記憶喪失
■■、■■、何もかもが■■■■く見えた。なぜ■■とは、こんなにも不平等なのだろうか?結局、■■■■■を見つけ出すことはできず。何もならなかった。■■■■■■にも、■■■■にも謝ることはできず。■■■■ばかりが積み重なっていく。
ああ、こんなことなら■■■■■■■■■■■にでも■■■■すればよかった。■■■■■■■■て■■■■■■■■■とも―――
「ちょっと!!しっかりしなさい!!」
耳元で女性の声が聞こえる。目を開けようとしてもまぶたが重く、開かない。
■■■■はゆっくりとその重いまぶたを開ける。目の前には赤目の女性が、肩を掴んで揺さぶってきていた。
「やっ……やめてください……」
そう返事をすると女性が、胸に手をおいて息を下ろす。
「よかった。てっきり、死んでるんじゃないかと思ったわよ。」
「あの……ここ、どこですか?なんで俺はこんなところに?」
見渡す限り森に囲われており、森の中は差し込んでくる木漏れ日とは裏腹に真っ黒に塗られている。
その黒さは夜よりも、墨汁よりも濃い。
「ここは夜山の入口。夜山の中で倒れていたあなたをここまで運んできたの。」
「や……夜山?」
「え?知らないの?あなたちが暮らす山のことなのに?それに、夜山の中で倒れていたのに?」
赤目の女性が、首を傾げている。
困惑しているからか、■■■■はキョロキョロとあたりを見渡している。
「……あなた、名前は?」
「えっと。俺は――」
ザザッ
強烈な頭痛とともに頭の中で、砂嵐のような音が流れてくる。
何も思い出すことができない。
必死に思い出そうと記憶を振り絞るが、思い出せない。逆に、思い出そうとすると痛みがだんだん増してくる。
「どう?もしかして思い出せない?」
「はい……。」
「なるほど、あなた、記憶喪失になっているようね。」
「記憶……喪失?」
「ええ。自分の名前すら覚えてないのだから、それしか考えられないわ。」
確かに、名前すら思い出せないのはおかしいし、何もかも常識的なこと意外覚えていないということはそういうことなのかもしれない。
「あっ、それで夜山の話よね?夜山は、単純に言ったらあなた達、妖怪が住んでいる暗い森林に覆われた山のことよ。」
「妖怪?」
「あなた、自分自身のことすらも忘れてるの?」
女性が、懐からボロボロの薄汚れた冊子を取り出す。そして、目の前でパラパラとページを捲る。
そこには、牛と蜘蛛が合体したような生物、大きなスズメが人間のように立っている様子が描かれている。
「これが妖怪。人間と同等の知力を持つ者たち。あなたも彼らと同じ存在よ。そうね、この中だったら――」
女性が、さらにページを捲り、白い煙の姿をした妖怪を見せてくる。
「あなたは、この妖怪が黒くなった姿にとても似てるわ。」
女性から冊子を受け取る。そして、興味深そうに妖怪の姿形が描かれた絵を見ている。
本当に奇妙な姿をしている。色々な種類のやつがあって意外と面白い。
まあ、人間と動物が合体したような見た目が少しだけ気持ち悪く感じるが。
すると、女性がパチンと音を立てて両手を合わせる。
「そうだ。あなたの記憶が戻るように手伝ってあげる。」
「え?でも――」
「あなたも、記憶を取り戻したいでしょ?」
女性が、ニコニコと笑顔で迫ってくる。
あまりの気迫に、後退りしてしまう。
この女性に迷惑をかけたくはない。
でも、ここについて全く知らないし、どこに行けばいいのか分からない。それに、この女性も手伝ってくれると言っているし、大丈夫かな?
「――それじゃあ、よろしくお願いします。」
「そう。なら、あなたのことをこれからは、『黒影』って呼ぶわね。」
「え?」
思わぬ言葉に、呆気にとられる。
「だって……名前があったほうが呼びやすいでしょ?」
「ああ。そう……ですね。」
一瞬、自分の名前を知っているのかと思ったが、そういうわけでもなくただただ呼びやすいからという淡々な理由だった。
まあ、それでもないよりかはマシだ。
「それで……あなたの名前なんですか?」
「私?私の名前は赤――いえ、イレーナよ。」
「えっと、イレーナさん。これから、どうするんですか?」
「決まってるじゃない。手がかりになりそうな場所に行くのよ。」
「え?そんな場所あるんですか?」
女性は、妖怪の書かれた冊子をパラパラと音を立てて捲り、何やら絵が書かれたいるページで止める。そして、バツ印の書かれた場所に指を指す。
「ここにある、日乃村。ここなら、何か記憶に引っかかるものがあるはずよ。」




