第13話 実家にかえらせていただきます!?
このままで、本当に、いいのかな?
そう考え始めたのは、王宮から戻ってしばらく経ってからだった。
いや、元々考えていてはいたんだけどね?
改めて今のマルクトの状況を目の当たりにすると――やっぱりわたしと結婚するのってまずいんじゃ、と思ってしまったのだ。
王様に報告が終わり、わたしをみなさんに「お披露目」したことで、マルクトの中ではそれなりに落ち着きが出てきた。毎日ごはんを一緒に食べて、寝るときは同じベッドに入って、夜中に抱きしめられたり、額にキスされたり、頬に触れられたり。そういう、恋人めいたスキンシップは増えていったけれど、マルクトはそれ以上のことはしてきていない。
指一本触れないというわけじゃないけれど、そういう“本当の意味で”は、まだだ。
(これは……まだ間に合うのでは!?)
ピコーン!と、わたしの頭の中で光が点いた。
(まだ結婚取り消せるんじゃない? ほら、まだ”白い結婚”ってやつだもんね!)
心の中で思いっきりうなずく。
白い結婚というにはその”白”がちょっとマルクトの色に染まってきている気がしないことも……うん、ないことはない、かな、それは認める。
そうかもしれないけど、でもノーカン、ノーカン! まだ間に合います。
だって、魔力もない、身分もない、顔立ちだってたいしたことない。そんなないない尽くしのわたしが、国の顔みたいなマルクトの隣にいるなんてどう考えても身の程知らずだ。
(このままじゃ、マルクトの足を引っ張ることになる気がする……お世話になったニグラード家にも泥を塗っちゃうし……)
夜、ベッドの中で背中を向けて眠ったふりをしながら、そんな思いがぐるぐると頭を巡る。
(そうだ。―――やっぱりわたし、実家に帰ろう)
そう決意したのは、眠れずに迎えた朝だった。
静かに、静かに、館の廊下を歩く。
まだ夜明け前。使用人たちの足音もまばらな時間だ。あらかじめ荷物をまとめた小さな鞄を抱えてそろそろと歩く。
(ありがとう、マルクト。でも、絶対にわたしと結婚なんてしたら、きっと後で後悔するよ……!)
不釣り合いだもん。
見知らぬ誰かと、お幸せに!!!
そっと心の中でつぶやき、裏口の戸に手をかける。
そのときだった。
――がちゃん。
「えっ……?」
裏口の戸を開いた先は、外ではなかった。
まるで見覚えのない黒い石壁と古い魔術陣が刻まれた部屋。窓もなく、空気はひんやりとしている。
ろ、牢屋???!!!
そして重い音を立てて背後の扉が閉まった。
振り返ると、そこには――
「……リーヴェ」
漆黒の瞳。プラチナブロンドの髪。仕事用の軍服みたいな黒のローブを纏った、冷たい気配のマルクトがそこにはいた。
普段の柔らかな笑みは消えていて、けれど怒っているわけでもないみたい。
ただ、その表情は静かだった。
「ま、マルクト……」
「リーヴェ。なんですかその荷物、その恰好。それにその顔は」
「ごめんなさい……」
とりあえず謝った。
悪いとは思ってる。だって挨拶もせずにこっそり逃げようとしてたわけだからね!! でも話したところでわかってくれそうになかったし……。
「ここは俺の『封印の間』です」
「俺の?」
「はい、魔術師が自分の魔力を練り上げてつくる空間ですね」
「……」
魔術師って何でもできちゃうの?? 唖然としているわたしの顔を見て、マルクトは口元だけで笑った。
「ちなみに外からも中からも、俺以外には開けられません」
「……はい?」
「少し、ゆっくり話をしましょう。リーヴェ。俺達には夫婦の話し合いが必要みたいですね」
じり、と下がれば石壁に背がつく。
逃げ道はない。
彼の声は、ただ静かに、場違いに優しく響いた。
「俺が、あなたを手放すと思いましたか?」
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