第5話「胎動と、心の震え」
■Scene:静かな朝、玲奈の掌に感じた“奇跡”
6月の朝。
玲奈はダイニングテーブルに向かってゆっくりとした動作でカップに紅茶を注いでいた。
お腹は以前よりふくらみ、ワンピースの上からでもその存在がはっきりとわかるようになっていた。
――と、その時だった。
「……っ」
ぴくん、とお腹の内側から何かが動いた気がした。
玲奈:「……今の、なに?」
驚いたように手を添える。
再び、ぴくん。小さな、小さな鼓動のような動きが、確かにあった。
玲奈:「……もしかして、これが……胎動?」
驚きと感動が混ざったような微笑み。
彼女は急いでスマートフォンを手に取り、保存していた連絡先を開いた。
玲奈(悠人……今すぐ帰ってきてとは言えないけど、これ……言いたい)
でも電話はせず、そっと手をお腹に戻して呟く。
玲奈:「あなたたち、ちゃんとここにいるんだね」
⸻
■Scene:悠人の帰宅、そして小さな感動の共有
夜。
映画学校の撮影実習から帰ってきた悠人は、玄関先で玲奈が出迎えてくれるのを見て、柔らかく笑った。
悠人:「玲奈さん、今日も無理しなかった?」
玲奈:「……うん、大丈夫。でも……ひとつ、伝えたいことがあるの」
彼女は静かにリビングへ歩き、ソファに座ると、自分の膝の上に悠人の手をそっと置いた。
玲奈:「今日……初めて感じたの。お腹の中で、ふたりが動いたの」
悠人:「え……?」
玲奈:「たぶん、胎動。小さかったけど、確かに……生きてるって、伝わってきたの」
その言葉を聞いて、悠人の手が少し震える。
目の奥に光がにじんだ。
悠人:「……玲奈さん。俺、本当に父親になるんだね……」
玲奈:「うん。……わたしたち、ちゃんと親になるんだよ」
悠人はそっと頭を玲奈のお腹にあずけると、静かに囁いた。
悠人:「ふたりとも……パパだよ。絶対、守るからね」
玲奈は彼の髪をなでながら、穏やかな声で返した。
玲奈:「頑張ってるあなたが、私は大好きだよ」
ふたりはそのまま顔を近づけ、優しく、甘いキスを交わす。
愛しさが溢れ、涙も溢れ、けれどとても静かで、あたたかい夜だった。
⸻
■Scene:心音の視点――“姉”と“母”の姿を見つめて
数日後、玲奈の検診に付き添ったのは――心音だった。
病院の待合室。玲奈が診察を受けている間、心音はロビーの壁に貼られた「マタニティヨガ講座」や「パパママ教室」の案内に目を通していた。
心音(……玲奈さんが、お母さんかぁ)
遠いようで、すぐそばにある未来。
同じ女優として、先輩として――そして家族として。
玲奈の背中は、これまで以上に大きく、しっかりと見えた。
玲奈が戻ってくると、心音は照れくさそうに笑った。
心音:「……元気だった?」
玲奈:「うん。ふたりとも、順調みたい。……ありがとね、付き添ってくれて」
心音:「ううん。……でもさ、もし私がママになる時が来たら、その時は玲奈さんに色々教えてもらうね」
玲奈はくすっと笑った。
玲奈:「その時は、ちゃんとママ友になる?」
ふたりは、笑顔を交わした。
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