第8話「バレたら終わる」
――それでも、“信じてくれる人”が、ひとりいれば。
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■Scene 1:静寂を破る足音
別荘での新婚生活も、1週間目に差し掛かった頃。
玲奈のスマホに、所属事務所のマネージャー・千田からの電話が入った。
「すみません、玲奈さん……最近、週刊誌が動いてます。都内じゃなく“郊外”での目撃情報が出回ってる」
玲奈の心がざわめく。
(まさか……この場所が……?)
「“年下の男性と一緒だった”って噂レベルですが、玲奈さん……いま、誰かと一緒にいますか?」
問いかけの裏にある、“勘づいている”気配。
玲奈は深く息を吸い、覚悟を決めた。
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■Scene 2:秘密の打ち明け
数時間後。
玲奈は東京の事務所に戻り、千田と向かい合っていた。
部屋のドアに鍵をかけ、書類を取り出す。
「……千田さん。これ、婚姻届の写し」
「……え?」
「私、結婚しました」
千田はしばらく沈黙したのち、息を吐いた。
「……誰とですか?」
玲奈は少し笑って答える。
「“あの子”よ。千田さんが持ってきてくれた、ファンレターの」
「……高校生、の……?」
「うん。神谷悠人くん。彼となら、信じられるって思ったの。誰に何を言われても、私はあの手紙に救われたから」
千田は額に手を当て、ゆっくり立ち上がる。
「……ほんとにあなたって人は、時々手に負えない。でも……あなたらしい」
玲奈は驚いたように目を見開いた。
「……怒らないの?」
「もちろん怒ってる。でも、守るよ。マネージャーだから。これまであなたが積み上げた全部を、こんなことで壊すわけにはいかない」
玲奈の目に、涙が滲む。
「ありがとう……」
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■Scene 3:もう一人の理解者
後日、玲奈は悠人と共に、悠人の所属する映画事務所(新人養成部門)のマネージャー・柿沼とも会った。
柿沼は30代半ばの、冷静な女性だった。
「神谷くん。君が書いたあのファンレター……正直、信じがたいって最初は思った。でもいま、玲奈さんの目を見てると納得できる。……この人、本気で君を選んだんだね」
悠人は真っ直ぐに頭を下げる。
「はい。僕は、玲奈さんのすべてを守る覚悟です」
柿沼は笑った。
「高校生でそれを言えるなんてね。いいわ、二人とも。条件はひとつ――絶対に“撮られない”こと。バレたら、終わる。私たちでは、庇いきれない」
玲奈と悠人は、同時にうなずいた。
「……はい」
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■Scene 4:忍び寄るレンズ
週末。別荘の裏道。
ふたりはマスクと帽子を深くかぶって買い物帰り。
手はつないでいない。でも、並んで歩いていた。
そのとき、数十メートル先――
「カシャッ」
草むらの奥で、わずかに動いた何か。
玲奈が立ち止まり、視線を向けた。
「……今、光った?」
悠人も察する。
「……いるかもしれない。週刊誌のカメラマン」
ふたりはすぐに道を引き返し、裏手のルートから帰宅。
玄関を閉めると、玲奈は背中から壁にもたれて目を閉じた。
「やっぱり……静かに暮らすって、難しいね」
悠人は玲奈の手をそっと握った。
「でも、誰にも知られなくても、僕は玲奈さんと一緒にいられるだけで十分です」
玲奈は微笑む。
「……ありがとう。じゃあ、せめて今日だけは、こっそり甘えてもいい?」
「もちろん」
その夜、ふたりは手をつないで眠った。
外の世界にバレる前に、
このぬくもりだけは――守りたかった。
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