燃える石
その後、俺はイレーナと一緒に演劇を見たり、商店に行ったり、呉服屋に行ったりといろいろな場所を巡った。
だが、俺の記憶に引っかかるようなものがは一切なく、イレーナは『結局、来た意味ないじゃない。』と時折愚痴をこぼしていた。ついでに、ため息も。
===============数時間後=================
「はい。かき氷だよ。」
店の人が持ってきてくれたかき氷には、蜂の巣が盛り付けてありはちみつがタラタラと流れている。その見た目だけ見ると美味しそうだが、その量は3人前でもあるんじゃないかと思えるほど多い。
それをイレーナが、スプーンを使って食べ進めていく。かき氷は、スプーンで掬われるたびにシャリシャリと爽快な音を立てており、聞いていて心地が良い。
「結局、記憶の手がかりになるようなものは一切なかったわね。」
イレーナが、かき氷を悶々とした表情で食べながら話しかけてくる。
「でも、色々と見れて、面白かったですよ。」
イレーナは、『そう?』ときょとんとした顔をした。
確かに、記憶の手がかりがなかったのは残念だったが、演劇や呉服屋などの場所で色々なものを見れたので、楽しかった。
「まあ、それなら別にいいけど。」
微妙な返事をイレーナは、返してきた。
こんな風に、色々と雑談をしていると1人前以上はあったであろうかき氷が、いつの間にか目の前から消えており、イレーナはハンカチで口の周りを拭いていた。
そして、ハンカチを懐に入れると、立ち上がり、店員の女性にかき氷の代金を渡す。
「さあ、行くわよ。」
黒影は、イレーナと共に外に出る。
「じゃあ、次は公金寺に行きましょうか。」
「公金寺?」
「日乃村の近くに山があるでしょ?そこにある、お寺のことよ。」
「でも、もう日が暮れそうですよ?」
空にあった太陽が沈みかけており、みかんのようなオレンジ色が広がるきれいな夕焼けになっていた。
「大丈夫よ。公金寺では、宿泊もできるらしいから。」
かき氷屋を出て10分ほど経つと、イレーナの言っていた山にたどり着いた。
山には石畳があり、まるで自分たちを招待してきているみたいだ。しかし、山の中はとっくに暗くなっており、道の行く末が見えない。
「……本当に、この山を今から登るんですか?」
「ええ。」
「でも、今入ったら暗すぎて何も見えませんよ?」
「ああ、そのこと。そのことなら、別に心配しなくていいわよ。」
イレーナが、懐から氷と幾つか赤茶色の石を取り出す。そして、黒影にその石を三つ渡す。
「一応、持っておいて。もしかしたら、足りなくなるかもしれないから。」
そう言うと、さらに懐から片手間ほどのランプを取り出して、持っている石と氷を全てその中に入れる。
すると、中にある石がだんだん赤くなっていき、遂には発火する。
「あの……これ、何ですか?」
「この石?これは、発火石と呼ばれている物よ。少しでも水に触れると発火するの。」
説明を小耳に挟みながら、イレーナから渡された発火石を観察していると途端に石が猛烈に熱くなる。
「熱っつ!!」
あまりの熱さで、発火石を地面に落としてしまった。
「あっ。その石、燃えはしないけど、しばらく経つと熱くなるから気をつけてね。」
「先に言ってくださいよ!!」
イレーナは、クスクスと笑っていた。
そして、もう片方の手に冊子を持ち、中に描かれている地図を開く。
「じゃあ、行きましょうか。」




