緑の池
山の奥へと連なっている石畳の道を歩いていくと、あたりがだんだん明るくなっていった。
そして、更に進むと森が一切なく、あたり一面が、真ん中にある橋を除いて光る池に覆われていた。
池には、ところどころ小さな島のようなものがあり、島には竹や、木、草などがまばらに置かれている。また、池の中には、鯉、ナマズ、小魚などの魚類がおり、まるで池全体が小さな海のようなものになっている。
「どう?綺麗でしょ?。」
「そうですね。」
黒影の返答にイレーナが、でしょ?と少し興奮気味に答えた後、池を眺める。
「そういえば、なんで、この池は光っているんですか?」
「それは――」
イレーナが、島の方を向くと突然話を止める。水鏡には、眉をひそめた姿が写っている。
しかし、島にはとくだん、変わったものはない。しいて言えば、大きな木が中心に立っているぐらいだろうか。
「……なるほど。こんなところにあったの。やっぱり―」
イレーナが、独り言をブツブツと喋りだす。何を言っているのかは、あまり聞こえない。
「あの……大丈夫ですか?」
黒影が、質問した途端、イレーナが、バッとこちらの方に振り向く。
「もしかして私、なにか言ってた?」
「はい。」
「そう……あっ、独り言だから気にしないでちょうだい。それで、えっと……この池が光っている理由だったかしら?ほら、あれを見て。」
イレーナが指した方向には、ぼこぼこと不自然に空いた岩壁がある。そこから、池の水がダラダラと無限のように水が流れている。
「あの岩壁は、緑色の光る成分を含んでいたの。だから、昔は緑の洞窟と呼ばれていたわ。でも……」
今度は岩壁と池の狭間を指差す。
そこには、一列にきれいに並んでいる木の棒があった。
イレーナが、そこに向かって石を投げると、もぞもぞと木の棒が動き出し、水の流れている穴の中に入っていく。
「五年ほど前、あそこにいる虫が、この洞窟の岩を無作為に食べて、穴だらけにしたのよ。そのせいで、緑の成分が大半失われたの。しかも、その時、その穴から水が流れ出してきて、洞窟が浸水したのよ。」
「え?じゃあ、虫が水がある場所まで穴を掘ったんですか?どうしてそんなことを?」
「さあ?私もよくわからないけど、定期的に緑色の成分をその水に吐き出していたみたい。それで、その水が今の池になったのよ。」
「へー。面白いですね。」
黒影は、話を横流しに聞きつつ、イレーナが先程まで見ていた島をじっと観察する。
これといって、不思議なものはないな。それに、違和感も感じ取れない。
一体何を気にしていたのだろうか?
草……木……これぐらいしかないような――
「あれ?イレーナさん。あの島の真ん中にある――」
「ああ……あれは、別によくある自然現象よ。さっ、もう夜は遅いのだから、急ぎましょ。」
そう言って、イレーナが、黒影を引っ張りながら連れて行く。
黒影の姿がどんどん遠くなる中、黒影が見ていた場所には、不自然に盛られた土があった。
そこから数分ほど歩くとイレーナの言っていた公金寺にたどり着く。
公金寺には、屋根の瓦を除いてすべて赤く染色された木が使われており、外装だけ見れば中華風とも言えるような見た目をしている。
イレーナが、ランプの火を消して、扉を開けた。
公金寺の中は、旅館と言われれば分かるような内装をしている。また、光源がないにも関わらずなぜだか明るい。
しかし、受付、宿泊者などの人影すら見えず少し不気味に見える。
「あの……勝手に入って大丈夫なんですか?」
「別に大丈夫よ。元々部屋は取っているんだし。」
「でも……誰もいませんよ?」
「まあ、今は深夜だからみんな寝てるんじゃない?」
「でも――」
「はぁ。ちょっと、静かにしてちょうだい。少し疲れてるのよ。」
イレーナが、少しどすの効いた声で返してくる。
黒影は、その声を聞いて言いかけた言葉を飲み込む。
すると、何事もなかったように、再びイレーナが歩き始めた。
……怖い。あんなニコニコしていたイレーナが怒るとここまで怖いのか。
しかも、周りの雰囲気も相まってより怖い。
そんな事を思いつつ黒影は、なるべく静かにして部屋に向かって歩いていく。




