第3話「禁じられた、最初の逢瀬」
――“見学”という名の、誰にも言えない初デート。
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■Scene 1:招かれたスタジオ
週末の朝。神谷悠人は、手汗でしわになったスケジュール表を見つめていた。
場所は都内の大型映画スタジオ。
玲奈の最新主演映画『青の残響』の撮影現場――そこへ、**玲奈の“特別招待”**で訪れることになったのだ。
受付で名前を告げると、スタッフの女性が小声で言った。
「……神谷さんですね。玲奈さんが、個人的にご案内するそうです。控室へどうぞ」
(個人的に……!?)
悠人の鼓動が高鳴る。
スタジオの裏導線を抜け、案内されたのは、簡素ながらも清潔な一室。
ノックの音と共に、ドアが開く。
「お待たせ」
現れたのは、リハ用の衣装に身を包んだ綾川玲奈だった。
白シャツとグレーパンツ。飾り気はないのに、どこか神聖で――まるで“現実じゃない”ように見えた。
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■Scene 2:2人だけのレッスン室
「ここ、普段は使わない練習室。監督にも話しておいたから大丈夫よ」
玲奈はスタジオの空きスペースを案内する。
誰もいない鏡張りの小部屋。ピアノと椅子だけが置かれた、静かな場所。
「悠人くん、せっかくだから――演技、してみる?」
「えっ……僕が、ですか?」
玲奈は笑う。「あの映画、覚えてる? 『雨に咲く花』のラストシーン。台詞、書いてくれたじゃない。試してみて」
悠人は緊張で声が震えるが、原稿用紙の一節を口にした。
「僕が君を見つけた日から、世界は静かに、色を取り戻していった」
玲奈は、彼の目をじっと見つめてから、ふっと微笑む。
「……いい目、してる」
悠人の顔が一瞬で赤く染まる。
玲奈はいたずらっぽく一歩近づき、肩に手を置く。
「演技ってね、“好き”って言わなくても伝える技術なの。でも、逆に――言わなきゃ届かないこともある」
その距離は、もう30cmもなかった。
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■Scene 3:年齢差という名の壁
悠人は俯きながら、ぽつりと呟いた。
「僕……いま、すごく変な気持ちです」
「変な気持ち?」
「だって、ずっとスクリーンの中にいた人が、こんなに近くにいて。しかも、僕のことを“名前で呼んでくれてる”なんて……」
玲奈はしばらく黙っていたが、ゆっくりと口を開いた。
「私はね、悠人くん。恋愛とか、もうしないと思ってた。35にもなれば、若い子と共演すれば叩かれて、年上の俳優と組めば“旬が過ぎた”って言われる」
「そんなの……間違ってます」
「ありがとう。でも、そういう世界なのよ」
玲奈は少しだけ顔を近づけ、まっすぐに見つめた。
「だからね。もし――“誰かを好きになる”としたら、せめて、その人だけには嘘をつきたくないの」
悠人の喉が、ごくりと鳴った。
「……玲奈さんは、今、誰かを……」
玲奈は微笑んで、言葉を遮る。
「それは秘密。でも、たとえば――“18歳の青年”とか、“私を見ててくれた人”だったら……嬉しいかもね」
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■Scene 4:鏡の中のふたり
ふと気づけば、鏡の中に映るふたりはまるで恋人のようだった。
玲奈は視線を落とし、小さな声で言った。
「ねぇ悠人くん、もし私が女優じゃなかったら……ただの年上の女だったら……」
「……きっと、もっと簡単に“好き”って言ってました」
玲奈の目が、驚きで揺れる。
だがその直後、スタッフの声が廊下から響く。
「綾川さん、そろそろ本番入りまーす!」
玲奈はふと我に返り、数歩後ずさった。
「……行かなきゃ。またね」
彼女は振り返らずに部屋を出ていく。
悠人はひとり取り残され、鏡の中の自分に問う。
(これは、ただの“見学”だったのか?)
いや――違う。
これは確かに、ふたりにとっての**“最初の逢瀬”**だった。
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