第9話「選ばれた未来」
――誰にも言えない“夫婦”が、誰よりも強くつながっていた。
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■Scene 1:映画祭ノミネートの知らせ
上映会から数週間後。
悠人の元に、ある一本の電話が入る。
「東京学生映画祭、最終ノミネートに選ばれました。
『朝が咲くころ』、映像とナレーションの完成度が非常に高いと評価されています」
受話器越しの声に、悠人はしばらく言葉が出なかった。
(玲奈さん……本当に、あなたの声のおかげだよ)
スマホを置き、リビングで脚本を書いていた玲奈に報告する。
「玲奈さん、『朝が咲くころ』、映画祭にノミネートされたよ!」
玲奈はペンを置き、微笑んだ。
「……ほんとに? すごいじゃない。ねぇ、私の名前は?」
「……伏せたまま。でも、あの声に気づく人は、たぶんいると思う」
玲奈は静かに頷いた。
「いいの。私は“あんたの作品の一部”でいられたことが嬉しいの」
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■Scene 2:玲奈に届く、主演オファーの山
その頃、玲奈の事務所には各社からの主演オファーが殺到していた。
中でも注目されたのは、大手配給による国際共同制作のヒューマンドラマ。
キャッチコピーは――
「生きるとは、声を与えること。」
千田マネージャーが報告する。
「海外ロケあり。期間は約3か月。
出演条件としては、“生活の一部を密着される可能性”があります。
……いけますか?」
玲奈は一瞬黙り、そして口を開いた。
「……私ひとりだったら、行ってた。でも今は――」
「旦那さんのことも、ですね」
玲奈は頷いた。
「彼の未来を邪魔したくない。でも、自分の夢を捨てたくもない。
……ただ、私、“女優”として、あの子の隣に立ちたいの」
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■Scene 3:静かな夜の会話
その夜、自宅のダイニング。
湯気の立つ味噌汁の向こうで、玲奈が言った。
「悠人くん。私、少しだけ遠くに行っていい?」
「……どれくらい?」
「たぶん、3か月くらい。ヨーロッパで映画の撮影があって……
ちゃんとマネージャーにも相談して、答え出したの」
悠人は、味噌汁の器を置いた。
「……僕、玲奈さんがいなくなるの、寂しい。でも、それ以上に……
その映画に出てる玲奈さん、きっと誇らしい。
……応援したい。心から」
玲奈の目が潤む。
「ありがとう。じゃあ、離れてる間、毎晩、ビデオレター交換しよう?
“あなたの一日を、私に演出して見せて”って」
悠人は笑いながら頷いた。
「OK。僕が監督、玲奈さんが視聴者。これ、最高の夫婦関係かも」
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■Scene 4:出発の朝、秘密のハグ
空港ロビー。
玲奈は帽子を目深にかぶり、サングラスをしていた。
誰にも気づかれないよう、悠人と少し距離をとって並ぶ。
搭乗直前。玲奈が一言だけ呟く。
「ねぇ、最後に……夫として、抱きしめてくれる?」
悠人は一歩近づき、誰にも見られないように彼女を静かに抱きしめた。
「行ってらっしゃい、玲奈さん。
僕、家であなたの声、毎日聴いて待ってるから」
玲奈は微笑み、そっと彼の耳元で囁いた。
「帰ったら、また“濃いめのキス”、お願いね」
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