第5話「卒業式の告白」
――「君となら、いますぐでも結婚したい」と、少年はまっすぐに言った。
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■Scene 1:最後の制服と、最後のチャイム
三月の朝。
校庭の桜はまだ五分咲き。
神谷悠人は、最後の制服姿で式典の控室に立っていた。
担任からは「推薦入試も終わったし、優等生代表で壇上に立て」と告げられた。
クラスメイトたちは卒業アルバムを回しながら、未来への話で盛り上がっている。
悠人はそれらの声を聞きながら、胸のポケットに忍ばせた白い封筒をそっと触れた。
そこには、あの日と同じように――
“彼女への想い”が綴られていた。
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■Scene 2:観覧席の、ひとつの影
式が始まり、吹奏楽の演奏が鳴る。
来賓席の端、マスクとサングラスをかけたひとりの女性が静かに座っていた。
綾川玲奈。
悠人から「最後に見届けてほしい」とだけ送られたLINEに応え、
万が一バレたらすべてを失う覚悟で、彼女はそこにいた。
(私が来てよかったの?)
誰にも答えられない問いを胸に、玲奈は前を見据える。
その視線の先――壇上には、悠人が立っていた。
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■Scene 3:マイクの前の青年
「卒業生代表、神谷悠人くん」
名前が呼ばれ、拍手が響く。
悠人は原稿用紙を手にマイクの前に立ち、ゆっくりと話し出した。
「僕たちは今日、それぞれの道に進みます。
進学する人、働く人、夢を追いかける人。
でも僕は、この場で一つ、どうしても伝えたいことがあります」
会場がざわついた。
悠人は原稿を下ろし、目を閉じたあと、はっきりとこう言った。
「僕には、命を救ってくれた人がいます。
その人がいたから、いま僕はここに立っていられる。
その人と、僕は……結婚したいと本気で思っています」
瞬間、式場が静まり返る。
「この場では名前は言えません。
でも、見てくれていると信じて――伝えます」
そして、はっきりと――
「綾川玲奈さん。僕は、いますぐにでも、あなたと結婚したい。
あなたが女優でも、僕がただの高校生でも、関係ありません。
僕の人生を、あなたに捧げたいです」
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■Scene 4:沈黙と拍手のあいだで
会場は一瞬、静寂。
だが、悠人のクラスメイトのひとりがぽつりと呟いた。
「……かっけーな、あいつ」
その言葉を皮切りに、次々と拍手が沸き起こる。
教師陣は動揺しながらも、式は進行された。
観覧席の玲奈。
サングラスの下で、静かに涙を流していた。
(どうして、そんなにまっすぐなの。
どうして、そんなこと――)
答えはわかっていた。
彼の心には嘘がない。
ただ、それだけだった。
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■Scene 5:式のあと、校門前で
卒業式の帰り道、校門の先で玲奈が待っていた。
帽子を深くかぶり、マスクをして、ただ静かに。
悠人が気づいて駆け寄る。
「……来てくれて、ありがとうございます」
玲奈はしばし沈黙したのち、言った。
「バカじゃないの? あんな公の場で」
「……でも、伝えたかったんです。本気で、玲奈さんと結婚したいって」
玲奈は視線を落とし、小さな声で言った。
「……ほんとに、する?」
「……はい。いますぐでも」
「“交際”は?」
「飛ばしていいです。僕は、玲奈さんを守るために生きます」
玲奈の頬に、風が吹き抜けた。
そして、ふっと笑う。
「じゃあ――その覚悟、証明してもらうからね」
彼女はバッグの中から、1枚の婚姻届を取り出す。
「私、今日、これを持ってきたの。……あなたが本気だったら、サインして」
悠人の瞳が揺れた。
でも次の瞬間、彼は迷わずペンを取る。
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