなく、せめて琴さんをかばおうと抱きしめ、床に打ちつけられ、ごろごろとその場を転がる。


 ぐほぁ……い、痛い……でも、死んでない……生きててよかった……。


 ああ、琴さんも無事だ。魂抜けた放心状態で気を失ってるけど、けがひとつない。


 ふと気づく。僕ら、誰か下敷きにしてる。


 「塔乃森……佑、だな」


 威厳と威圧感に満ちた、中年男性の声は、僕らがヒキガエルのように押しつぶした、ミスタ・下敷きから聞こえてくる。


 この感じ、ただ者じゃない。


 「あなたは……」


 「編集長で、お前の担当だ」


 死んだ。作家として。

ね、年内になんとか第一章が終わらせられました……

次章からは、地味なパート……世界観とか設定とか、あと変なオッサンとかが出てきます。


なお……

「手癖ソロ」→「最近のイングウェイ」

「エリントンかよ!」→「全盛期エリントン楽団のライヴ」

「Cagayake!」→けいおん第一期

あたりで御調べいただければわかるかと。

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