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特別編『君の教室で、キスを教えて』


これは特別編⑴です。




――「サプライズって、ちょっとだけ反則でしょ?」



■Scene 1:突然の来訪


都内某・映画専門学校。午後の演出授業。


教室ではいつも通り、学生たちがディスカッションをしていた。


「じゃあさ、このシーンの感情導線、演者にどう伝える?」

「“泣いてください”だけじゃダメだよね。状況と背景を……」


そのとき――


「こんにちは」


ドアの向こうから、透き通る声。

黒のパンツスーツ、上品な口紅、まっすぐな立ち姿。


綾川玲奈。

現れた瞬間、教室が一瞬止まった。


「……え?」「本物?」「嘘でしょ、なんでここに!?」

「やば……え、え、写真いいのかな……え!?」

「おい神谷、女優に似てる人が……え、お前なんで俯いた!?」


悠人はその場で固まっていた。


玲奈は悠然と前に進み、講師に丁寧に頭を下げる。


「今日は“特別ゲスト”として見学に来させていただきました。現場で若手を教える機会も多いので、学校の現場を知っておきたくて」


学生たちは半信半疑のまま、興奮気味に小声を交わし続けていた。



■Scene 2:マネージャーの質問


授業の合間。玲奈と共に来ていた千田マネージャーが、控えめに耳打ちしてきた。


「……玲奈さん。正直に聞きますけど、旦那さんって……まさか、ここにいます?」


玲奈は驚き、そしてふと笑う。


「……ふふ。なんで分かったの?」


「そりゃあんなに顔を赤くして俯いてる生徒、あの子しかいませんって」


玲奈は目だけで悠人を追いながら、静かに呟いた。


「彼、ほんと分かりやすいんだもん」



■Scene 3:口パクのふたり


授業再開。


玲奈は講師の横に立ち、学生たちの演技指導を見学しながら、的確なコメントを加えていく。


「そこ、呼吸が浅いわ。泣くシーンでも、感情よりまず“吸って”」

「怒りは拳じゃなく、背中に出るの。背筋が張るだけで人間は強く見える」


学生たちは感嘆し、ひかりも「やっば、本物の女優の言葉……刺さる……」と感涙。


そんな中、玲奈は悠人の方向を見て口パクする。


「(なんで来たの……?)」


悠人も焦ったように口パクで返す。


「(いや、それ俺が聞きたい……!)」


笑いをこらえながら、玲奈は悠人にそっと1本のペンを渡した。


そのペンのキャップには、小さく刻まれていた。


「夫婦限定:応援許可証」


悠人は驚きながらも、そっと笑う。


授業の最後、玲奈は各グループのスクリプトに一言ずつアドバイスを書きながら、悠人の原稿にはこう書いた。


「“演じる”と“生きる”の狭間で揺れる主人公。あなた自身みたいね。

でも、信じてる。あなたは、きっとどちらも救える人だから」



■Scene 4:夜、寝室にて


その夜。


別荘に戻った玲奈と悠人。

ベッドの上で並んで横になりながら、互いの顔を見つめ合う。


「……驚いた?」


「驚いたどころじゃないよ。心臓止まるかと思った」


玲奈は笑って、悠人の胸にそっと手を置いた。


「でも、嬉しかったでしょ?」


「……うん。世界一、自慢の妻が来てくれたから」


玲奈は悠人の頬に唇を寄せた。


そして――

ゆっくりとキスを交わす。


深く、柔らかく、確かめ合うように。

言葉も照れも要らない、“夫婦”のキスだった。


「……こういうサプライズなら、またやってもいい?」


「……うん、何度でも」


その夜、ふたりは肩を寄せ合いながら、何も言わずに眠りについた。

まるで――教室で交わした、あの日の視線の続きのように。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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