第7話「彼女の隣に、僕の名前はない」
公の世界では、彼女の隣に立つのは、僕じゃない。
それが“秘密の夫婦”の宿命だと、分かっていたはずなのに――。
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■Scene 1:玲奈、表紙にひとりで映る
映画『ひかりの声』の全国公開が迫り、
玲奈は連日インタビューと表紙撮影のスケジュールで動いていた。
ある日、書店に並んだ映画雑誌。
表紙には、大きく「綾川玲奈、覚醒」とタイトルが載っており、
隣には“期待の新星・水島和輝”の名前が小さく添えられていた。
悠人は雑誌を手に取り、ページをめくる。
玲奈が語る“現場での思い”や“役作りへのこだわり”。
監督についてのコメントもあったが、それはあくまで“他人行儀”だった。
「彼の演出は、鋭いけれど温かい。だから私は、迷わず飛び込めました」
(……“彼”。名前も、夫とも書かれていない。
当たり前だ。わかってる。でも――)
悠人は手にしていた雑誌を静かに閉じた。
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■Scene 2:玲奈の気づきと、不器用なフォロー
その夜、帰宅した玲奈がリビングで悠人の姿を見つけた。
「ただいま。……雑誌、見た?」
「うん。買ってきた。玲奈さん、すごく綺麗だった」
悠人の言葉は、どこか“壁”を作るように平坦だった。
玲奈はテーブルにバッグを置き、そっと近づいた。
「……本当は、あなたの名前、出したかった。
でも、事務所のマネージャーにも止められて……」
「いいよ。わかってる。“綾川玲奈”を守るためには、それが一番だって」
そう言いながらも、悠人の手は彼女に触れようとしなかった。
玲奈は少し唇をかみ、勇気を出して言った。
「じゃあ――今だけは、“私の夫”になってもらっていい?」
悠人が少しだけ顔を上げ、玲奈を見つめた。
「……うん」
その一言に、玲奈はそっと寄り添い、
彼の首に腕を回して、静かに唇を重ねた。
表には出せないキス。
けれど、“心に刻む”ためだけの、愛の証。
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■Scene 3:すれ違いの始まり、そして選ぶ言葉
その夜、ふたりはベッドで背中合わせに横になっていた。
沈黙が長く続く。
言葉をかけることも、触れることもできずに――
でも、玲奈の小さな声が届いた。
「……あたしね、たぶん、まだ怖がってる。
あんたを“私の隣”に立たせること。
それは“覚悟”じゃなくて、“守りたいから”なんだ」
悠人は背中越しに微笑んだ。
「……僕も同じ。
隣に立てなくても、玲奈さんの後ろで、ちゃんと支えるよ」
(でも、本当は……隣に立ちたいよ)
その言葉だけは、まだ口にできなかった。
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