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第4話「心音の休日、三人だけの映画館」



家族みたいで、そうじゃない。

恋人みたいで、誰にも言えない。

けれど“確かに”幸せだった、あの夜のこと――。



■Scene 1:平日夜の小さなミニシアターにて


都内・下北沢の路地裏にある小劇場系の映画館。

悠人、玲奈、そして久々に東京へやってきた心音――

“秘密の三人組”が並んでチケットを受け取った。


鑑賞したのはフランス映画の恋愛群像劇。

映画のラスト、音楽が流れるなかでふたりが黙って抱き合う――そんな静かな余韻が場内を包んだ。


灯りが戻り、三人は出口に向かう途中、静かに感想を語り合う。


「演出、すごく抑えてたよね。抑えてるのに泣けるって……ずるいなぁ」

玲奈が小さく微笑むと、心音も楽しげに頷く。


「最後のラスト、もう“何も言わない”のが逆に全部伝わって……!

玲奈さん、次ああいう系もどうですか?」


悠人はそんなふたりを見て、

(この時間、ずっと続けばいいのに)と思った。


だが――平和な時間は、突然の“割り込み”で壊された。



■Scene 2:玲奈に群がる男たち、そして…


映画館を出た直後。

数人の若い男性グループが、玲奈を見てザワつく。


「あれ……綾川玲奈じゃね?」

「マジで!? え、あの玲奈? 嘘でしょ」

「……てかさ、こんなとこにいるってことは、彼氏とかいないっしょ?」


男たちが玲奈の前に立ちはだかり、興奮気味に話しかけてくる。


「写真とか撮っていいっすか? ねぇ、マジで玲奈さん本人?」

「つか、なんでここ来てんの? 男とじゃないよね?」


玲奈が一歩後ずさる瞬間――心音が前に出た。


「ちょっと、やめてもらえます? 公共の場でしょ? 失礼です」


「あれ? こっちの子も見たことあるな……あー! 女優の卵? SNSで見たわ」

「え、可愛くね? 飲みに行こうよ! 玲奈さんも一緒にさ」


今度は心音にもナンパの視線が向けられ始め、

玲奈は身構えた。


だが――遠くに立っていた悠人だけは、言葉を出せなかった。

玲奈を守りたい。でも、表に出ていけない。

心音を止めたい。でも、兄としても名乗れない。


“守るべきふたり”に何もできない自分が、悔しかった。



■Scene 3:夜、抱きしめてくれた言葉


自宅に戻って――


玲奈は食事もせず、ソファでふさぎ込んでいた悠人の隣に座った。


「……ねぇ。今日のこと、気にしてる?」


悠人は言葉を濁しながらも、ぽつりと漏らす。


「……なんにもできなかった。

監督としても、夫としても……

玲奈さんも心音も守れなかった。あんな情けない自分、初めてだった」


玲奈はその言葉に、そっと微笑んだ。


「違うよ。頑張ってるあなたが好きだよ。

どんなときも、目の前の現実と向き合ってる、あなたが――」


そう言いながら、玲奈は顔を近づけた。


「だから、そんなに慌てなくていいんだよ。

私たちは、“今”を愛せてる。それで十分」


そして、唇が触れた。


軽く、けれどすぐに深くなる。

玲奈の手が悠人の頬に添えられ、

甘く息を漏らす。


「んっ……悠人……」


ソファに体を預け、何度も唇を重ねていく。

感情の深さがキスの温度を上げていき、

ふたりの間に流れるのは、言葉にならない想いだけだった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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