第4話「“好き”を言ってはいけない」
――名前を与えた瞬間、それは“許されない感情”になる。
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■Scene 1:感情に名前をつけたら
撮影スタジオに響く静寂。
綾川玲奈は本番直前、衣装合わせの鏡に映る自分を見つめていた。
(私、今――“恋”してる?)
昨日、悠人が放ったあの言葉。
「きっと、もっと簡単に“好き”って言ってました」
その真っ直ぐさが、玲奈の胸を焼いて離れない。
けれど、口に出してしまえば、それは終わる。
“女優”という立場は、誰かを公然と好きになる自由すら奪う。
そこへマネージャーの千田が現れる。
「玲奈さん、最近ちょっと柔らかくなった気がします。何かあったんですか?」
「……ううん、何も」
玲奈は微笑んで、いつもの“女優の顔”に戻った。
心にしまったままの“好き”を、隠す術はもう覚えているから。
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■Scene 2:最後のホームルーム
一方、都内の高校――神谷悠人は、卒業式を目前に控えた教室にいた。
「神谷〜、最近ちょっと浮かれてんじゃねーか?」
「彼女できたんじゃね?」
「もしかして、推しと結婚できたらって妄想してんだろ〜?」
クラスメイトたちの茶化しが飛ぶ。
悠人は笑って受け流すが、その胸の奥にあるのは“妄想”ではない、現実の重みだった。
彼は知っている。
玲奈が誰よりも人目を気にしなければいけない職業であり、
自分が“高校生”という時点で、すべてがアウトだということも。
「好き」と言えば、すべてが壊れる。
でも、「好き」と言わなければ、彼女はきっと遠ざかる。
その狭間で、悠人は今、人生で初めて**“覚悟”**という言葉と向き合っていた。
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■Scene 3:ふたりのLINE
夜。玲奈の部屋。
LINE通知が鳴る。
悠人からだった。
【今日はありがとうございました。すごく勉強になりました】
【でも、ちょっとだけ――寂しくなりました】
玲奈はしばらく指を止めてから、返信する。
【どうして?】
数秒後、悠人からの返信。
【だって、僕にとっては“本番”みたいな時間だったから】
【玲奈さんは……どうでしたか?】
玲奈の手が止まる。
スマホの画面に映る文字が、静かに胸に刺さる。
「……バカね、ほんとに」
呟きながら、玲奈は震える指でメッセージを打ち込む。
【私は……“リハーサル”だったと思ってる】
【だから、もう少しだけ待ってて】
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■Scene 4:言葉にならない約束
その言葉の意味を、悠人は一晩中考えていた。
“リハーサル”――それはつまり、“本番”があるという希望だろうか。
それとも、もう二度とないという意味なのか。
そして夜明け前、悠人はスマホに一行だけ返す。
【はい。僕、待ちます。あなたが“本番”だと思える日まで。】
玲奈はそのメッセージを、毛布にくるまりながら読み、涙ぐんだ。
「ほんとに……年下なのかな、この子……」
年齢、立場、世界の常識。
すべてを引き裂くには、まだ時が足りない。
でも、どれだけ遠回りしてもいい。
この気持ちだけは、きっと“演技”じゃない。
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