お話
現在、俺とイレーナ、そして君子と姫子がこの宿泊室の中にいる。
テーブルには、料理の食器が満遍なく、乱雑に置かれており、床には、所々、こぼしたと思えるようなシミも点々と描かれていた。
「あの……片付けに行ってもいいですか?」
「駄目よ!ちゃんと聞いてなさい!というか、次、そんなこと言ったら容赦しないからね。」
そのため、片付けたいと思っているのだが、イレーナから部屋を出ないよう言われて行くことができない。
しかも、イレーナは酒を飲みすぎたのか、俺に対してしばしばきつい言葉を使ってくる。
「「それでそれで、どうなったの!?」
「それでね。彼女はこう言ったの、『これで終わりよ!!』って!!」
「かっこいい!」
「そうでしょ〜。それでね――」
イレーナが、双子に対して、誰かの体験談を聞かせている。
その体験談はある少女が、妖怪、獣、更には人などを成敗するという内容になっている。
しかし、それのどれもこれもがまるで絵本のような内容で、にわかには信じがたいものが多かった。
「いやーそれにしても、その人はすごい人ですね。」
「そう思う?なら、才能あるわよ!!このお方は、頭脳明晰で、戦闘能力も高いすべてが完璧みたいな人なの!!」
イレーナの顔は、高揚しており、興奮しているのが目に取れる。
「まるで、黒影お兄ちゃんとは違うね。」
「ねー」
君子がそんな事を言い、それに合わせるように姫子も相槌を打った。
「そうよ。その人と黒影なんて、人間とサルぐらい違うんだから。」
「……なんだか、悪口が混じってませんか?」
「別に、事実を言ったまでよ。」
そこまで言われるほどだろうか?
てか、俺はそんな風に思われていたのだろうか?
黒影が、がっかりしている間も、反対にイレーナと双子は楽しそうだ。
その時、ふと時計が目に入った。時計は10時40分を指している。
「……もう、こんな時間なのね。ほら、ふたりとも部屋に戻ったほうがいいわよ。」
イレーナもそれに気がついたようで、先程まで出していた紙芝居を一枚ずつ懐にしまう。
本当、イレーナの懐はどうなっているんだろうか?
「「ええーいやだいやだ!」」
「でも、早く寝ないと明日早く起きれないわよ?」
「「いやだ!」」
双子は、頑なに部屋から出ていこうとしない。
「そう、困ったものね……。」
イレーナが、双子の対応に困っている。
きっと、どうやったら返せるのか考えているのだろう。だが、あの二人の性格からして帰らなさそうだ。
「うーん。じゃあ、私のとっておきのお話を聞かせてあげるから、そしてら、戻ってくれる?」
「「え!?うん!」」
イレーナは、軽くため息を付いた後、懐から今までの紙芝居とは違い本を取り出した。
本は、表紙がかすれておりどういう題名なのか分からない。
「これは、村の外で起きた悲劇と惨劇の物語です――」
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昔、ある都市に、科学者である両親と一人の少年がいました。少年は、熱血溢れ、研究熱心であり、いつも両親と様々な実験をしていました。そのような他愛のない日々は、少年にとって最も至福の時間であったものです。
そんな幸福な日々が続いていたある日、少年の両親のもとに一人の若い男性が現れました。その男性は、ひどくやつれた顔をしており、目にできたくまは、それはまあひどいものです。
そんなみすぼらしい男性は、言いました。「私の会社の専属の科学者に成ってくださいませんか?」と。
少年の両親は、最初の方こそ多少のためらいがありましたが、男性が何度も何度もお願いをしてきたため、押し切られ、結局、少年の両親はそこでお手伝いをすることになりました。
彼らは納得入っていなかったものの、研究をしていくうちに段々研究欲求に苛まれていきました。そして、最終的に会社に入ったことが幸福に思えるようなある物を作り上げることになります。
それは、新たなエネルギーを生成する装置でした。その装置は、一握りの空気だけで生成できるものであり、エネルギーの枯渇していた都市では画期的なものでした。
その結果、会社は巨大になり、他の会社を吸収合併しながら都市の中心となりました。そして、少年の両親はその功績が称えられ、都市の中でも指折りの著名な科学者になります。
少年と少年の両親は、これまで以上に裕福な生活を送ることができるようになり、明るい未来が待っているように見えました。
しかし、それも虚栄だったと、少年は後に気づくことになります。
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「――というわけで、一旦終わり。」
「え?これで、終わりですか?」
「ええ。私も、まだここまでしか読んでないの。てか、あなたが反応するのね。」
イレーナが、こちらを不思議そうに見ている。
「まあ、面白いと思いましたから。それに二人とも、もう寝てますし。」
「え?」
イレーナの横で、小さくヘビのように丸まって双子は寝ていた。
「おかしいわね。楽しそうに聞いていた気がするんだけど……」
「仕方ないですよ。もう、こんな時間ですし。それに、その……」
「どうしたの?」
「いや。なんでもないです。」
正直、話の雰囲気的にも、内容的にもどう考えても大人向けだし、二人が楽しめるとは全く思えない。
イレーナは、双子の頭を撫でており、寝ているにも関わらずその顔には嬉しさが見えた。
「あ。こんな時間まで付き合わせて悪かったわね。さっさと、寝ましょう。」
イレーナは双子を自身の布団の毛布を被せて、彼女自身もその布団の中に入っていった。
「それじゃあ、おやすみ。」
そう言い残して、就寝したイレーナを見届けた後、黒影は布団の中に入る。




