準備は着々と2
「教会の大司祭様が、結婚を執り行ってくれるというのでこちらまで来てもらったよ」
殿下、いまや公爵閣下で元王族がお願いしたら大司祭様もお断りできないでしょう……。
あまりの展開に、頭を抱えそうになりますがさすがにそれを表に出してはいけない。
「大司祭様、伯父様とトーラス様がご無理を言ったのではありませんか?とかく、移動でお疲れでしょうからまずはお休みいただきましょう」
なんだか、だんだんと殿下の行動力に慣らされてきた私は、まず大司祭様の大移動に労いと休息をと声を上げる。
それに覚醒して動き出すのはやはり、場数を踏んでいる伯母様の辺境伯夫人であった。
「さ、まずは湯あみでお疲れをお取りになってくださいませ」
そうしてまず、大司祭様を辺境伯邸自慢の大浴場へご案内しその間に伯父様とトーラス様にきちんとお話を伺わなければならない。
「なぜ、私とトーラス様の婚姻の儀のために王都の大司祭様が辺境伯領都までお越しになるんです?」
私の問いかけには殿下があっさりと答えた。
「大司祭はな、ずっと王都に居ることにそろそろ飽きてきていてな。今回私が辺境伯領で婚姻の儀を上げるつもりだというと大司祭の座を譲ってこちらに来てくれた。今は元大司祭ということになっている」
まだまだ現役なはずの大司祭様なのに、殿下の一言で辺境伯領都まで来てしまうなんて。
王都の教会は大丈夫でしょうか?いきなりの大司祭交代に慌てていないだろうかとちょっと心配しているとさっぱりと湯あみを終えた大司祭様が綺麗な法衣にお着替えになってサロンまで来てくれた。
「いや、王都と違って自然が豊かで空気が良いですなぁ。人々ものどかな雰囲気があって実によい。移動してきて良かった」
なんて大司祭様自身が満足そうにされていたらなにも言えない。
「いやはや、御生まれから王族の禊までした殿下が結婚なさるというのでね。婚姻の儀までしっかり私が執り行いたいと思っていたので大司祭後輩に譲っちゃいました!」
めちゃくちゃ楽しそうな元大司祭様。
ご本人の希望でここまで来られたのなら、いいのかな。
「まさか、大司祭様に婚姻の儀を執り行っていただけるとは思いません。大変ありがたく思います」
私の言葉に大司祭様は穏やかに微笑んで言った。
「あなたの魔力測定の儀の時も私は見守っておりました。あんなに白く清廉な魔力は初めてでしたよ。王太合様の時よりも輝きが大きく、これは歴代最高峰の聖魔法の使い手だろうと魔術師団長と語ったものです」
属性魔法の判定の儀は教会で行うものだし、たしかに大司祭様がその地位に着いた数年後に私はその儀式を受けている。
そこで聖魔法の使い手と判明し、魔法学園入学前から魔術師団に出入りしエイネイ様に直に聖魔法を学んだし、女性ゆえに王太合様にお話を伺うこともあった。
一子爵令嬢ではなかなかお会いしない面々との交流も聖魔法の使い手故。
それでも、王族とそれで結婚するのは違うよねと思っていたところに事件。
逃げられなくなったけれど、殿下は私が王族入りするのが嫌なことは察していたんだろうな。
それゆえの臣籍降下で公爵閣下になったのだろうし。
身分的には王太合様の伯爵令嬢だって王族との婚姻にはギリギリの爵位なのだから。
子爵令嬢でしかなかった私が無理って言うのは当たり前だと思うのよね。
そしたら公爵閣下という立場と外交官という立場をもって辺境伯領にまで移り住んでくれちゃう殿下が付いてきてしまったと。
本当に、仕方ないかという気分だけれどここまで追ってくれる気概には本気を感じるので。
良いことにしましょうかねと結論づいたところで、お腹の子がそうしろと言わんばかりにポコと返事をするのだった。




