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第3話「最初の“母としての一歩”」


■Scene:静かな午後と、ベビー用品店の中で


その日、玲奈はひとりで静かに街を歩いていた。

少しだけお腹がふくらみ始めた頃。ダボっとしたワンピースにマスクと帽子という、目立たない装い。


駅近くの大きな商業施設に入り、何気なく目に入ったのは――「ベビー&マタニティ用品」の専門店だった。


玲奈(……まだ少し早いけど、見ておいてもいいよね)


ふらりと足を踏み入れる。そこは、カラフルで優しい空間だった。

ベビーベッド、小さな靴、哺乳瓶、母子手帳ケース。

ひとつひとつが、小さな命を迎える準備のためのもの。


そんな玲奈のそばに、若い女性店員がにこやかに近づいた。


店員:「こんにちは、お探しのものありますか?」


玲奈:「……いえ、まだ見るだけなんです。でも……実は、妊娠してて」


店員:「あっ、そうなんですね!何か気になるものがあったら、なんでも聞いてくださいね」


彼女は玲奈の正体に気づいていない。ただ“ひとりの妊婦さん”として接してくれている――それが、玲奈には嬉しかった。


店員:「ちなみに、ご予定日はもう分かってるんですか?」


玲奈:「……双子で、男の子と女の子なんです」


店員:「わぁ、素敵ですね!それなら、双子用のベビーカーや授乳クッションなんかもおすすめです。ちょっとご案内しますね」


玲奈は笑みをこぼした。

芸能人としてではなく、ただ“母になろうとしている自分”として、こんなふうに優しく接してもらえることに――心が、少しほぐれた。



■Scene:電話での報告、静かな決意


帰宅後。玲奈はリビングのソファに座り、深呼吸をしてからスマートフォンを手に取った。

電話をかけた相手は、芸能事務所の女社長。そして千田マネージャー。


電話のスピーカーモードで、2人の声が続けて聞こえる。


社長:「……玲奈?」


玲奈:「はい。お時間取っていただきありがとうございます。……実は、報告があります」


千田:「まさか……」


玲奈:「はい……お腹の中に、赤ちゃんがいます。双子です。男の子と女の子」


沈黙のあと、社長の声がふわりとやさしく響いた。


社長:「……おめでとう、玲奈。大変だったでしょう?仕事との両立も、精神的にも」


玲奈:「はい。でも、嬉しくて……すごく、大切な命なんです」


千田:「……ずっとそばで見てきて、玲奈さんが“母になる日”が来るなんて……嬉しいです」


社長:「玲奈、必要ならすぐに休暇を申請して。妊娠が落ち着くまで、長期休養という形でもいいわ。作品の調整は私たちでやるから、心配しないで」


玲奈の目から、ぽろりと涙がこぼれた。


玲奈:「ありがとうございます……本当に……ありがとうございます」



■Scene:ふたりの夕暮れ


その夜。夕暮れどき、悠人は帰宅した玲奈を出迎えると、すぐに気づいた。


悠人:「……今日、泣いた?」


玲奈:「……うん。嬉しくて」


玲奈は今日の出来事――ベビー用品店での時間、そして事務所への報告をすべて話した。


悠人:「そっか……玲奈さんは、ちゃんと“母親”になっていくんだね」


玲奈:「まだまだ、わからないことばっかり。でも……これからは、あなたと一緒に学んでいける気がする」


悠人はそっと彼女の手を取り、お腹に耳をあてる。


悠人:「……ふたりとも、聞いてる? パパも、頑張るからね」


玲奈:「ふふ……何その言い方」


そして、ふたりは――

未来に向かって、ゆっくりと、温かいキスを交わした。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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