第5話「夫婦という名のプロフェッショナル」
カメラの前では、母と子。
カメラの外では、誰にも言えない夫婦。
――それでも、ふたりは“最高の共演者”でありたかった。
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■Scene:母親役としての玲奈、リハーサル開始
悠人が監督する映画『透明な骨』に、玲奈が“友情出演”としてワンシーンだけ加わることになった。
役どころは、主人公(柚季)の“回想の中の母親”。
若くして家族を手放さざるを得なかった女性。
一瞬のぬくもりを与える、わずか30秒の登場。
監督である悠人は、モニター越しに玲奈を見つめながら、撮影前に一言だけ伝えた。
「……心で泣いて、顔で微笑んで。
それが、この母親が子に遺した“最期の愛”だから」
玲奈はうなずいた。
その瞳に、女優としての鋭さと、妻としての優しさが同居していた。
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■Scene:テイクワン、本番――
セットの中、古い団地のキッチン。
柚季(主人公)は8歳の少女役に戻り、母・玲奈が彼女の肩に手を添える。
玲奈:「……あなたは、絶対、幸せになれる子よ。だから、大丈夫。
ママは、ここにいるから」
その言葉を残し、母親は背中を向ける。
カメラが止まった瞬間、スタッフからため息と拍手が漏れる。
「……泣けた……」
「今のワンカットで十分だ……」
悠人も、モニターの前でしばらく動けずにいた。
(……ありがとう。玲奈さん)
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■Scene:休憩時間、現場の片隅にて
その後――スタッフが昼食に移り、現場が少し落ち着いたタイミング。
玲奈が台本を抱えて廊下を歩いていたとき。
背後から、そっと、誰かの“服の袖”を掴む手があった。
玲奈:「えっ……悠人くん?」
振り返る間もなく、その手に導かれ、ふたりは物置代わりの控室へ。
カチャ、と鍵が閉められる音。
玲奈:「ちょっと、何……?」
次の瞬間――悠人は壁際に玲奈を静かに押し当て、目を伏せたまま小さく言う。
悠人:「……撮影中、ずっと我慢してた。
どれだけ“母親の表情”でいても、俺には“玲奈さん”にしか見えなかった」
玲奈の頬がほんのり赤くなり、目を潤ませた。
悠人:「……好きだよ、玲奈さん」
そのまま、唇が重なる。
ひとつのキス。
そして、もうひとつ。
奥深く、甘く、優しく――ふたりだけの“確認”。
玲奈:「……バカ。でも、嬉しい……」
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■Scene:夜、自宅の湯船の中で
帰宅後の風呂場。
ふたりは湯船にゆったりと浸かっていた。
玲奈は少し髪を結い上げ、悠人の肩に背中を預けている。
玲奈:「……なんかね、久しぶりだった。あんなに“芝居”だけに集中したの」
悠人:「玲奈さんの芝居……本当に、やばかった。
正直、あの30秒だけで映画の“魂”が入ったと思ってる」
玲奈:「……嬉しい。ありがとう」
ふたりは目を合わせる。
そして、玲奈の白い肩にそっと手を添えた悠人が――
「……好きだよ、玲奈さん」
そう囁いた瞬間、玲奈は湯に揺れる水音の中で、
ゆっくりとキスを返した。
泡に沈むほど近づいた唇と唇。
すべてを忘れさせるような、深く長い口づけだった。
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