廊下
「つまり、今から一時間後に始まるのね。」
「はい。」
「だったら、今すぐそこに向かいましょう。今のうちに行けば、参加者として紛れ込めるはずよ。」
「かしこまりました。」
「……どうしたの?何か、考えてるみたいだけど。」
「あの、今晩の襲撃は、中止したほうがよろしいのではないでしょうか。」
「え?どうして?」
「今晩、集まる者たちが皆、誘拐に加担した者とは私には到底思えませんし、この襲撃自体、正しいのかどうかもわからないじゃないですか。」
「ああ。まあ、その気持ちはわかるわよ。確かに、可能性が高い、だけであって彼らがやったとは限らないしね。けど、今のうちに潰しておかないとこれから被害者も増えていく可能性もあるから、仕方がないのよ。」
「そうですか……あ。そろそろ、起きる時間かと。」
「そうね。じゃあ、ここからは、私の計画通りだから。よろしくね。」
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ――
「ふあああああああ。」
非常に居心地の悪い音で目が覚める。それと同時に、そのうるさい音を叩いて止める。
一瞬、何だこれと思ったが、それは、イレーナが俺を起こすために用意したであろう目覚ましだった。
そうして起きた後、机の上においてある水の入ったグラスを手に取り、喉の奥に押し込む。冷たい水が喉を通り、霞がかった頭の中が段々とはっきりしていく。
「疲れているんだろうか。」
軽いため息とともにそんな言葉がこぼれ落ちる。
寝ている間に、誰かの話し声――というより、幻聴が聞こえてきた。しかも、幻聴だと言うのに妙にリアルで、薄気味悪い。
それに、部屋の中がいつもよりも暗く見えるし、イレーナと双子がどこにも―
「あれ?イレーナさんと君子、姫子はどこに行ったんだ?」
三人が眠っていた場所を、目をこすった後、二度見する。
布団で寝ているはずの三人の姿が見当たらない。まるで、最初からそこにはいなかったようにきれいで真っ白な布団しかない。
不思議なことに、部屋の中は暗く、よく目を凝らさないとどこにものがあるのか見分けがつかない。
「まあ、探すか。」
とは言っても、おおよそ食堂に行ってると思う。
机の上に置かれていた返却必須の皿達が消えているし、今の時間なら朝食に行くのも不思議ではない。
黒影は、そんなことを思いつつ体を伸ばしてから部屋の外に出る。
「え?なんで、こんなに暗いんだ?それに……何だ?この匂い。」
不思議なことに、つい昨日までほのかに光っていたはずの廊下が、闇に包まれたかのように暗くなっていた。
加えて、廊下からは、腐りかけの生肉のような異臭が漂ってきている。
そんな不気味な廊下を目にして、鳥肌が立ち、足がすくむ。
「……ま、まあ、大丈夫だろ。」
別に、ただ暗いだけで何もなさそうだし、これが異常とは限らないし、異臭だって、食堂でなにかやっているだけなのかも知れない。
それに、ためらってしまうとイレーナが先に食べ終えてしまい、俺は何も食べられん勝ったという自体になりかねない。それだけは絶対に避けたい。
黒影は、数度、深呼吸をした後、廊下に出るために部屋の隅々を見渡す。
すると、今までイレーナが使っていたあるものが目に入った。
「ランプ?どうしてこんなところに?イレーナさんが、持っているんじゃなかったっけ?」
どうしてあるのか不思議に思ったが、そんなことは、一旦、置いておく。
そんな事よりも、これ、どうすれば点けられるんだ?
今、俺は火を点けられるような持ってないから、明かりを灯せない。
ただ、かといって、これを置いていって廊下を進むのは危険な気がする。
少しの間、思案していると、ポケットが不思議と暖かくなってきた。
「あ。これがあったか。」
黒影は、ポケットから発火石を取り出してランプの中に入れて、グラスの中に残っている氷を全てそこに入れる。
すると、燃え盛る炎が石から現れ、ランプに光を灯らせると同時に、周囲の空気を温めていく。
そんな様子を見て、緊張ではりめいでいた心が少しだけ和らいだ。
ただ、これはイレーナに渡したような気がするが……まあ、気のせいだろう。
「よし。じゃあ、行くか。」
眩く光っているランプを手に暗い廊下の奥に進む。




