第1話「新しい扉、開かれる瞬間」
――“推し”と結婚した僕は、夢を叶えようとしている。
そして、妻は――その背中を黙って支えてくれている。
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■Scene:映画監督デビューが決まった日
春の匂いが残る風が吹き抜ける朝、悠人は一通のメールを確認した。
「正式に監督として、弊社新規映画プロジェクトの起用が決定しました。
脚本・演出、あわせてお任せしたいと考えております」
言葉が出なかった。
手が震えるのを感じながら、悠人は部屋の奥にいる玲奈へと声をかけた。
「玲奈さん……! 監督、決まったよ……俺、映画、撮れるって……!」
玲奈はその瞬間、何も言わずに、ただ静かに歩み寄ってきた。
そして――悠人をぎゅっと、強く抱きしめた。
「おめでとう、悠人。あなたの夢が……いよいよ、動き出すのね」
その背中越しに、玲奈の目がわずかに潤んでいることに気づき、
悠人は小さく囁いた。
「主演は玲奈さんにって、言いたかった。でも……最初の作品だから、俺……」
玲奈は、首を横に振った。
「ううん。それでいいの。
あなたが“監督”として見たい世界を、思い切り描いて。私は、どんな形でもあなたの味方だから」
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■Scene:打ち合わせと、新しい“主演女優”
その後、映画会社との打ち合わせ。
悠人が主演に選んだのは、新人女優の夏目柚季。
10代の元演劇部出身で、演技に荒削りながらも強烈な存在感を放つ彼女。
悠人は緊張しながらも、現場では監督として毅然とした態度を貫いた。
「君の中にある“怒り”や“孤独”を出してほしい。演じるんじゃなくて、思い出して。
君自身の言葉として、叫んでほしいんだ」
柚季の目が真剣に変わる。
玲奈は陰から、その姿を見守っていた。
“演技指導”という言葉が、悠人の口から自分以外の女優に向けられるのは、どこか胸が痛む。
それでも、彼が目指す場所を――誰よりも応援したかった。
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■Scene:夜、帰宅。ふたりきりの台所で
その夜。
ふたりきりの夕食。玲奈がキッチンで野菜を切り、悠人はテーブルを整えている。
玲奈:「……ねえ、悠人。言いづらかったでしょ? 柚季ちゃんのこと」
悠人:「うん……正直、玲奈さんに主演をお願いしたかった。
でも、自分の“最初の一歩”に、甘えを入れたくなかった」
玲奈:「甘えじゃないわよ。夫婦なんだから。
……でも、そう言ってくれたの、嬉しい」
玲奈はふっと笑って、包丁を置き、手を拭くと悠人の背中に寄りかかった。
「じゃあ、私は“あなたのファン”として、この映画を応援する。
あなたが初めて、世界に見せる物語――スクリーンで観るのが楽しみ」
悠人は彼女の額にそっとキスを落とした。
「……誰よりも、玲奈さんに見てほしい映画にするよ」
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■Scene:タイトル決定の夜
深夜。悠人はノートPCにタイトルを打ち込んでいた。
『透明な骨』(仮)
――見えない痛みを、映画にする。
その隣で眠る玲奈の寝顔を見つめながら、
悠人はそっと、彼女の手を握った。
まだ誰にも知られていない“ふたりの結婚”。
けれど、この作品が少しでも世界を変えるなら――
ふたりの秘密の愛も、きっと揺るがない。
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