辺境領への遁走1
まず、部屋の前にいた護衛騎士には私は殿下の媚薬が抜けたことをお伝えしエイネイ様にも連絡したことを告げて現場を離れた。
王都のナローズ子爵家の邸に戻ればまだ義母も義妹も夢の中。
私は元々王宮魔術師団への入団と共に王宮の隅にある魔術師団用の寮に入る予定だったので荷物をまとめていたし、大事なものは空間魔法でしまってある。
大事なものほど壊したり取り上げたりしたい義母と義妹に気づいてからは、お母様の形見のアクセサリーやドレスは空間魔法に大切にしまってある。
もともとが辺境伯令嬢だったので、母の持ち物は年数がたっていてもデザインも物も良いものが多かった。
取り上げられる寸前で空間魔法が使えるようになり、そこにしまったのが正解でなんとか母との思い出の品を失わずに済んでいる。
仮面舞踏会に着たドレスも母の形見の一部でそれを少し手を入れて今風にした一品だった。
ドレスを持ってクリスティアに相談したら、綺麗にリメイクしてくれた。
持つべきものは友達である。
「さて、荷物もまとまってて最小限で移動できる。馬車で移動すると一週間。足も付きやすく、居場所がバレやすい。ここは、単騎で馬移動が一番か」
呟きつつも私は自身の馬がこの邸に居たことが僥倖だと思った。
うちの邸にいる馬は普段は馬車用なのだが三頭いて、一頭は私の言うことを理解しよく動いてくれる賢い子である。
あの子を連れて行こう。
外套と、乗馬服に着替えた私はドレスを丁寧に空間魔法にしまうと邸の裏にある厩舎に向かった。
「パライズ、ちょっと私と遠くまでお出かけしましょう。もう、ここには帰ってこれないけれど。一緒に行ってくれるかしら?」
私の言葉につぶらな瞳の落ち着いた男の子のパライズは、ブルルと小さく嘶き、了承を伝えてくれる。
私はその鼻先を撫でて、お返事にありがとうと返し鞍をつけ、準備を進めていく。
我が家の厩番のボンドがやって来た。
この邸で唯一私をお嬢様として扱ってくれる、昔からの使用人だ。
この邸に残っている使用人で最古参だから、母のことも知っている。
今や執事とこのボンド以外は私をしっかり扱おうとしたメイド、侍女、侍女頭まで義母の力で入れ替えられてしまったから。
執事だけは父の子どものころからの使用人で変えることは出来なかった。
この二人が居たから、冷遇されていてもなんとか邸で生活できた。
二人の届かないところは自分の魔法でどうにかした面も大きいけれど。
「王宮へ移住なさるので?」
もともとの予定だとそうだったが、今回ハプニングで別の場所への移動になる。
しかし、もしものために行先は言わないほうが良いだろう。
「えぇ、すでに昨日も一仕事あったので出仕するためにもう行くわね。ボンド。パライズだけはこのまま連れて行くわ」
私の言葉にボンドは一つ頷くとパライズの首筋を撫でて声をかけている。
「パライズ、うちの大切なお嬢様を頼んだぞ」
パライズは私にしたように、ブルルと了承の返事をボンドにも返していた。
そうして私は、行先を誰にも告げずに仮面舞踏会の翌早朝に静かに王都から旅立った。




