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人妖乃村のイレギュラー  作者: 傘丸うどん
第一章 旅の終わり
8/11

温泉

 

 「疲れた〜。」


 部屋にある布団に飛び込む。

 布団は柔らかく、飛び込んだとしてもその柔らかさのおかげで痛くはない。


 「そうね。さすがに、二里近く往復するとなるときついわね。」


 しかし、当のイレーナは相変わらず涼しい顔をしており、本当に疲れているのか分からない。


 「はい。水。」

 「あ。ありがとうございます。」

 

 水を受け取り、飲む。

 乾いていた喉を、冷たい水が通り潤す。その感触は、なんとも心地が良い。


 横では、イレーナも水の入った竹の水筒で水を飲んでいた。

 そして、ふぅと軽く息を吐くその姿は、まるで熟練のマラソン選手のように見えた。


 そんな風にして少しの間休んでいると、イレーナが、備え付けの赤い服をかごに入れる。

 そして、髪をほどいて、可愛らしいリボン渡してきた。


 「黒影、これから私は、用事を済ませに行くから、それを少し預かっててくれない?」

 「いいですけど……どこに行くんですか?」


 その言葉を聞いたイレーナは、きょとんと少し不思議そうな顔をした。


 「決まってるでしょ。温泉よ。」

 「えっ!?それなら、俺も行きます!」


 黒影は、布団に張り付いた体を引き起こす。

 

 ちょうど、お風呂に行きたいと思っていたところだ。汗――かどうかわからないが、体中がベトベトしていて少し気色悪かった。


 だが――


 「何言ってるの?ここは、日乃村の住人しかいないんだから、あなたの姿が見られたらだめでしょ。」


 イレーナの無惨な回答が、黒影の心にぐさりと針のように突き刺さる。

 

 「あぁ、そうだった。」


 傷心とともに、再び布団の中に顔を沈める

 何だか、イレーナがこの姿をまじまじと見ているような気がする。


 「……じゃあ、私、行ってくるわね。」


 気まずい雰囲気になったからか、イレーナがささっとドアの外に出ていった。

 黒影は、その姿を呆然と見ながら、また、布団に頭を沈める。


 「入りたかったな。……本当に。」


 黒影の空虚な言葉が、ほのかに暗くなった部屋の中に木霊する。




  ******   ******   ******   ******




 「はぁ〜疲れた。」


 イレーナは、体を伸ばす。

 ここ数日間、あれを調べるために寝ていなかったからか、湯船に浸かると疲れが、一気に押し寄せてきた


 「気持ちいいわ〜。」


 体を伸ばすと、お湯に入っていることも相まって、筋肉がほぐれて気持ちがいい。疲れが取れているという感じがする。

 

 「……やっぱり、無理してでも黒影は入れるべきだったかしら?」


 あの小綺麗な白衣とは裏腹に、黒影からは汗の匂いが充満していて、臭いと感じることがある。

 正直、近くにいるだけで、少し顔をしかめてしまうほどだ。


 「まあ、私の匂いかもしれないけどね。」


 そしてその少しの冗談も、全体に飽和した後に煙のように消え去っていった。

 時間が悪いのか、ここには誰もおらずただただ静かであり、その自分の声がよく聞こえる。


 「それにしても、今どこにいるのかしら。」


 最近会っていない、懐かしい顔が思い浮かんだ。

 誰よりも強く、美しい彼女が。

 

 「いつになったら、またお会いできるのかしらね。」


 その言葉が木霊して消え去ると、イレーナはお湯から出て、脱衣所に向かう。


 あの時のことを思い出したせいで、せっかくの気分が台無しだ。

 一気に、疲れが戻ってきたような気さえする。


 少し鬱々とした気持ちを抱えながらも、公金寺から支給の浴衣を着て、脱衣所から出る。

 すると、そこには見慣れた顔の双子が立っていた。


 「「イレーナお姉ちゃん!!おかえり!!」」

 「ただいま。君子、姫子。」


 二人の頭をぽんぽんと軽く撫でる。

 髪は、入浴をした後なのかほのかに暖かく、触っていて心地がいい。

 

 「「早く、お話を聞かせて!!」」

 「そうね。」


 本当に、二人の姿を見ていると心が安らぐ。というより、子供を見ると心が安らぐ。自分を()()()できる。

 だから、黒影のことをほったらかしてでも、二人の姿を眺めていたいが、そういうわけにはいかない。


 「あ。ごめんなさい。少し用事があるから、一時間ほど待っていてほしいの。」

 「「ええー」」

 「少しだけだから、ね?それに、今日はあなた達が好きな英雄の物語を聞かせてあげるから。」


 少し、気分が下がったように見えた君子と姫子が、今度は逆に嬉しそうに見える。


 「「うん!!」」


 そんな風にして、楽しくおしゃべりをしながら、イレーナは双子を連れて黒影のもとに向かう。

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