第2話「偶然に見せかけた、運命」
――“偶然”なんて、信じていなかった。けれど、あなたがそこにいた。
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■Scene 1:その背中を追って
都心のロケ地にて。
玲奈は、自分を一瞬だけ見て通り過ぎた青年の後ろ姿が、なぜか頭から離れなかった。
記憶の中にある筆跡、あの原稿用紙、手紙に添えられていた自己紹介の文。
「……まさか」
玲奈は帽子を深くかぶり、カバンを肩にかけ直して、その青年――神谷悠人の後ろを追いかける。
信号待ちの横断歩道、駅へと続く歩道橋、そして……
公園の片隅、ベンチにひとり座り、スケッチブックを膝に乗せてペンを走らせる姿。
玲奈は数歩手前で立ち止まり、声をかけようとするが、喉が詰まる。
だがそのとき、悠人が顔を上げた。
「……!」
玲奈と、目が合った。
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■Scene 2:沈黙と、風の音
「あ……すみません、じっと見てしまって」
玲奈は取り繕うように笑った。
しかし悠人の目には、驚きと戸惑いと、何よりも――信じられないという想いが溢れていた。
「……綾川、玲奈さん……ですよね?」
玲奈は笑って頷いた。
「バレちゃったか。こっそり散歩中だったんだけどな」
悠人は立ち上がって深く頭を下げた。「本物に、会えるなんて……」
玲奈は少し微笑んで言った。
「ねえ、神谷悠人くん」
「……!」
「あなたが書いたファンレター、読んだわ」
悠人の目が大きく見開かれた。
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■Scene 3:一通の手紙がつなげた時間
公園のベンチに、ふたり並んで座る。
玲奈は静かに語り出す。
「正直、あの手紙……いままでで一番、心に残ったの。誰かに芝居を届けられたって思えたの、久しぶりだったから」
悠人はうつむいたまま、小さく息を吐く。
「……本当は、出すつもりじゃなかったんです。自己満足で終わらせるつもりだった。でも、最後に思い切って出してみたら……」
「届いたよ。ちゃんと、私の中に」
玲奈の声は優しかった。それが却って、悠人の胸に刺さる。
「――こんなに嬉しいのに、どうすればいいか、わかりません」
彼は言った。
「僕なんかが、あなたとこうして座って話してることが……夢みたいで」
玲奈は少しだけ遠くを見つめながら呟く。
「私も、夢みたいよ」
「え?」
「こんなにまっすぐな人に出会うなんて……って」
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■Scene 4:運命の歯車が回る音
日が暮れ始めた公園。
玲奈が立ち上がる。「そろそろ、帰らなきゃ。マネージャーに叱られちゃうから」
悠人も立ち上がり、「今日は、本当に……夢のような時間でした」と深く頭を下げる。
玲奈は名残惜しそうに微笑んで、ふと立ち止まった。
「神谷くん、映画が好きなのよね?」
「……はい。将来、映画監督になりたいです」
「じゃあ、今度――演技の現場、見に来てみる? 撮影、見学できるかもしれない」
「……!」
悠人の目が、信じられないというように輝いた。
玲奈はウインクして、小さく囁いた。
「……内緒よ。これは“オトナのズル”ってやつだから」
そして彼女は、夜の街へと歩き出す。
悠人は、ただその背中を――もう一度、心から“推す”気持ちで見つめていた。
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